「冒険の書百八十六:シルヴァリスへ」
マリアベルとルシアンへの教導戦闘を終えたワシとワシらパーティは、その後も順調に旅を進めた。
エルフヘイムのある『深淵樹海』への中間地点にあたる川沿いの街『シルヴァリス』までを、予定通りの半月をかけて進んだ。
毎日遭遇する魔物の群れを倒し、焼き、埋め。倒し、焼き、埋め。
戦いの中でマリアベルとルシアンの弱点を補う方法を教え。
ついでにワシ・ルルカ・チェルチのレベルアップも兼ねながら進んだ。
「うむうむ、順調な旅路よのう~」
馬車の幌の内であぐらをかきながら、ワシがにんまり笑顔を浮かべていると……。
「ディアナちゃんのにんまり笑顔可愛い一生記憶しておきたい~……じゃなくてさっ」
自分で自分にツッコミを入れたルルカが、すかさずワシにもツッコんできた。
「毎日毎日魔物の群れに遭遇してさ。しかもどの魔物も見つけづらい感じのやつでさ。まるでわたしたちを偵察してるみたいな動きをしててさ。ディアナちゃんがそのたび見つけてくれるからいいけど、なんか裏がありそうで怖いというか怖すぎるというか……っ」
自分で言って、自分で怖くなったのだろう。
ルルカは怯えたように自分自身を抱きしめると。
「ぶっちゃけ戦闘が多すぎるんだよっ。おかげでもうレベル百三だよ? エリートクラス(レベル六十六から百)を飛び越して、マスタークラス(レベル百一から百三十五)に入っちゃったんだよ? マリアベルちゃんとルシアンさんなんか百十二で、ここまでくると、ハイドラ王国全体でもそんなにいないレベルだよ?」
「レベルが上がることで何か問題あるか? ワシとおまえの出会った『魔の森』での毎日に比べれば、それほど頻繁というわけでもなかろうが?」
「まあたしかにあれに比べればそうでもないけど……っていうか懐かしいね。わたしとディアナちゃんがふたりきりで過ごしたあの濃密な日々……っ」
「おい話が逸れてるぞ」
頬を染めながら、ワシらの最初の冒険を振り返り始めたルルカの二の腕に、チェルチが平手でツッコんだ。
「そうじゃないだろ。問題はレベルが上がることじゃなくて、それだけの頻度で魔物と出くわしてることだろ。なあ、『深淵樹海』の中ならともかく、ここはまだ街道だぞ。しかも単純に食料として襲ってくるわけじゃなく、こちらを偵察してる感じも見逃せない。あれは明らかに組織的な行動だろ?」
「『闇の軍団』の警戒網に引っかかったんじゃないか、そう言いたいのだろう? こちらを脅威と認識した連中が、情報を集めようと偵察部隊を送り出していると」
ワシの言葉に、チェルチは驚いたように目を丸くした。
「なんだよ、わかってんなら……っ」
「わかっとる。わかった上で、踏み潰して進むしかないこともな」
チェルチとルルカの顔を等分に見ながら、ワシは言った。
「おまえたちの危惧するとおりだ。『深淵樹海』に近づくごとに敵との接触率は増している。数や強さからいっても『闇の軍団』が『深淵樹海』でなんらかの作戦行動を起こしているというのは間違いない。その上で、ワシらは脅威として警戒されていると。そしてな、だからこそワシは、まっすぐ突き進んでいるのだ。なるべくまともな知能のある敵を捕らえ、チェルチの能力を活かすためにな」
「あ……っ?」
そこでようやくワシの意図に気づいたのだろう、チェルチが口元を抑えた。
「そっか、なるべく早く情報を集めたいのは山々だけど、あたいの『魂魄支配』は知能の低すぎる相手だと使えないから……?」
「うむ、無理しておまえの頭がパアになってもかなわんからな。しかしなかなか知能の高いタイプが来なくて困っておったのよ。大コウモリに岩石トカゲにジャイアントワームに……考えてみれば、一番最初の狂猿のユニーク個体が一番知能が高かったかもしれんな。惜しいことをした、殺さなければよかった」
「なんだよディアナ、あたいのことを心配してくれてたのか。そうならそうと言ってくれよな。へへ……へへへへ……っ」
気を遣われたのが嬉しかったのだろうか、チェルチはくねくね身をよじらせて喜んでいる。
「ここらでもうちょっと待って、知能の高い奴が偵察にくるのを待つのもいいが、時間が無限にあるわけではないからな。バカ王子との勝負もあるし、ここはこのまま進むとしよう」
外交官であるデクランがエルフヘイムでの用事を済ませ、帰国する。
それを護衛し、サポートするのがワシらの主目的だ。
ディアナの素性を探るのはあくまで副目的だし、そもそもそれ自体はエルフヘイムで出来るだろうし、ここはスピードを重視しよう。
などと、皆には言えぬ事情について頭の中で考えを巡らせていると……。
「師匠! 師匠! 街が見えたぞ!」
御者席に立っておかしなポーズ(本人曰く「おかしくないもんカッコいいもん!」らしいが……)を決めていたマリアベルが、弾んだ声を出した。
「よかったあ~! ずうぅ~っとお湯に浸かれなかったから、妾自慢の髪がギシギシだったのだ! シルヴァリスは温泉が有名らしいからな! 今日は心ゆくまで浸かるとしようぞ!」
マリアベルのいかにも娘っ子らしい言葉に、これまた娘っ子であるルルカとチェルチが反応。
「温泉あるの⁉ やった、嬉しい~! わたしもどっぷり浸かりたい! 汗を流してのんびり夜空を眺めたい!」
「温泉もいいけど、美味いもんは⁉ やっぱ川沿いだし魚か⁉ 塩焼きに煮物に刺身! 甘いもんとかも売ってるかな!? まんじゅうとか⁉」
きゃいきゃいと黄色い声を出して盛り上がる娘っ子たちを眺めながら、ワシもちょこっとだけ同意した。
「お湯に浸かりながら酒を一杯というのも悪くないのう。旅の醍醐味というものだわい」
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