「冒険の書百八十五:ヴァネッサは嗤った」
~~~ヴァネッサ視点~~~
ヴァネッサの罠に嵌まったカルラは、『素手で暴れるエルフの娘』を探し、見つけ次第報告するよう部下たちに命令を下した。
飛行能力と暗視能力のある大コウモリ、岩になりすますことのできる岩石トカゲ、土中から突如襲い掛かることのできるジャイアントワーム、幻を操るファントムウルフなどなど。
隠密能力に優れた魔物たちによる偵察部隊を広く展開したが、そのことごとくが討ち取られた。
コボルドたちが焼かれて土に埋められた偵察部隊の骨を調べたところ、拳によるものではない鋭利な切断面や、中には石化しているものもあったことなどから、敵の中には『素手で暴れるエルフの娘』だけではなく、『剣の達人』や『石化術使い』などもいると想定された。
さらに言うなら馬車の車輪の跡や、五~六名程度の生活の痕跡も窺えた。
「『素手で魔物を殴り殺す野蛮なエルフ』だけでなく、『剣の達人』に『石化術使い』⁉ しかも魔物を一匹たりとも生かして帰さないどころかご丁寧にアンデッド化まで防ぐ用意周到さまで兼ね備えた五~六名程度のパーティ⁉ おかしいでしょ! どうしてそんな奴らが! このタイミングで! よりにもよってエルフヘイムに向かってるわけ⁉」
次々に上がってくる悲報を耳にしたカルラは、そのたびキレた。
眦を裂き、地団駄を踏み、それはもうキレにキレた。
「――カルラ様。ハイドラ王族の専用馬車を見かけたという情報もあるそうですから、外交使節なのではないかと。それならば強い護衛を連れているのも納得ですし、敗北するのもやむを得ないことかと。決してカルラ様の落ち度では……」
ヴァネッサが落ち着かせようとしても逆効果。
「そういうことを聞いてるんじゃないの! なんで今なのかって話なの! 『闇の軍団』によるエルフヘイム攻略作戦が行われるこのタイミングなのかって話なの! ねえ! もっと前でも、あるいは後ろでもいいわけじゃない⁉ なのになんでこのタイミングで……アタシだけにとばっちりがくるよう絶妙に計算されたかのような……っつああああぁぁぁぁもうっ! もうもうもうっ!」
カルラは髪をかきむしって絶叫したかと思うと、机の上にあったコップをぶん投げた。
コップはちょうど報告に訪れたところだったコボルドの足元で砕け、コボルドが「ひえぇぇ……っだワン!」と悲鳴を上げた。
「まあまあ、カルラ様。みんなも怖がっていますから……」
怒るカルラを口ではなだめながらも、ヴァネッサは内心でほくそ笑んでいた。
(あっははは! バ~カバ~カ! あんたの頭ん中トロールぅ~! あいつに手を出す奴はすべてこうなるのよ! だいたい作戦指揮のセンスがないのよ! 偵察させるにしたって二重三重に保険をかけないと! 囮部隊がヤラれているうちに他の部隊が敵戦力を分析、持ち帰り部隊に情報を受け渡すぐらい徹底してやらないと! 貴重な偵察部隊を失って今どんな気持ち⁉ ねえねえどんな気持ち⁉)
今までイジメられてきた仕返しができていることに興奮したヴァネッサは、思わずニヤけてしまいそうになる口元を隠すように手で覆った。
「……待って、今までどれぐらいの被害が出たのかしら? 何十……何百……?」
(正確には二百二十三よ、それぐらい把握しておきなさいバーカ)
「これ……このままだとアタシの責任……ヤバくない?」
(少なくとも降格。最悪処刑の線もあるわね。プークスクス)
「でも今さら退けないし……退いたら損失確定だし……てことは、偵察とかぬるいこと言ってないで、全戦力を結集して一気に勝負するしかない?」
(完全に賭博狂いの発想ね。もうこいつは終わったわ。いい~気味ね!)
カルラは周辺一帯の地図を机の上に広げると、血走った目で食い入るように眺めた。
そして――ある一点を指差した。
「わかったわ……乾坤一擲の大勝負――ここで仕掛けるわ」
カルラが指差したのはひとつの川。
人族がエルフヘイムへ向かう際には必ず通らなければならない水路の、ちょうど中間地点だった。
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