「冒険の書百八十:教導戦闘④」
「『光の剣』対『オリハルコンの三叉矛』。はたしてどちらが強いか……心躍る対決だわい」
ワシはブンと三叉矛を振ると、腰だめに構えた。
「まず大事なのは長さだが……ふむ、長柄武器だけにこちらが有利だが、そもそもの腕の短さ(エルフの小娘なので)も加味すると五分といったところか」
「リーチが同じだから互角……なんて思わないでいてくれると嬉しいね」
ニヤリと笑うと、ルシアンは真正面から仕掛けてきた。
光の剣を振りかぶり、振り下ろしてきた。
――ギィィィン!
光の刃と三叉矛の柄がぶつかり合い、火花を散らす。
「ほう……火花が散るか。ということは削り取られた金属粒子が燃えているということであり、向こうのほうが硬度は上という証だが……さりとて、そこまで差があるようにも見えんな」
硬度で不利がつかないなら、問題なく戦える。
逆にいうと、他のたいていの武器に対しては強く出られるというわけだから、いかに『光の剣』が凄まじいかがわかる。
「……へえ、光の剣を受け止めるとはやるね」
今までまともに受け止められた経験がないのだろう、ルシアンは目を丸くして驚いている。
「元々ワシのモノではないので来歴は知らぬがな。海神の加護を受けておるらしい、ついでに言うとオリハルコンで出来ておるのだとか」
「なるほどね。そいつは素晴らしい……だが、差がつくのはここからさ!」
ルシアンはいったん剣を引くと、連続攻撃を仕掛けてきた。
――ギャギャ……ギャン!
右袈裟、左袈裟、車斬り。
――ギャン……ギュイン!
中段突き、上段突き。
刃が光なので重さというものが無いせいだろう、斬りにしても突きにしてもやたらと速い。
見た目は大剣なのに、ナイフでも振っているのかと錯覚してしまうようなスピードだ。
「……なるほど、光ゆえに『重さ』がない。だからこの速度が出せるということか」
「そういうこと。ナイフと同じ速さで飛んでくる大剣、驚異だろう?」
「脅威……脅威なあ~?」
ワシは鼻で笑うと、三叉矛を強く振った。
光の刃の上部を、上に弾いた。
――ギャリィィイン!
もちろん、弾いて終わりではない。
穂先をくるり回すと、ルシアンのがら空きになった胴に、石突きをポンと当てた。
「なっ……?」
驚いたルシアンは、慌てて後ろに飛び退いた。
先ほどまで余裕の浮かんでいたその顔は、あからさまに青ざめている。
「い、いったい今なにをしたんだい……っ? 何か特殊な技なのか……っ?」
「特殊も何も、ただの『払い突き』だ。刃を弾いて胴を突く、基本に従っただけよ。もっとも、今回は穂先ではなく石突きにしてやったがな。実戦なら穂先でブスリだ。つまりおまえは死んでおったというわけだ」
「くっ……今のは油断しただけ! もう一度! もう一度だ!」
負けを認めるのが嫌なのだろう、ルシアンはなおも果敢に攻め立ててきた。
斬って、突いて、斬って、突いて。
普通の人間なら一瞬で膾にされているところだろうが、ワシはすべて余裕で受けきり……。
――ギャリィィイン!
再び、光の刃を狙った。
三つ又になった矛先で刃を絡めると、巻いて落とした。
がら空きになったルシアンの脇腹へ、今度は横蹴りをポンと当てた。
思い切り蹴られるよりもよほど屈辱だったのだろう、ルシアンは顔を真っ赤にして怒り出した。
「ぐうっ……今のはなんだいっ? いったいなにをしたんだいっ?」
「刃を絡めて体勢を崩す『巻き落とし』。これもまた基本のキだ」
「さっきからどうして本気でやらないんだっ? いや……教導戦闘だからかっ。ってそうじゃないっ。どうして僕をこんなにも簡単にあしらえるんだっ?」
「『重さ』だ」
「……重さ?」
「先ほどおまえが言っていたように、その剣には重さが足りぬのだ」
完全に意表をつかれたのだろう、ワシの言葉に呆然とするルシアン。
「それはたしかに……いやだが、それがいいところであって……」
「むろんだ。羽根のように軽く、速く、当たればなんでも斬り裂ける。なんだったら相手の武器を破壊することすらできる。それが光の剣の最大の武器であるのは間違いない」
「ならなぜ……」
「だがもし『相手の武器と硬度が同じ』だったら? 相手が『武器の重みを利用した技』に長けていたら?」
「そっ……それは……」
ワシの言葉の意味がわかったのだろう、ルシアンはハッとした表情になった。
「気づいたか。そうだ、光の刃には重さがない。つまり剣の重心は柄にあり、武器としては非常にバランスが悪いのだ。『テコの原理』を利用すればたやすく弾かれ、あるいは巻き落とされる。体勢を崩されてしまえば、あとは相手の思う壺といったわけだ」
「ぐうう……っ?」
痛いところを突かれたのだろう、ルシアンはぐうと唸った。
「あ、あともうひとつ。光の刃の形がグニャグニャと不定形なのどうにかならん?」
光の剣は、瞬間瞬間に長さ太さが微妙に変わっていた。
太くなったり細くなったり、長くなったり短くなったりと、一瞬たりとも落ち着かない。
意図して変えているのではないようだから、おそらくは……。
「ひ、『光の剣』は気を刃に変えるものだから、ずうっと一定の形を維持することは困難なんだ。一流の剣士であったとしてもそれは同じはずで、決して僕のせいではなくて……」
「やっぱりな」
ワシはハアとため息をついた。
「剣のせいにするな。それは単純におまえの気の練り方が甘いだけだ」
「で、でもリーチが変わるのは相手にとってもやりづらいはずで……決して悪い面だけではなくて……」
「自分にとってもやりづらかったら、意味なくないか? 斬ったつもりが斬れておらず、防いだつもりが防げていなかったら死ぬだけではないか?」
「ぐううううっ……?」
「これでわかったか。今のおまえでは、同格以上の相手には絶対勝てない。簡単に言うと『ザコ専騎士』なわけだ」
「『ザコ専騎士』……っ」
よほどショックだったのだろう、ルシアンはガクリとその場に膝をついた。
「まあもっとも、良い部分がそれ以上に多いからのう。そこまで悲観するほどでも……おい、聞いておるか? おい、ルシアン? ルシアン?」
ワシが何度声をかけても、ルシアンは目を閉じたまま反応しない。
「き、気絶しておるのか……? いや……も、もしかしたらショック死したのかっ?」
ルシアンが口の端から血を流し、真っ白に燃え尽きたようになっているのに気づいて、ワシは慌てた。
「さ、さすがに好きな娘にここまで言われたらこうなるか? おいルシアン。落ち着け落ち着け。マリアベル同様に、ワシがおまえのことも鍛えてやるから。世界最強の剣士に仕立て上げてやるから戻って来い。お~いルシアン~っ」
ルシアンが目を覚まし正常に戻るまで、ワシは懸命に声をかけ続けた。
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