「冒険の書百七十一:狂猿マッド・ウータンの誤算①」
~~~マッド・ウータン視点~~~
マッド・ウータンは『大猿』の群れを率いる『狂猿』だ。
歳は若いがユニーク個体であり、岩をも砕く怪力と類稀なる統率力でもって頭角を表してきた、『闇の軍団』のホープである。
猿族の武器は、なんといっても手先の器用さである。
人族のように武器や道具を扱い、罠を張ることすらできる。
また知能も高く、奇襲夜襲はもちろん囮を使って敵をおびき寄せたりなどの集団戦術を行うことができる。
マッド・ウータンの得意とするのもまさにそれであり、今までに幾多の騎士団や冒険者パーティを葬り去ってきた。
しかし、猿族であるため森などの立体的な地形での戦いに向く一方、平原などの平坦な地形での戦いには向いていないという評価も受けている。
優れた戦術ユニットでありながら、彼らがパラサーティア攻略戦に召集されなかったのはそのためだ。
そのことを、マッド・ウータンは悔しく思っていた。
自分たちなら平原でもやれる、五十年の時を超えての人族への復讐戦に貢献できると盛んに訴えたのだが認められなかった。
「ラーズのバカが、俺様の活躍に嫉妬してわざと呼ばないから死んだんだ」
パラサーティア攻略軍の大将を務めたラーズとマッド・ウータンではレベル・実績共に明らかに格が違うものの、そこは若さだ。
やる気と自信に満ちあふれた彼は、ラーズが自分の才能に嫉妬したから招集しなかったのだと信じて疑わない。
「次だ。次の機会があれば今度こそ猿族が天下をとる……」
「ウキャ、ウキャーキャキャ(ボス、今日はどうするんで)?」
街道を遠くに望む森の中――マッド・ウータンの周りに部下の大猿たちが集まってくる。
「キャヒ~……(腹減ったっす~)」
「キャンキャ、キャーキャッキャキッ(朝飯に人狩りでもしますか)?」
「ああ? 人狩りか……それもいいがなあ~……」
人族への復讐心はさて置き、腹が減ったのはたしかだ。
猿族の中でもひと際体のデカい彼らは、一日に大量の食糧を必要とする。
食糧は主に果物・木の実・畑の野菜・人の家畜などだが、人そのものを食べることもある。
「奴ら、肉が少ねえからなあ~……」
人は、肉質が柔らかいのはいいが家畜に比べれば肉が少ない。
無防備に彼らのテリトリーを通りすぎることもあるので狩りの対象としては悪くないのだが……。
「そもそも任務中でもあるしなあ……」
現在、彼らは哨戒任務中である。
任務の内容は『深淵樹海』に向かう人族がいたら詳細を軍上層部に報告すること。
戦闘になっても構わないが、組織的立った反撃――つまり騎士団の動員などを伴う大規模な反撃を受けないように穏便に行うこととされている。
「あまり目立ったことはしたくねえなあ~……」
パラサーティア攻略戦でラーズを失い、また多くの戦力を失った『闇の軍団』の中で成り上がる、今は絶好の機会だ。
変に任務に逸脱した行動をとって上ににらまれるのだけは避けたい。
そんな風に思ったマッド・ウータンがうんうんと唸っていると……。
「ウキャ⁉ ウキャキャウキャキャキャウキャーキャキャ(ボス、ボスの大好物の小娘がいっぱいいますよ)!」
大猿のひとりがもたらした情報に、マッド・ウータンは耳をぴくぴくとさせた。
「よし、詳しく聞かせろ」
人族の中でも幼い娘の肉が好き、エルフ族だったら最高だ。
恐ろしく偏った味覚を持った彼は、ひとりの大猿の報告に大興奮した。
「なになに? 馬車の中に小娘が四人? それも若くてとびきりの上物ばかりで、しかもそのうちひとりは千年にひとりレベルの美しいエルフだとおぉ~?」
ドンドンと自らの胸を強く叩くと、素早く部下に命令を下した。
「よし、行くぞおまえら。人狩りの時間だ」
「ウキャ? キャウキャキャ(ボス、任務はいいんですか)?」
驚く大猿のひとりにマッド・ウータンは。
「バカ、任務も何も、腹が減って餓死したらなんにもならねえだろうが。それに上からはこうも言われてるんだ。『戦闘になっても構わないが、穏便に行うこと』ってな。馬車一台がこの世から消えるぐらいは、まあ穏便なうちだろうよ」
任務の内容を恣意的に解釈したマッド・ウータンは、巨体に似合わぬ素早さで森を駆けた。
部下の大猿たちもそれに呼応し、一斉に駆け出した。
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