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【コミカライズ】ドワーフの最強拳士、エルフの幼女に転生して見た目も最強になる!【企画進行中】  作者: 呑竜
「第八章:エルフヘイムへ!」

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「冒険の書二百十五:決死圏!」

 ドロガロンの口内に飛び込んだ瞬間、ワシはすぐに上下を確認した。

 びっしりと生えている歯列を形成するのは牙ではなく、無数の細かなトゲだった。


「牙ではなくトゲ……『肉を噛みちぎる』というよりは『保持して丸呑みする』ための機能ということか」


 ナマズに似ている、ワシの第一印象は間違っていなかったというわけだ。


「つまりマリアベルは噛み砕かれておらず、丸呑みされただけということか。ならばまだ、望みがあるぞっ」


 ワシは床を――口腔こうくうを形成する肉壁を蹴ると、喉の奥にある食道へと進んだ。

 光源のようなものは持ち合わせていないが、ルルカのかけてくれた『理力の鎧リーンフォース・アーマー』の放つ青白い燐光りんこうがあるおかげで、辺りの様子はおおよそ把握できる。


「食道はぶ厚い筋肉で出来ているか……む、ぬるぬると滑るな。強く収縮して獲物を奥へ奥へ呑みこもうとしている。素直に戻るのは難しそうだな」


 足を取られないよう注意しながら、ワシはなおも状況の把握に努めた。

 今までの獲物が暴れた跡だろう、食道には無数の傷がついている。

 やじりや剣の柄、衣服の切れ端などの遺品の残されている中に、マリアベルのものだろう踵の高い靴が転がっている。本人の姿はまだ見えないが、この奥にいるのは間違いなさそうだ。

 この奥――つまりは一番の危険地帯である胃袋に。


「マリアベル!」


 胃袋に突入するなり、ワシは叫んだ。

 暗闇の中、胃酸の放つ熱気がむわっと漂う。

 臭気もものすごく、とてもじゃないが人の生存できる環境ではない。

 

「くっ……なんて臭気だっ。酸もおそろしく強いな。ルルカの術が無ければ即座に溶かされ、死んでいたところだっ」

 

 上から垂れてきた酸が、ルルカの『理力の鎧』と反発してシュウウと煙を上げている。


「た、たすけて……っ」


 暗闇の中から、助けを求める声と共に一本の手が伸びてきた。

 マリアベルのものかと思い反射的に手をとったが、なんのことはないハイデルだった。


「おねがい……ですから……っ」


 酸のせいだろう、高慢ちきエルフはすさまじい形相になっていた。

 自慢の金髪はすべて焼け焦げ、白い頬肉が溶けて赤黒い口腔が剥き出しになり、笹穂のような長耳は軟骨による支えを失い、グニャリと力なく垂れさがっている。

 肩から斜めにずり落ちた『木の皮の鎧(バークメイル)』の隙間から覗くナメクジのようなものは寄生虫だろうか、血を吸ってぷっくりと膨れ上がっている。

 

 どうして逃げないのだろうと思って見ると、ハイデルの下半身は胃壁から生えた触手のような『肉ひだ』に捕まっている。

 ドロガロンほどの巨大生物ともなると、胃壁は薄っぺらい皮ではなくぶ厚い筋肉の塊のようなもの。

 肉ひだには生物を逃がさず捕らえる役割があり、軟弱なエルフの力では抜け出せないのだ。 


「なんだ、おまえか」


 今すぐ助け出し、ルルカに治癒してもらえば生き残れるかもしれないが、そうでない限りは死ぬだろう。

 エルフヘイム有数の一族の嫡男が、ドロガロンの胃の中でむごたらしく溶かされ、人知れず消えて無くなる。

 だが、まったく哀れには思えなかった。


「自業自得だ。勝手に死んでろ」


 ワシは冷酷に告げると、ハイデルの手を振り払って先へ進んだ。

 直後、耳をつんざくようなハイデルの悲鳴が聞こえてきたが、なんの興味もわいてこなかった。


「マリアベル! どこだ!」


 叫びながら、ワシは奥へと向かった。

 収縮する肉ひだをかき分け、垂れ落ちる胃酸を避け、奥へ、奥へ。


「マリアベル! 返事をしろ!」


 叫ぶたびに焦りが募る。

 進むたびに不安が増す。

 もし、マリアベルが死んでいたらどうしよう。

 ハイデルのように胃酸で溶かされ、無残な姿を晒していたらどうしよう。

 

「マリアベル!」


 武人にとって、死は常に身近にあるものだ。

 時に安らぎであり、場合によってはほまれともなる。

 人魔決戦の最中にも多くの同胞があの世へったが、特別泣き叫んで悲しんだりはしなかった。

 ただ粛々(しゅくしゅく)と受け入れるのみだった。


 だがそれは、そいつらが全員大人だったからだ。

 自分の生き死にに自分で責任を持てる大人だったから、静かに見送ることができたのだ。


 マリアベルはまだ子どもだ。

 邪眼というとびきりのスキルを持ってはいるが、ハイドラ王国の誇る勇者候補として戦う道を選びはしたが、死ぬのはさすがに、まだ早い。


 それに、マリアベルはワシの弟子だ。

 わずかな間とはいえ、師弟の契りを結んだ仲だ。

 かつて我が師ドラゴ・アルファが、戦災孤児のワシと結んでくれたように。 

 それをむざむざ、こんなところで……。


「将来有望な弟子を、こんなところで失うわけにはいかんのだ……っ」


 歯を食いしばりながら、ワシは奥へと進んだ。

 進めば進むほどに帰り道は遠くなり、酸の濃度は強くなる。

 もうすでに、ワシ自身の生存すら危ぶまれる状況だ。

 だがそれでも、ワシは退かなかった。


「バカ弟子! 声を出せ! ここにいるぞと叫んでみせろ!」


「…………」


 ワシの声に、わずかな反応があった。

 声のした方に目をむけると、うにゅるうにゅると絡まり合った肉ひだの間から、微かに燐光が漏れているのがわかった。

 駆け寄って肉ひだをめくってみると――いた! マリアベルだ!  


「マリアベル!」


「ししょ……お?」


 さすがはルルカというべきだろう、マリアベルを覆う『理力の鎧』はまだ機能していた。

 肉ひだに押しつぶされ、酸を浴び続けたせいだろうずいぶん光が弱くなってはいるが、マリアベルの体を護りきってくれていた。


 だが――そう長くは保たないだろう。

 あと二、三分といったところか。 

  

「よくやった、よく耐えたぞマリアベル」


 マリアベルを引っ張り出し、小さな体を抱きしめたワシは――


「安心しろ。あとは脱出するのみだ」


 弟子の不安をかき消すべく、ニカッと軽やかな笑顔を浮かべてみせた。

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