「冒険の書四十九:チェルチ、奇襲に成功せり?②」
~~~チェルチ視点~~~
これはさすがに死んだ。
と思ったあたいだけど、同時にここで諦めるわけにはいかないな、とも思ってた。
だって、こいつらって馬車隊の人たちを狙ってるわけだし。
今はあたいに狙いが向いてるけど、それが終わったらたぶんまた馬車隊の人らが狙われる番だし。
「せっかく助けにきたのに、ここで犬死にしてたまるか。コボルドだけに……って、上手いこと言ってる場合じゃないなっ」
あたいは歯を食い縛ると、生き残る方法を探した。
大鎌を出して戦うか?
いや、この人数相手に肉弾戦じゃ勝ち目がない。
空中から魔弾をぶっ放す?
いや、連中には弓使いや魔術師もいる。
結局数の暴力で撃ち落とされる。
もっと他の、誰も思いつかないようなすんごい奇策が必要だ。
「何かないか何かないか…………あ」
キョロキョロしてるうちに、足に例の赤いコボルドがぶつかった。
コボルドたちの君主……つまり一番偉い犬か……ん?
「これだあぁぁぁぁあー!」
あたいは快哉を叫ぶと、すぐに芝居に移った。
「うっ、急に目まいが……? さっき頭を打ったダメージが遅れてきたのか……?」
ふらふらあ~……と揺れてから、パタリとその場に崩れ落ちた。
「……なんだこいつ、死んだフリかワン?」
「そんなことしても無駄だワン。我らコボルド族は執念深いことで有名だワン」
「どこへ逃げようとも、この鼻で見つけ出してやるワン」
口々に恐ろしいことを言ってくるコボルドたちはともかくとして、あたいは『魂魄支配』を使った。
相手の心と体を支配するとっておきの技で体を霊子に変換、コボルド君主の中にするりと入り込んだ。
「ぬお、急にメスが消えたワン?」
「ど、どこへ隠れたんだワン?」
「バカな……匂いまで消えたワン?」
コボルドたちはキョロキョロ辺りを見渡したけど、君主の中にいるあたいには気づかない。
霊子になった以上、匂いだってしなくて当然。
「ふうう~、ひどい目に遭ったぜ」
そんな中であたいは――君主になったあたいはむくりと立ち上がった。
「「「なっ……!?」」」
君主が突然立ち上がったことで、コボルドたちはさらに混乱した。
「君主、生きてたのかワン?」
「反応ないし、てっきり死んだものかと……ワン」
「はっはっは、ひどいな。人を勝手に殺すなよ」
「むむむ……君主、なんだか様子がおかしいワン?」
「そういえば、喋り方が変だワン?」
ありゃ?
コボルドたちが不審そうな目を向けてくる。
「……あ、そっか。そうだった」
こいつらには独特の訛りがあるんだった。
語尾にワンをつけない奴は同族認定されないんだった。
「ワン、ワン……と、こんな感じかな。えっと、強烈な頭突きをかまされたせいで調子が悪いんだワン」
「おお、元に戻ったワン」
「君主、本当によかったんだワン」
素直なコボルドたちはあたいの嘘にあっさり騙され、大歓声。
尻尾をぶんぶん振って喜びを示してる。
ふっふっふ……チョロいチョロい。
しょせんはワンコロだな。
「しかし、さっきのメスはどこに行ったんだワン?」
「君主の恨み、草の根分けても探し出すワン」
「まあまあ、もういいだろうそれは……だワン」
普通の魔族は『魂魄支配』なんて知らないはずだけど、これだけの数のコボルドがいるなら、中には偶然知ってる奴がいるかもしれない。
面倒なことになる前にと、あたいはみんなの注意を他に逸らした。
「あたいが……俺さまが無事だったのだからそれでいいワン。今すべきはどうでもいい犯人探しなどではなく……」
「馬車の連中を襲うんだワンね?」
「さすがは君主、任務に忠実だワン」
「俺に『さま』をつけるの、カッコいいワン。ヒュウ~だワン」
自分の呼び方が「俺」なのか「私」なので「余」なのかさっぱりわからないので適当だったけど、いい風に勘違いしてくれて助かった。
「その任務に関してだが、大事なことを忘れていたワン」
「大事なこと……ワン?」
「そうだ、ラーズさまはこう言っていたのだワン」
君主の記憶によると、直属の上司である『魔戦将軍ラーズ』はパラサーティアへの補給路を断つように言っていたみたいだけど……。
「ある程度成果を出したら、戻るように言われてたのだワン」
「戻る? どこへだワン?」
「成果はあまり出てない気がするワンが……」
盛んに首を傾げるコボルドたち。
ま、たしかに。
コボルドたちが初めて襲撃したのがこの馬車隊なので、実際成果は上がってないんだけどな。
「うるさいワン、戻ると言ったら戻るのだワン。俺さまたちの故郷の森に帰るのだワン」
「は、はいいいい! だワン!」
「君主さま怖いんだワーン!?」
君主の命令は絶対! なコボルド族らしく、あたいの命令に逆らう者は誰もいなかった。
命令は即座に群れ全体に広がり、コボルドたちは一斉に帰り支度を始めた。
ちょうどそこへ――ディアナの奇襲が決まった。
「き、奇襲だワン!? ものすごい強いエルフのメスが突っ込んで来るんだワン!?」
「まったく止められないワン!? 君主さま、逃げるんだワーン!!」
腕のひと振りで一匹を殴り殺し、足のひと振りで一匹を蹴り殺す。
鬼神みたいな暴れぶりだ。
ルルカやリリーナ、ゴランたちも頑張ってはいたが、ハッキリいって格が違う。
帰り支度をしていたコボルドたちは一気にやる気を失って、戦線はあっさりと崩壊した。
「ふう……ここまできたら、あたいの仕事は終わりだな」
「あれ? 君主さま、どうして倒れてるんだワン?」
「みんな! 君主さまを運ぶんだワン!」
あたいが抜けたことによって再び気絶状態になった君主の周りに、コボルドたちが慌てて集まって来る。
空に飛んで逃げるあたいに注意を払う奴が何匹かいたけど、「あんなところにさっきのメス……って、それどころじゃないワン! 逃げるんだワーン!」という感じで、君主を護りつつみんなで逃げようという流れになったみたいだ。
「やれやれ、危なかったぜ」
窮地を切り抜けたあたいが、空をふよふよ浮いていると……。
「おう、よくやったなチェルチ」
コボルドたちの返り血で真っ赤に染まったディアナが、いい笑顔を向けてきた。
頬を染め、拳をぶんぶん振り回し、いかにも「戦闘楽しいのう♪ もっと派手に戦いたいのう♪」という感じ。
『誘惑する悪魔』であるあたいすら嫉妬するような、極上の笑顔を浮かべやがって……。
「こいつ……あたいがどんな目に遭ったかも知らず……っ」
急にむかっ腹が立ったあたいは、ちょっと意地悪してやることにした。
「よくやったな、じゃないワン」
「なんだ、どうした急に。というか、語尾がおかしくないか?」
「ふうーんだ、自分の胸に聞いてみやがれだワン」
べえーっと舌を出して、何が起こったのか説明しないで。
聞かれるたびにそっぽを向く、子供みたいな意地悪を楽しんだ。
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