「冒険の書四十四:まさかの移動手段」
パラサーティアが『ダーク・レギオン』に狙われている。
その情報を知ったチェルチは血相を変えた。
「今すぐやめさせろ!」とか「やめさせないとぶっ殺すぞ!」などと叫んでベルトラを脅すが、脅すだけでなく何発も殴ったが、そんなことをしても意味がない。
「チェルチ、こいつは下っ端だ。なんの権限もない」
ワシが間に入るが、チェルチの勢いは止まらない。
「そりゃわかってるけど……っ! でも!」
「とにかく落ち着け」
「ああもうちくしょうっ!」
チェルチはピュルルピュルルと雷の魔術を放つと、地面や壁などを理由なく撃って八つ当たりした。
正直、こいつがここまで馬車隊の連中を好いているとは思わなかった。
悪魔貴族が、ちょっと交流しただけの人族をそこまでとは。
飯をくれたり優しくしてくれたりといったことが、そんなに嬉しかったのだろうか。
あるいはワシのまだ知らない、こいつなりの事情があるのだろうか。
「状況を整理しよう。まずは馬車隊の現在位置だ」
馬車隊と別れてからもう半日近くがたつ。
別れ際のマネージのあの口ぶりからするに、よほど急いでいたようだから、今ごろは相当先に進んでいるはずだ。
とはいえ、さすがに……。
「まだパラサーティアへは着いていないはずだ。ならばまだ、決定的な事態には巻き込まれてはいないはずだ。その役割を担っていただろうヴォルグは、他ならぬワシらが倒したのだから」
「そんなの、同じ役割の奴がいるかもしれないだろうが!」
「む……それはたしかにその通りだな」
本気でパラサーティアへの支援ルートを断つつもりなら、ヴォルグたちの隊のようなものが他にもあって当然。
そいつらと今の馬車隊が遭遇したとしたら、無事で済むとは思えない。
「となると、やはり必要なのは移動手段だな。しかもなるべく速くワシらを運べる移動手段」
「そうだ、あたいが飛んでいけば……っ」
「いかにおまえとて、ひとりでなんとかなる話ではあるまい」
放っておけば今にもひとりで飛んでいってしまいそうなチェルチの腕を捕まえたワシは。
「おいレナ。この村に馬はいるか?」
両親と一緒にやって来たレナは、しかし首を横に振った。
「いないよ。牛はいるけど……牛だし」
「そうか、牛か……」
荷物をたくさん運ぶにはいいが、移動速度という意味では、牛はあまりに遅すぎる。
「馬がいたとしても、おそらく農耕用だろうしな……」
移動用の馬と農耕用の馬とでは、種類も育て方も違う。
人を乗せて運ぶには適さないのだ。
「種類が違うか……んんん?」
ふとワシは、いいことに気がついた。
おう、そうだ。これは盲点だった。
「おい、ベルトラ」
「なんでしょうか、我が女王よ」
「女王はやめろ。それよりおまえにやってもらいたいことがある。ベルトラ。偉大なるリッチであり、アンデッドの王たるおまえなら、『あの馬』を用意できるよな?」
「はっ、もちろんでございます」
変態だが頭はいいベルトラだ。
わずかなやり取りでワシの意図を正確に見抜いたのだろう、モゴモゴと呪文を唱え出した。
そしてすぐに、ベルトラの後ろに白い霧が発生した。
霧は変形し、瞬く間に馬の姿を象った。
青白い体、青白いたてがみ、眼窩には青白い光。
冥界の騎士が乗るとされるアンデッドの馬が七頭、出現していた。
「『幽霊馬』七頭、こちらに用意させていただきました」
幽霊馬は普通の馬の二倍の速度で走ることができる。
痛みや疲れという感覚もないので、一切休むことなく走り続けることができる。
これなら馬車隊へも、その先にあるパラサーティアへも高速でたどり着くことができるというわけだ。
「もちろん我に直接乗っていただいても良いのですが……」
「いや遠慮しとく」
「ディアナ様の可愛らしい臀部を背に乗せる日が来ることを、このベルトラ、一日千秋の想いでお待ちしております」
「たとえ世界が滅びたとしてもそれはない」
どこまでも気持ち悪いベルトラはともかく、移動手段は整った。
あとはすひたすら駆けるだけだ――と思っているところへ、レナが話しかけてきた。
「……おねえちゃん、またどこかに行くの?」
別れの気配を察したのだろう、レナは服の胸元をギュッと握って緊張している。
「おう。悪いな、最後まで面倒見られんで」
「ううん、大丈夫。おねえちゃんはみんなの英雄になる人だから、ひとり占めはできないもんね。だから気にせず、がんばって来て。あたしたちはいつまでも待ってるから。そんでそんで、おねえちゃんが戻って来たら、村全体でお礼をするから。その時にはきっと、銅像も建ててるから。だからいつか……」
絶対、戻って来てね。
ツツーッと流れた涙を拭うと、レナは気丈に笑って見せた。
「おう、いつか必ず戻って来るからな。美味い酒と肴を用意して待っておけ。……あ、ちなみに銅像とかはいらんからな? そこだけは絶対、間違えんように」
ベルキアで過去の自分に直面した気恥ずかしさを思い出しながら、ワシは絶対にするんじゃないぞと釘を刺した。
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