「冒険の書二十七:三人組、王都へ!」
ワシらのパーティ勧誘を、チェルチは即答で了承した。
「ホントか!? ホントにあたいも行っていいのか!? 行くよ! 行く行く絶対行く!」
目をキラキラさせ、羽根をパタパタさせてちょびっと浮いて、実に嬉しそう。
「もちろん被害者への慰謝料を払ってからだがな」
「そんなのすぐ終わるよっ。超~頑張って速攻で終わらせるからっ」
よほど一緒に行きたいのだろう、腕まくりして意気込むチェルチだ。
「あとはその姿をなんとかできればだが……。なあ、もっと人っぽくなれんのか?」
「そんなの簡単だよ! なんせあたいは『誘惑する悪魔』だからね! 肉体をイジって大人になるには瘴気がもっと必要だけど! 角とか羽根とか尻尾ぐらいなら簡単さ!」
チェルチがもごもごと呪文を唱えると、角と羽根と尻尾が一瞬で消えた。
高等魔術である『変化の術』を瘴気のみで行っているのだろうか。
さすがは子供とはいえ『誘惑する悪魔』、見事なものだ。
「おお、たしかにこれならわからんな」
「ふっふ~ん。すごいだろう~」
腕組みをし、得意げに胸を反らすチェルチ。
「あ、ちなみにだが。ワシらのパーティは最強を目指しとるから。『これぐらいでいいか』みたいなぬるいこと言わないのが掟だから」
「え、なにそれ怖い」
思ってもみなかったパーティ方針に、固まるチェルチ。
「ほどほどに楽しんだらよくない? 辛いのとか痛いのとか嫌じゃない?」
焦るチェルチの肩を、訳知り顔のルルカがポンと叩く。
「チェルチちゃん。もちろんわたしも最初はそう思ってたよ? でもそれだと、ディアナちゃんが納得してくれないんだ。ダメな子がダメなままなの許してくれなくて、その場でパーティ追放されちゃって、またわたしはひとりぼっちになっちゃうんだ……ううぅっ、怖いよう~。ディアナちゃん、わたしを捨てないでえぇ~っ」
「……あんたら、いったい何があったんだよ?」
「お願いなんでもするから~。イスになれと言われたらイスになるし、イヌになれと言われたらイヌになるから~」
「いや怖い怖い怖い、怖いって」
ルルカの過剰な反応のせいもあり、最初は恐れていたチェルチ。
だが、根が楽天的な性格なのだろう、すぐに簡単に考えるようになった。
「ま、いいか。あたいには秘儀『魂魄支配』があるからな。いざとなったら最強な奴の体を乗っ取ればお手軽に最強になれるってなもんだ」
「最強の相手を乗っ取るのには相応の実力が必要だろうがな」
あの夜だって、デブリは簡単に乗っ取ることができたが、ルルカは乗っ取れなかった。
それはもちろんルルカの聖気が強すぎたせいだが、戦っているワシ本人を乗っ取ろうとしなかったことからもわかるように、ある一定以上のレベルの相手には効かないと考えられる。
「ちぇ~。ま、そうだけどさあ~。ああでも一応、乗っ取れなくても心ぐらいは覗けるんだぜ? 弾かれる瞬間にちょびっと、って感じだけど」
「え」
悔し気なチェルチの言葉に反応したのはルルカだ。
「そそそそそそれってどうゆ~ことかなチェルチちゃん? あああああの時、実はわたしの心を覗いてたってことかな~?」
「なんだよ急に。怖いよ、怖い」
ルルカはしかし、チェルチを逃がさない。
ガシィッとばかりに肩を掴むと、グイと顔を近づける。
「聞いて? これはすご~く大事なことだからよく聞いて? わたしの心を覗いたの? だとしたら具体的に何が見えたの?」
「はあ? そりゃもちろん、あんたのディアナに対するあれやこれや……」
「うわああああああーっ!?」
突然、ルルカが発狂した。
戦杖を構えると……。
「『聖なる一撃』! 『聖なる一撃』!
『聖なる一撃』!」
「ちょ……なんだよ急に!?」
「うるさいうるさいうるさい! やっぱり悪魔貴族は悪い子なんだ! よけいなこと言われる前に輪廻の輪に返さないと!」
「やめろやめろやめろ! そんなん喰らったら死んじゃうよ!」
「殺す気でやってるんだよ!」
「あんたの情緒どうなってんだよ怖いよ! ってうわああああー⁉ こいつ本気であたいを殺しに来てる!? ディアナ助けてえぇぇぇー!?」
追うルルカと逃げるチェルチ。
ふたりの追いかけっこは、眺めるのに飽きたワシが止めるまで続いた。
+ + +
「ハア……ハア……ッ。うう、死ぬかと思った……っ」
「ハア……ハア……ッ。もしバラしたら、本気で許さないからね?」
「わ、わかったよ、わかったからその戦杖を下ろせって」
なおもチェルチを脅すルルカと、ルルカにビビりまくるチェルチと。
ふたりが落ち着いたのを見計らって、ワシは話を始めた。
「ま、ともかくだ」
「ともかくのひと言でまとめやがった……こちとら死にかけたってのに……」
ルルカの秘密(どんなのかは知らんが)を軽々しく口にしそうになったチェルチが悪いので、恨み言はすべて無視。
「最強の『魔法戦士』というのはアリかもな。基本は魔法と大鎌で攻めつつ、『魂魄支配』という大技を隠し持つ『魔法戦士』だ」
「あ、いいなそれ。大技を隠してるって辺りがカッコいい。あたいら『誘惑する悪魔』一族伝説の『災厄の大鎌』ってゆーバカ強女を目指すのはどう?」
「では決まりだな。『魔の森』でレベル上げをして連携をたしかめたあとは……」
「あとは、どうするのディアナちゃん? そういえばわたしも、『最強の武人になる』ぐらいしか聞いたことなかったけど……」
そう、ルルカにはまだ言っていなかった。
本人がまだまだ成長途上だし、おかしなことを言うと不安になるかもしれんとの判断からだが。
ここから先は、ある程度の情報開示が必要かもしれない。
さすがに伝説の『剣魔グリムザール』のことは言えないが……。
「実はな、ひとつ思い出したことがあるのだ。ワシにはたしか『敵』がいるのだ。そいつはたぶん同世代で、『恐ろしく強い剣の使い手』であろうということしかわからない」
「ディアナちゃんってば、敵がいたんだ?」
ルルカは素直に驚き。
「恐ろしくぼんやりとした記憶だなおい」
チェルチは呆れたようにツッコんだ。
「いずれにしろ、最強の敵であることは間違いない。歳は若くても才能があり、実力もある。絶対に人々の噂になっているはずだ」
「簡単に言うと、ディアナちゃんみたいな女の子がこの世にもうひとりいるってこと?」
「ま、女かどうかはわからんがな」
ワシはうなずいた。
グリムザールが女になった姿など想像したくもないが、可能性としてはあり得る。
最期の瞬間に、「ただし……は……ぬからな。……であったとしても……なよ」とか言ってたしな。
あれは転生先のことについて言っていたのかも。
「ゴレッカやチェルチを素手で打倒したエルフの娘ということで、ワシの噂は凄まじい勢いで近隣に広まっている。新聞記事を書く連中などもいたから、いずれ王都にまで広まるだろう。それは向こうも同じはずだ」
ディアナと同じぐらいの年齢の子供であったとしても、その活躍が人々の目に止まらぬはずがない。
「ふう~ん、数ある子供の中からそいつを探すってことか。だったらまあ~、王都に行くのが近道じゃないか? 噂も人も、最終的には王都にたどり着くはずだからな」
「なるほど、王都か……」
チェルチの指摘はもっともだ。
噂と人の中心地にいた方が、グリムザールの情報を集まりやすいはずだ。
「いいか? ルルカ」
「うん! もちろん! わたしはディアナちゃんの行くとこだったらどこでも行くよ! 地獄へだってついて行っちゃう!」
ルルカはあっさり承諾。
「地獄までは嫌だけど、基本的にはいいぜ。にしても王都か。あたいも行ったことないんだよなあ~。きっと美味いものがたくさんあるんだろうなあ~。うえへへへ~」
まだ見ぬ食べ物のことで頭がいっぱいなチェルチも、王都へ行くのに異論はなしの模様。
「よし、そうと決まれば出発だな。『聖樹のたまゆら』の次なる目的地は、王都ハイドラだ」
「「「おおー!」」」
ワシら三人は拳を突き上げると、次なる冒険へ向け気合いを入れた。
三人組、王都へ!
そこに待つのはいかなる子供か!?
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