「冒険の書百七十六:光の剣と邪眼」
マリアベルとルシアンが言い争いを始めたことで隙が生じ、数頭の大猿を取り逃がしてしまった。
大猿自体の実力は頭目であった狂猿には遠く及ばぬし、並みの冒険者でも十分に片付けられる程度だとはいえ、周辺住民に害の及ぶ可能性がある。
ワシが走り、飛行能力のあるチェルチが飛んで追撃をかけ、なんとか四頭を仕留めたものの、すべてを狩ることができたかどうかはわからない。
「とはいえ、他に探す手段が……そうだチェルチ、おまえの『魂魄支配』で適当なのを操ればいいのでは? 大猿でなくても、この辺の地理に詳しい魔物を乗っ取れば効率的に探すことができるのでは?」
「ダメダメ。『魂魄支配』は相手の精神に干渉する術だからさ。あんまりにも頭がパーな奴に干渉したら、影響されてこっちまで頭がパーになっちゃうかもしれないんだ」
「なるほどそれは……さすがにキツイか」
相手の魂を乗っ取る術だ。
それぐらいのリスクはあるということか。
「うぅ~むぅ~……これで終わったと思うしかないかぁ~……。あとできることといえば、周辺の村々やすれ違う馬車に情報を伝えて……」
ワシがうんうんと唸りながら善後策について考えを巡らせていると、マリアベルとルシアンの言い合う声が聞こえてきた。
「……あやつら、まぁ~だやっておったのか」
さすがにカチンときたワシは、声を荒げた。
「おい、いったい何をやっているのだ! 戦いの最中にいがみ合いなどして! 状況を考えろ状況を!」
ワシの怒りに気づいたルシアンは、サッと顔を青ざめさせた。
「す、すまないディアナ君。しかしこの娘が、僕がいるのにも構わず『邪眼』を使おうとしたから……っ」
「何を言うか! 妾の目こそが主戦力なのだから、下々の者がそれを気遣い道を開けるのが普通ではないか!」
「し、下々の者だって……⁉ こ、この僕が……っ⁉」
売り言葉に買い言葉で、再びふたりはケンカを始めてしまった。
双方顔を真っ赤にしての、非常~に醜い言い争いだ。
「君はこの剣がなんであるかを知っているのかい? これはラムゼイ家に伝わる『光の剣』。人魔決戦の際、勇者アレスの従者だった僕の祖父が魔王の間への道を切り開いた伝説の……っ」
「従うぅ~者あぁ~? もったいぶって語るからさぞや素晴らしい功績を残しているのかと思えば、勇者アレスに従って戦場についていっただけえぇ~? というかそもそも、魔王の間への道を切り開いたのはドワーフの拳士ガルムであろうが。戦中のどさくさに紛れて自分のやったことにして得意げに語るとか、恥ずかしくないのかおまえの祖父もおまえも。あとその伝説の『光の剣』とやらもおかしいだろうが、長さも形もグニャグニャと定まらんで、おまえ自身も取り扱いに苦労しておっただろうが」
……う~む。
色々とツッコミどころはあるな。
そもそもアレスに従者はいなかった。
あやつ自身が偉ぶることをヨシとしなかったのもあって、身の回りの世話はすべて自分でやっていた。
自分自身が最強だったから、護衛の類も必要ではなかったしな。
だが、アレスの周りをチョロチョロしている小僧がおったのは事実だ。
名はシオンといっただろうか。
そう言われてみれば髪の色も整った顔立ちも似ているし、案外あれが、ルシアンの祖父なのかもしれん。
人気者のアレスが女どもに取り囲まれないよう露払いのようなこともしておったから、それが魔王の間への道を切り開いた云々……につながっておるのかも。
「そうかそうか、あの時の小僧が所帯を持って……しかもこんなに大きな孫までいるのか」
しかもただの孫ではない。
ちょっと頭はおかしいが、勇者学院のSクラス生徒にまでなっているのだ。
「今後の育ち方さえ悪くなければ、将来の王国を支える人材になることは間違いない。よかったのう、シオン……などとしみじみしている場合ではないな」
ワシは自分で自分にツッコミを入れると……。
――ゴン! ガツン!
争うふたりの頭にゲンコツを落とした。
「ぐあっ……? ディアナ君どうして……っ?」
「ひん……っ? な、なんでこんなことするのだあぁ~……っ?」
頭をかかえしゃがみ込んだふたりは、涙目になりながらワシを見上げてきた。
いったいどうして殴られたのかわからない、といった様子だが……。
「おまえたちがケンカをしている理由はわかった。そしてそれがしょ~~~~~もないことであるのもな。なのでワシが教えてやろう」
「教える……?」
「何をだ……?」
腕組みしてふんぞり返ると、ワシは言った。
「決まっているだろう、敵味方入れ乱れる戦場で最も必要とされる作法をだ。つまりこれから行われるのは『教導戦闘』だ」
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