「冒険の書三十四:美味そうだ」
オークどもを倒したワシらが次に狙ったのは、十匹いるオルグどもだ。
がしかし、オルグはオークの三倍強い。
ワシか、『黄金のセキレイ』が全員でかからなければ相手できないだろう。
ゴラン・ギランたちが受け持っている分がどうなるかわからない以上、全戦力をオルグに向けるのは少し怖い。
ということで『黄金のセキレイ』には万が一の時のための備えに回ってもらった。
ルルカは馬車隊を護るべく『聖なる円環』の維持に集中してもらい、チェルチがその補佐をする(近寄る雑魚を片付ける。いざとなったらルルカを抱えて飛んで上空に退避する)という形だ。
つまりオルグ十匹はすべてワシのものということであり……。
「ふっふっふっ……これはなかなかに役得だったな」
ワシは笑いながら結界の外に出ると、今まさに結界を破ろうと拳を振り上げているオルグの一匹に向かった。
鋭く踏み込み、腰だめにした拳を打ち込んだ。
「まずは一匹……!」
全力の螺子拳を横っ腹にぶち当てると、オルグは体ごとぶっ飛んだ。
草原の上を玩具の人形のように跳ねると、小高い丘の上でようやく止まった。
「「「「「「ゴアアアァァ……!?」」」」」」
仲間がやられたことに気づいたオルグが、一斉にこちらを見た。
ワシがエルフの小娘であると気づくと戸惑ったような顔をしたが、すぐに自分たちの大好物であることに思いいたると、口の端からよだれを垂らしながら向かって来た。
「ふん、よだれが落ちそうなのはこちらの方だがのう」
ワシはニヤリと笑うと、手近な一体の足を払った。
倒れたところに飛び掛かり、喉を突いてとどめを刺した。
「二匹目……次!」
「ゴアアアァァー!」
思い切り振り回してきたオルグの拳に飛び乗ると、拳→前腕→肘→二の腕→肩と渡り歩いた。
「ゴア……?」
何が起こっているかわからない、といった表情のオルグの顔面を蹴り飛ばした。
オルグは首をぎゅるりとねじ曲げると、そのまま倒れ息絶えた。
「三匹目だ! さあー来い! おまえらも男だろう! タマが付いてるならかかって来んかい!」
「「「「「「ゴアアアァァー!」」」」」」
吠えるワシに、オルグたちはムキになってかかって来た。
瞳に怒りの炎を燃やしながら拳を振り、捕まえようと手を伸ばして来た。
しかしワシは、そのことごとくを躱した。
もとより単純な思考しかもたぬ連中だ。
攻撃は一辺倒で読みやすく、蹴りを放ったり道具を使ったりという知恵もない。
当然楽勝、快勝、圧勝となるわけだが……。
「ん~……さすがにちょっと、飽きてきたかのう~……」
考えてみれば、オルグとは『魔の森』で出会って以来の仲だ。
ここで戦っているのも含めれば、もう三十匹は倒している。
「歯ごたえもないし、飽きるし……味変しないとキツいかのう~……」
などと贅沢な悩みを抱いていると……。
「お~? あちらはどうやら面白いことになっているようではないか」
ふと横を見れば、ゴラン・ギランの受け持っていた側が総崩れを起こしている。
防衛線の整っていない状況でオークとオルグを両方同時に相手をするという愚を犯したようだから、当然といえば当然といえるが……。
「すかさずリリーナたちがフォローに回っているな。さすがだのう」
ゴラン・ギランたちの防衛線が総崩れとなった場合の策も用意してあるという、リリーナの言葉に嘘偽りはなかった。
ゴラン・ギランの部下たちや乗員を戦力に組み入れると、巧みに馬車の配置を変えて三分の一サイズの防衛線を組みなおした。
オークたちをぶっ殺したことで『黄金のセキレイ』側の乗員は士気が高く、それが全体に活気をもたらしている。
「しかしどうも、様子がおかしいな……?」
脳筋バカなゴラン・ギランたちがオークとオルグ合わせて四十匹を抑え込むのは難しいだろうとは思っていたが、正直ここまで早く崩れるとは思っていなかった。
「いったい何があったのだ……?」
目を凝らすと、ひと際大きなオルグがゴランと力比べしているのが見えた。
茶褐色の見たことない肌の色で、背も並みのオルグより頭ふたつ分デカい。
「ユニーク個体……さしずめボスオルグ、といったところかのう?」
ユニーク個体というのは、極まれに魔族が起こす突然変異のことだ。
群れの中から突如強者が現れ、多くの場合はその群れを統率し君臨する王となる。
「なるほど、だからこの状況か」
知性のあるボスオルグが統率しているからこそ、脳筋バカのオークとオルグによる馬車隊の挟撃などという真似ができたのだ。
「なるほどなるほど、こいつはなかなか――美味そうだ」
最後のオルグの首を「ボギンッ」とばかりにねじ切ると、ワシは駆けた。
「待て待て、そんな極上の獲物を独り占めはズルいぞ」
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