「冒険の書百七十九:教導戦闘③」
ルルカとマリアベルが安全な位置まで下がった後、ルシアンとワシは距離を置いて向かい合った。
「素晴らしいお手並みだったねディアナ君。まさかあの『邪眼』を子どものようにあしらうとは。その後の教導も素敵だった。正直、惚れ直したよ。だけど僕を同じように考えてはいけないよ。何せ僕はあのラムゼイ家の長男。この『光の剣』で魔族どもをバッタバタを斬り倒し、いずれは新たな勇者として名を馳せ……」
「――おまえには無理だ、ルシアン」
シャランと髪をかき上げ、相変わらずのウザったい口調で話しかけてくるルシアンの顔が、ピシリと音を立てて強張った。
「な、な……っ」
「というより、そのまま戦えば早晩、無残な死を迎えることになるだろうな」
「ななな何を根拠にそんな……っ。き、ききき君っ、いかにディアナ君でもその発言はだねえ……っ」
先ほどのマリアベルに教えた時の反省を踏まえて最初から優しくしてやろうかと思ったが、こいつは十八歳の、しかも男だから別にいいだろう。
有力貴族の息子、そして『光の剣』所持者として思い上がった部分もあるようだから、まずはその鼻っ柱をへし折ってやるとしよう。
「ほう、許せないならどうする?」
「そ、それは……」
ワシの煽りに、ルシアンはぎゅっと唇を噛んで耐えるような顔をした。
好きな娘(残念ながらワシのことだ)に嫌われたくないのだろう、振り上げた拳の下ろし場所に困っている様子だ。
「おい、勘違いするなよルシアン。今は任務だから仲良く行動してやっているが、本来ならワシらはSクラス生徒同士、勇者を目指すライバルだ。ライバルに挑発され、バカにされたと感じたらどうする? 歯噛みして耐え忍ぶか? 違うだろう、そんな臆病者は勇者になどなれん。本当に勇者を目指すなら――戦って実力を示す。それ以外なかろうが」
この言葉にはさすがにカチンときたのだろう、ルシアンの表情が変わった。
優男のそれから、年相応の男子のそれに。
「……へえ、言うじゃないか」
すっと目を細め、口の端を曲げ。
獲物を狙う獰猛な笑みが、そこにはあった。
「なら証明してあげるよ。僕の実力と、どうして勇者候補と呼ばれているのかを」
言うなり、ルシアンは大剣の柄を手にした。
くるりと軽く振り回すと、柄に嵌まった真珠色の宝石が光を放ち。
――ブォン!
長くぶ厚い光の刃を現出させた。
「ほう……」
ワシは思わず目を細めた。
「ドワーフ族の名工ですら嫉妬するだろう、圧倒的な美しさだな」
「美しさだけではないよ。斬れ味だって世界最高さ」
――ブォン!
――ブォブォン!
空気を斬り裂く音か、あるいは光の刃を構成する元素が大気中の塵を弾く音かはわからんが、ひと振りするたび独特な音が辺りに響く。
「では試してみるとしようか――来い、『海神の怒り』」
ワシの呼び声に応えるかのように、手の内に魔法の三叉矛が出現した。
その身を構成する金属は、神の金属とされる『オリハルコン』。
「『光の剣』対『オリハルコンの三叉矛』。はたしてどちらが強いか……心躍る対決だわい」
ニヤリ笑みながら、ワシは構えた。
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