「冒険の書百八十九:ハイデルの誤算②」
いよいよディアナの身分が明らかに|д゜)
~~~ハイデル視点~~~
その娘の見た目はミナと同じぐらい、つまり八歳ぐらいだ。
種族がエルフなので見た目どおりの年齢とは限らないが、それでも自分よりは下のはずだ。
だがハイデルは、その娘に得体の知れない迫力を感じた。
(まるで多くの修羅場をくぐり抜けてきた武人のような……? 手を出せばひどい目に遭わされそうな……? いや、何を考えてるんだ俺は。おかしな迫力に騙されるな)
束の間、脳裏をよぎった恐れを振り切ると、ハイデルはエルフの娘を威嚇した。
腕組みをし、文句があるなら思い知らせてやるぞとばかりににらみつけた。
「おい、そこの娘。おまえ今、俺に言ったのか? ゴミだと、あろうことかこの俺に。森林騎士であり偉大なる十六家ピエルラ家の嫡男であるこの俺を、バカにしたのか?」
こう言えば、たいていのエルフは退く。
森林騎士にして十六家の嫡男という肩書きは、エルフ界隈では相当な格なのだ。
だが、エルフ娘は退かなかった。
退くどころか、むしろ真正面からにらみ返してきたのだ。
「森林騎士に十六家? 知らんよ、そんなもの。知らんし、たとえそれらがどれほどの格のものであったとしてもどう~でもいい。大事なのはおまえがこの娘にしたことだ。年端もいかぬ娘を蹴飛ばし、罵り、盗人であるなどとあり得ぬ疑いをかけたことだ。わかるか? そういったことをする者はな、たとえどれほどの格の者であろうが、ゴミでゲスなのだ」
「こっ、こっ、こっ……」
畳みかけるような罵倒の言葉に、ハイデルの視界が真っ白に染まった。
怒りのあまり言葉が出て来なくなり、指差そうとした腕がガクガクと上下に震えた。
「この娘……おまえっ、この俺をバカにしたか? ゴミで、ゲスだと。そう言ったのか?」
「なんだ、頭だけでなく耳まで悪いのかおまえは?」
「~~~~~~~~っ⁉」
ハイデルの脳は、瞬時に沸騰した。
それまで考えていた、「相手は同族だから退けば許してやろう」とか「相手は子どもだから大人の余裕で見逃してやろう」などという発想は粉みじんに砕け散った。
「殺す! 殺す! 殺す!」
ハイデルは背に負っていた長弓を構えると、矢筒から矢を抜き取った。
「殺す! 殺す! 殺す!」
「ちょ、ハイデルさま! それはさすがに……ってかその方もしかしたら……っ?」
「そうですハイデルさま! その方もしかしたらひょっとして……っ?」
ピエルラ家の分家の息子なので身分は同僚だが実際には小間使い――といった関係のエルフの騎士ふたりが焦って止めようとするが、ハイデルはすべて無視。
キリリと弓を引き絞ると、そのまま放った。
「死ぃねえぇぇぇえぇ~!」
それは会心の一撃だった。
今まで何千回となく放ってきた中でも一番といっていいほどの一撃だった。
だったのだが……。
――ピシッ。
「ほい」
エルフ娘は人差し指と中指で無造作に矢を掴むと、そのままくるりと手を回し。
「返すぞ」
ぶんと振った。
矢は目にも止まらぬ速度で飛ぶと、ハイデルの太ももに。
――ザクッ。
思いきりぶっ刺さった。
「~~~~~~~~~っ⁉」
これにはたまらず、ハイデルは尻餅をついた。
「痛いっ、痛いっ、痛いっ! くそっ、なんだこれは⁉ なんだってこの俺が……⁉」
矢は太ももを貫通しており、返しが邪魔をして抜こうにも抜けない。
痛みと屈辱のあまり、ハイデルは叫んだ。
「おいおまえら、この矢を抜け! あとこの娘を捕まえろ! 捕まえて、縄で縛れ! そうしたら俺があとで、この世の地獄を味わわせてやるから……ん? どうした? おまえたち?」
今までなんでもはいはいと従ってきたハイデルの言葉を、ふたりの騎士は無視した。
まったく何も耳に入らなかったかのようにその場に跪くと、ハイデルではなくエルフ娘に頭を下げた。
しかも、自らの胸に交差した両手を当てる最敬礼だ。
「おまえたち……どうして……」
答え合わせは、直後に行われた。
ポカンと口を開けるハイデルの目の前で、騎士のひとりがこう言ったのだ。
「わたくしはカイル・エル・ビオラ。隣にいるのはケイン・エル・ビオラ。共にエルフ十六家のひとつピエルラ家に連なる分家の者にございます。失礼ながら、お尋ねいたします。貴方様はフィオナ・ウル・ノクス・エリオンドール姫殿下であらせられますか?」
ま、こうなるわな|д゜)
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