「冒険の書百六十六:ルルカと一日デート①」
ルシアンそしてマリアベルというおかしなふたりとパーティを組むことになったワシ。
先行きが非常~~~~~に不安なわけだが、愚痴ばかり言っていてもしょうがない。
腐っても勇者学院のSクラス生徒だ、それ相応の実力はあるのだろうし、ならばそれをしっかり支えてやればいい。
誰が支えるのかというと、それはやはりワシだろう。
なんといっても歳の差があるし、経験に関しても比べ物にならぬわけだし。
「年長者、あるいは監督者の苦労というやつか。これに比べれば、人魔決戦の頃のほうが気楽だったかのう~。あの頃は何も考えずに突っ込んでいればよかったし……誰が傷つこうが死のうが『戦場の習わし』のひと言で済んだし……」
「もお~、ディアナちゃんてばまたわけわかんないこと言ってるぅ~っ」
しみじみとボヤいていると、向かいの席に座ったルルカがぷんぷんと怒り出した。
「今日はわたしと一日デートなんだから、他のこと考えてちゃダメだよぉ~っ」
「おう、そうだったな。すまんすまん」
――怒るルルカをなだめると、ワシは改めて現状を確認した。
時は例の送別会の翌日の昼間。
場所は王都の目抜き通りにあるカフェで、ワシとルルカのふたりでお茶をしている。
ふたりとも、いつもの勇者学院の制服ではない。
ルルカは裾のふわりと広がった薄桃色のワンピースを着て、踵の低いヒールを履いている(「どちらも桃色の髪の毛に映えていて似合っているな」と伝えたら、顔を真っ赤にして照れていたのは余談だ)。
んでワシはというと、黄色のワンピースに籐のサンダルだ。
肩の出ているところや胸元にあしらわれたリボン、裾の短さ(膝上までしかない)や素足の綺麗さがよく見えるサンダルなどにルルカのこだわりがこめられているらしい。
「ああ~、もう最っ高っ。ディアナちゃんの一日をひとりじめできるとか、ホントに頑張ってよかったあ~」
ワシの顔を見てニコニコして、ワシの服装を見てドキドキしてと忙しいルルカは、今また自らを抱きしめるようにして感動し、ゾクゾクと震えている。
傍から見ると、ちょっと危ない人だ。
「……そうか、よかったな」
女の子は昼間からお酒を飲んだりしないものだというルルカの強い主張を受け入れたワシは、白けた気持ちで薬草茶を啜っていた。
ルルカの頼んだ焼き菓子はほどよく甘くて、わずかに苦みのある薬草茶との相性がよい。
食べて啜り、食べて啜りするのは悪くないのだが、ドワーフとしては少々物足りない気がする。
「あの時はあれしかなかったとはいえ、あまり簡単に約束するものではなかったかのう~……」
どうしてこんな目に遭っているのかというと、それは全面的にワシのせいだ。
具体的には以前に行われた『入れ替え戦』でのこと。
本番に際しガクガクと震え緊張していたルルカを落ち着かせようと思ったワシは、「おまえが緊張を克服し活躍できたら、なんでもひとついうことを聞いてやろう」と約束したのだ。
その後色々と事件が立て続いていたから、もしかしたら忘れているのではと思っていたのだが、どっこいルルカは覚えていた。
のみならず、『わたしと一日デートして!』というとんでもないお願いまでしてきたのだ。
『なんでもひとつ』という約束に対して『一日デート』というお願いは少々ズルい気もしたが、ルルカにはいつも迷惑をかけているしな。
これぐらいのわがままは聞いてやろうか、などと甘く見ていたのだが……。
「まさか服や靴から調整してくるとはのう~……」
ルルカのデート計画は、出発前から始まっていた。
いつもの制服で外に出ようとしたワシを引き止めると、どこに隠していたのか服と靴を取り出したのだ。
しかもこれが、いかにも娘っ子らしい可憐なものでな……。
「肩が出ているのはいいとしても……この裾の短さが落ち着かんのう~……。ちょっとすると中が丸見えになるではないか」
裾をぴらぴらとめくっていると、ルルカが慌てて止めてきた。
「だだだダメだよディアナちゃんこんな街中でそんなはしたないことしちゃっ……ってああああー! ごめんねはしたないとか言って! だだだだけどさそうゆーのは卑しき人族にはあまりに早すぎるというか、例えて言うなら太古の文明に接してしまった蛮族の気持ちというかさゴフウっ!」
ゴフウというのはルルカが血を吐いた音だ。
拳で思いきり自分の頬を殴りつけ、異常に興奮した自分を諫めたのだろうが……。
「……大丈夫かルルカ? 血がドクドク出ているようだが……」
「だ、だいじょぶだいじょぶ。わたしってば僧侶だからっ。どんな傷だって平気へっちゃらだよっ」
「……自分で殴って自分で癒す僧侶がいるか?」
「しかたないの、今のはわたしが悪いのっ。だって、危うく街中で己の煩悩を曝け出しかねないところだったから……」
「……おまえが何を言っているのか、ワシにはさっぱりわからんよ」
自らに『治癒』の術をかけるルルカとのデートは、そんな風に始まったのだ……。
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