「冒険の書百八十二:チェルチはふと、疑問に思う」
~~~チェルチ視点~~~
夜、焚き火とくれば食事! 肉! 焼く! 美味い! 大勝利!
……ってとこなんだけど、さすがにその日は気分じゃなかった。
猿たちの肉が焦げる匂いが臭すぎて、さすがのあたいをもってしても食欲がわかない。
馬車と共に風上に移動して、大火事にならないよう火の様子を遠目に眺めながら、細々と携帯食を齧ることにした。
「せめてあれを打ち消せるぐらいのいい匂いが出せたらね~。いつもだったらディアナちゃんが動物を仕留めてきてくれるから、それを焼けばいいんだけど……さすがに今日は無理かな~」
あたいの対面で硬パン(水分を極限まで絞った硬~~~いパン。当然美味くない)を齧りながら、ルルカがしみじみとため息をついた。
ガジガジ、ガジガジ、ガジガジ。
沸かした豆スープに浸してふやかしたりはするんだけど、それでもそんなに柔らかくはならず、味も美味くはないみたい。
常日頃から、旅の楽しみは『ディアナちゃん』と『お食事』と公言してるルルカにとっては大問題だろう(ディアナはいつでも傍にいるからいいじゃんと思うが、旅先でのディアナは違うらしい。何が違うのかはわかんないけど)。
「お猿さんの焼ける匂いで危険だと思ってるんだろうね、鳴き声すら聞こえないもんね」
ルルカが恨めしそうに見上げてるのは、今もなお勢いよく上がり続ける煙だ。
煙の発生源は、当たり前だけど猿たちの死骸。
そのせいだろう、野生の動物はもちろん鳥たちまでもが、あたいたちの近くに寄って来ない。
それだけなら安全だからいいよなって話になるんだけど、食料調達を考えるとな……。
「瘴気ってホントに臭いんだねえ~……ってああぁっ? ち、違うよっ? チェルチちゃんは臭くないからねっ?」
自分で話題にしといて自分で墓穴を掘ったルルカは、わたわたと手を振って否定してる。
ま、いいけどさ。
その話題には慣れたし、ディアナも否定してくれたし。
って、別にディアナは関係ないけどなっ。
単純にあたいを始めとした『誘惑する悪魔』たちの風評被害が我慢ならないってだけの話だしっ。
「……チェルチちゃん? どうかした?」
黙りこくってるあたいを変に思ったんだろう、ルルカがそーっと顔を覗き込んで来る。
「なんか大人しいってゆーか、悩んでるみたいな感じだけど……」
「なんだ、さすがのルルカでもわかるのか」
「むっ……そ、それはちょっとひどいんじゃないかな~? たしかにわたしは人より鈍いし気もきかないかもだけど、仲間の変化とかそうゆーのには敏感なつもりだよ? だってそうでもしないと、いつまた捨てられてひとりぼっちになっちゃうかもしれないから……ううっ、自分で言ってて悲しくなってきた……っ」
「……自分で言って、自分でヘコんでりゃ世話ないよな」
ホントに墓穴を掘るのが得意な奴。
ジョブ『墓掘り』にでも変えりゃいーのに。
な~んて冗談はともかくとして、「さすがのルルカでも」なんて言ったのは照れ隠しだ。
こいつが人の感情を読み取るのが上手いのは、あたいが一番よく知ってる。
ずっと落ちこぼれでずっとひとりぼっちだった分、その辺が人より敏感になったんだろうな。
誰か落ち込んでる奴がいたら明るく話しかけてやれる、気遣いのできる奴なんだ。
んで実際、あたいは悩んでた。
ち、ちなみにディアナのこととかじゃないぞっ。
そうゆーのとはまったく違うからなっ。
「……悩んでるってかさ。なんか変だな、と思ったんだ」
「変って?」
こてりと首を傾げるルルカ。
「だって、考えてもみろよ。あたいたちはまだ、ハイドリアからそんなに離れてないところにいるんだぞ? しかも定期的に騎士団が巡回してる街道の傍だ。なのになんだってあんなのと出くわすんだ? ボスの狂猿以下四十頭の大猿の群れだぞ? みんな、ディアナたちが余裕で倒したから気にもしてないんだろうけど、あれだけで小さな街なら全滅させられるレベルだぞ?」
「そ、そういえば……っ」
ようやく違和感に気づいたんだろう、ルルカは「あっ!」って顔をした。
「これはさ、あたいが元々向こう側にいたからかも知れないけどさ。なぁ~んか、作戦を感じるんだよなぁ~。ほら、ベルキアを出てすぐに出くわしたオルグの群れみたいな感じでさ」
「そ、それじゃあもしかして、またあの時みたいなことが起ころうとしてるのかな? 『闇の軍団』がパラサーティアに攻め込んだ時みたいな?」
あたいの言葉に、ルルカは怯えたような顔で聞いてくる。
「あの時か……」
あの時――『闇の軍団』はパラサーティアへ続く街道をすべて封鎖してた。
近くの村や街も魔物の群れに襲われて、レナの村は半壊、あたいが世話になった商隊のみんなも危うく全滅させられるとこだった。
綿密な計画と準備。
一番下まできちんと届く、支配力。
「うん、まったく同じかはわかんないけど、あれに近いものを感じるな」
あたいは空を見上げた。
夜空はぶ厚い雲に覆われて星ひとつ見えず、川辺にはじっとりと湿り気を含んだ風が吹いている。
まるでその奥に、何か得体の知れない奴が潜んででもいるかのように、不気味に……。
「もしかしたらまた……」
あたいたちの動向を追っていたエーコ……じゃなくヴァネッサが、また悪だくみをしてるのかもしれない。
ってのは、さすがに考えすぎかも知れないけど……。
「このまま進んで、大丈夫なのかなあ〜……」
ボソリとつぶやくあたいの鼻先に、ポツリと水滴が当たった。
「──あ、雨だ」
ポツリ……ポツリ……ポツリ……。
あたいの不安を煽るみたいに、空から雨粒が降り落ちてきた。
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