「冒険の書二百十一:VSドロガロン!③」
「体の奥深くに刺し込む……待てよ? 勝つ方法はそれだけではないな」
ワシはふと思い出した。
考えてみれば、人魔決戦でも似たようなことがあった。
魔族には色んな奴がいて、それぞれに弱点が異なっていた。
心臓が四つある巨人、二体同時に倒さねば死なぬ双子魔人、千体に及ぶ分裂体の中に一体だけ本物の核のあるスライム……今思い出してもめんどうな奴らばかりで、そのつどそのつど頭を捻って倒す必要があった。
そして、基本はいつも同じだった。
よく似た生物を探すこと。
姿形が似ているということは、弱点も似ているはずだから。
「ドロガロンは竜種だが、泥竜だ。見た目も竜っぽくはなく、ひと言でいうなら二足歩行する巨大なナマズ。弱点もまたナマズに近いとするならば……。狙いは鰓……もしくは内耳といったところか」
鰓は呼吸を司る他、体温調整も行う器官だ。
なんらかの方法で衝撃を与えれば呼吸が乱れ、水棲の魔物のくせ水にに溺れる可能性がある。
内耳は平衡感覚を司る器官だ。
なんらかの方法で衝撃を与えれば天地を失い、水棲の魔物のくせに水に溺れる可能性がある。
「いずれも頭部にある器官だ。狙うには上をとる必要があるが、問題はとった後か。前足を振り回して暴れられたりしたら、そのまま水中に落ちてしまう可能性がある」
ワシはチラリと水面を見た。
今はドワーフでないとはいえ、大量の水を前にすると本能的に胸の奥が苦しくなる。
「水の中……浮かない体……溺死した多くの同胞たち……いやいやいや、何を恐れておる。武人が、水如きを……」
ワシは恐れを振り払うため、仲間たちの奮戦ぶりに目をやった。
恐怖のあまり座り込んでいるマリアベルはともかくとして、チェルチは魔術を連発、ルシアンも光の剣を必死に振るっている。
ルルカはドロガロンに破壊される傍から結界を張り直し続けているし、これはワシも頑張らねば……。
「……ん? 結界? ドロガロンの一撃にすら耐えうる高硬度の壁? ――おい、ルルカ! 水面に結界を張れるか!? 床を張るような感じで!」
「す、水面に床……? ま、まあ張れるかもだけどぉ~……ってあ、そういうことかっ!」
神聖術の連発ですでに疲労困憊といったふうなルルカだが、ワシのアイデアに気づいた瞬間、わっと喜びの声を上げた。
「ディアナちゃんの足場にするのね⁉ わかった、まっかせてっ! んんん~『女神の足跡』!」
ルルカが新たな術を唱えた、と思った次の瞬間。
――ドドドドン!
空中から、無数の力場が降り注いだ。
力場のひとつひとつは円筒形の柱のような形をしており、水面に突き刺さったあとはプカプカと浮島のように浮いている。
浮島はドロガロンの周囲にいくつも浮いており、これなら……。
「本当は攻撃系の術なんだけど、これなら足場にできるんじゃないっ⁉」
「おう、完璧だ!」
快哉の声を上げると、ワシは船から飛び降りた。
ぴょんぴょんと浮島の上を跳ねるように進むと、一気にドロガロンの懐に飛び込んだ。
――ぶるあ……っ!
間髪入れずにドロガロンの前足が落ちてくるのを見切って躱すと、その前足を踏み台にして頭の後ろへ跳び乗った。
「貰った!」
パカパカと開いていた鰓の隙間に、三叉矛をねじ込んだ。
側叉で内部をズタズタにしようと、グリンと捻った。
瞬間、ドロガロンの悲鳴が響き渡った。
――ぶるぎっぃっぃぃぃぃっぃっ~⁉
呼吸器の隙間に金属の塊をぶち込まれた上、容赦なく捻られたのだ。
さすがのドロガロンもたまらず、半狂乱になって暴れ回った。
体を左右に揺すり、両の前足でワシを振り払おうと必死だ。
「こ……これはさすがにヤバいかっ」
窮地に追い込んだとはいえ、丸太よりなお太い前足の攻撃を喰らったりすれば一発で致命傷だ。
ワシは三叉矛から手を離すと、いったん船へと帰還した。
「だが絶好のチャンスだ、一気に畳み込むぞ! ――チェルチ! 雷の魔術を三叉矛に!」
「あいよ! 『呪いの稲妻』」
チェルチの手から放たれた黒い稲妻が、ドロガロンの頭部を襲った。
鰓に突き刺さっていた三叉矛に直撃すると、金属の表面を這うようにして内部へと浸透していく。
――ぎ、ぎ、ぎいぃぃぃぃ~っ⁉
雷が鰓のすぐ奥にある内耳にまで到達したのだろう、辺りには焼け焦げたような匂いが漂い、ドロガロンはバランスを崩して仰向けに倒れた。
手足をバタバタさせて必死に水をかき、まるで溺れているようだ。
「ふん、呼吸と平衡を司る器官を同時に損傷しては、さしもの水の王も溺れざるを得んか」
一気の形勢逆転に、皆の意気も上がりに上がる。
「やったやった! さすがはディアナちゃん! ナマズ竜を倒しちゃった!」
ルルカはぴょんぴょん飛び跳ねて大喜び。
「ふふん、あたいの一撃が効いたんだからな。恩に着ろよディアナ。あと、ご褒美も忘れんなよ」
チェルチは腕組みしてドヤ顔を浮かべ。
「さすがは師匠。竜を倒してしまうなんて……でもこれでは、僕との距離がさらに遠くなって……?」
ワシと並び立つのを目的にしているルシアンは、喜んでいいのか悲しんでいいのか複雑な表情。
「や、やったのか……?」
マリアベルがおそるおそるというふうに顔を上げる。
「待て、まだわからんぞ。絶対に残心を崩すな」
ワシは喜ぶ皆を諫めると、なおもドロガロンを注視した。
「呼吸困難に平衡感覚喪失。普通ならこれで勝負あり。あとは隙を見てとどめを刺せばいいだけだが、相手は竜種だ。この世のあらゆる生物の頂点に立つ存在だ。そう簡単に終わるとは思えんな」
残心――相手の状況や変化に即応できる構え――を崩さずにいると、はたしてそれはやって来た。
――フ・ル・ル――
ドロガロンがパカリと口を開いたかと思うと、単音節の呪文を唱えた。
すると、突如として世界が急変。
川に大波が立ち、辺りに衝撃波が吹き荒れた。
ルルカの結界を吹き散らし、船をギシギシと軋ませるほどの威力を持ったそれは――間違いない、『竜語魔術』だ。
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