「冒険の書百七十五:言い争い」
回想シーン突入です。
さて、ちょっと前の話だ。
具体的にはワシがまだ、猿どもの頭目である狂猿と戦っていた頃の話だ。
その見た目からしておそらくはユニーク個体だろうと値踏みし、さぞや面白い戦いができるだろうとワクワクしていたワシだったのだが、実際にはその真逆だったのだ……。
+ + +
「群れの長が我先に逃げるというのもよくないな。というわけで罰を下す――ワシとふたり、命を賭けた一騎打ちの刑に処してやろう」
「ひいぃぃぃぃ~⁉ た、た、助けてくれえぇぇぇぇ~!」
ワシの突進に怯え、半泣きになった狂猿は手近にいた大猿の首根っこを引っ掴むと、そのままワシに向かって投げ飛ばしてきた。
ワシに当たればヨシ、当たらなくても足止めできれば、その隙に逃げられるとの判断だろうが……。
「ええい、雑魚は邪魔だ!」
ワシは飛んできた一頭を回し蹴りで蹴り飛ばした。
狂猿を逃がさぬよう、すかさず距離を詰めようとしたのだが……。
「近寄るな! 近寄るな!」
狂猿は、今度は別の一頭を投げ飛ばしてきた。
「くそっ……めんどうな!」
躱して狂猿に迫ろうにも、大猿のサイズがデカすぎる。
しかもスピードも速いし、エルフの小娘であるワシの体をもってしても、避けて通るのは難しい。
なのでしかたなく、ワシは再び大猿を蹴り飛ばした。
そして狂猿を逃がさぬよう、再び距離を縮め……。
「近寄るなあぁ~!」
「またかああぁい!」
狂猿が大猿を投げる、ワシが蹴り飛ばす。
狂猿が大猿を投げる、ワシが蹴り飛ばす。
子どもの玉遊びみたいなやり取りが、数回続いた。
「くそっ……『精髄』さえ無事であれば、むしろ投げ返してやるものを……っ! というかおまえもおまえだ! それだけ恵まれた体と膂力がありながら、なぜ勇気を奮って戦おうとせんのだ!」
苛立ったワシが叫ぶのに、狂猿が叫び返してきた。
「うるせえ! 俺様は死にたくねえんだ! 労せず勝って、美味い飯を喰いてぇんだ! 命懸けの決闘なんざごめんだね!」
「戦士としての誇りはないのか! 以前おまえと似たようなユニーク個体のオルグと戦ったが、その者は立派に戦い、立派に死んだぞ!」
「うるせえ! そんな脳筋バカと一緒にすんな! 俺様は知能派なんだ! 誇りだのなんだのに殉じるバカどもとは格が違うんだよ!」
「バカだと……?」
ギリッ……。
いつの間にか、ワシは奥歯を噛みしめていた。
清々しいまでのヴォルグの死に顔を思い出したせいだろう、拳が小刻みに震えていた。
「今……ヴォルグをバカと抜かしたか?」
「知るかそんな奴! いいかぁ? 俺様はなあ、若くして猿族史上最高のエースなんだ! いずれは魔戦将軍として『闇の軍団』を率い、人類国家を征服し、肉の柔らけえ~ぇ女子どもを喰いまくるっていうデケぇ夢があるんだ! そいつを叶えるまでは死ねねえんだよ!」
「……そうか、そいつはたいした夢だな」
吐き捨てると、ワシはそこらに落ちていた石ころを拾った――拾って、指で弾いた。
弾かれた石は目にも止まらぬ速さで宙を飛び、次の大猿を投げようとしていた狂猿の片目に当たった。
「ぐあ……っ⁉ 目が、俺様の目があぁぁぁぁ~っ⁉」
片目を傷つけられた衝撃で大猿を取り落とした狂猿の懐にすかさず飛び込むと、ワシは手刀を突き出した。
鋭利な刃物のように尖らせたその先端を、狂猿の喉元にズブリと突き刺した。
「~~~~~っ⁉」
声にならぬ声を出して悶絶する狂猿。
大動脈が切れているのだろう、喉からは大量の血が迸っている。
間違いのない致命傷だ。
「夢を見るのが好きなおまえにはちょうどいいのではないか? 最も深くて長い夢を、あの世でたっぷり見るがいい」
吐き捨てると、残りの大猿に目をやった。
ボスを殺られた大猿どもは、完全に戦意を喪失。
その場に平伏し、降参の意を示してきたが……。
「自分たちから仕掛けておいて、降参したら許してもらえるなどと思うなよ? 戦士たるもの、死ぬときは潔く死ぬがいい」
ワシは構わず、一頭一頭にとどめを刺して回った。
逃げ惑う大猿を捕らえては殺し、逃げ出す大猿を捕らえては殺しするうちに、おかしなことに気が付いた。
ワシがおかしいのではない、ルシアンとマリアベルだ。
かたや『光の剣』、かたや『邪眼』。
伝説クラスの武器を持ったふたりが言い争いをしている。
そのせいだろう、大猿の一部が逃走に成功してしまっているのだ。
頭目を失ったとはいえ、人類を喰い物としか思っていない魔物どもを。
「バカな。逃がしてどうする……っ」
苛立ったワシが、ふたりにケンカの理由を聞いてみると……。
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