「冒険の書百六十五:おかしな奴ら③」
「あーっはっは! ああーはっはっは!」
ええと……七つの国を滅ぼし七つの民を統べた『漆黒の魔女イブリース』……とやらの転生者であるマリアベルは、頭をのけぞらせるようにして高笑いを上げている。
姿形にしても振る舞いにしても痛々しい以外の何ものでもないが……。
「のうマリアベルよ。ひとつ聞いてもいいか?」
「あーっはっは……うん? なんだ? なんでも聞くがよい。配下よりの質問に気安く答えてやるのも統べる者の義務だからな」
「なぜワシが配下になっているのかはわからんが……おまえは転生者なのか? つまり、前世の記憶があると?」
はっきり言おう。
ワシはこいつに興味を持っている。
もちろん恋愛対象として、とかではないぞ?
転生してから初めて会った『同志』としてだ。
何せ転生者は希少種だからな。
その道の先輩とあれば、他の者にはわからない苦労とか転生後の生き方のコツとか、グリムザールが転生していそうな転生先の傾向とかもわかるかもしれんしな。
つまり餅は餅屋、転生者のことは転生者に聞けというわけだ。
「転生者……まあそうだが、それがどうかしたか? ……ん? あ、ああーそうかそうか、そういうことか? 妾の前世での大活躍が知りたいということか? つまりは妾のファンだと? はっはっは、なんだなんだもったいぶりおって。そういうことなら最初から素直に言うがよい。そうだなあ……あれは今から六百と六十六年前のことだったか……」
ワシが興味を持っていることを嬉しく思ったのだろう、マリアベルは満面の笑みで自らの来歴を語ろうとするが……。
「いや、そうゆーのは興味ない」
長話になりそうなのをバシッと止めると、ワシは矢継ぎ早に質問を重ねた。
何せ王国からの無茶ぶりに堪えなければならないSクラスの生徒同士だ。
今回の任務が終わった後も一緒に行動できるという保証はないからな、聞けるうちに少しでも聞いておかないとという焦りもあったのだ。
「成り行きについて聞きたいのだ。具体的にはおまえが自身が術を使って転生したのか、それとも他の誰かに術をかけられたのか、何らかのアイテムによるものか、はたまた偶然なのか」
「えっと……それはだな……」
「転生したのは何歳の時だったのか、最初からイブリースとしての意識があったのか、最初から前世の術が使えたのか」
「えっと……あの……」
「転生者だとバレたことはあるのか、前世の知り合いに会えたことはあったのか、その時はどう対処したのか。七つの国を滅ぼし七つの国を統べたと言っておったが、それほどの国家興亡があれば歴史に残り語り継がれそうなものだが、一度も聞いたことがないのはなぜなのか」
「そこまでは考えてな……あっ?」
何か聞かれてはマズいことを口にしそうになったのだろうか、マリアベルはハッと口もとを押さえた。
一瞬辺りを見渡して、皆の目が自分に向いているのを知ると、耳まで真っ赤になって恥ずかしがった。
「知らんもん! 知らんもん! 妾はホントに転生者だもん! ちょっと昔のことすぎて上手く思いだせなくなっただけだもん!」
何に動揺しているのだろうか、急に子どもっぽい口調になったマリアベルが、ワシだけでなく周りの者にも噛みつくように言葉を重ねる。
「別に設定を練りきれてなかったわけじゃないもん! そんな風に聞こえるのはおまえたちの恣意的な解釈が加わったせいだもん! 新聞記者がよくやる手口だもん!」
「うむうむ、そうだよな。昔のことを上手く思い出せなくなることはよくあるよな。そこをツッコむのは野暮というものだよな」
同じ転生者としてはよくわかる。
そうでも言わないと、今の生活や性格と、周りの者との認識の隔たりが大きくなりすぎるのだ。
そして、そのための最高の手段が『記憶の混濁のせいにする』、これはワシもよくやっているのでおおいに共感できる。
「おまえは転生者だ間違いない。ワシが太鼓判を押してやろう」
しかしなぜだろう、ニッコリ慈愛の笑みを浮かべるワシを見たマリアベルは、なおいっそう怒り出した。
「お、お、おまえぇ~……っ。どこまえも妾をバカにしくさってぇ~……っ」
マリアベルは殺気漂う目でギロリとワシをにらみつけると、右目にした眼帯に手をやった。
「もおぉ~頭きたっ。おまえだけは絶対許さんもんっ。というわけで『邪眼』を喰らえぇぇぇえっ!」
「……ほう?」
これにはさすがに驚いた。
マリアベルの所持する『邪眼』は、『抵抗に失敗した相手をひとにらみで絶命させる』や『石化や催眠を始めとした様々な状態異常を引き起こす』などの極悪な力を秘めたスキルだ。
スキル自体が超が十個つくほどに希少であり、本来なら国家戦力として厳正に管理されなければならないような存在だ。
それを自らベラベラと話して手の内を明かしたり、あまつさえこんな街中で使おうなどとは……。
「どうも躾が行き届いておらんようだな」
ワシは瞬時にマリアベルの背後をとると、その手をとった。
グイと後ろに引くと、そのまま捻り上げた。
「いっ……痛たたたたたっ⁉ いつの間に後ろにぃぃっ⁉」
「『邪眼』は国家戦力として管理されなければならないほどの極悪スキルだ。『抵抗』に失敗した者に『即死』はもちろん『石化』や『催眠』など様々な状態異常を与える、対人最強のスキルといっても過言ではない」
「痛い痛い痛い折れる離してっ⁉」
「だからこそ、扱いには慎重にならねばならぬのだ。にもかかわらず自らベラベラと吹聴して回ったり、あまつさえ仲間に使うなど言語道断」
「わかったわかった! もうしないから許してえぇぇ~っ!」
痛みのあまり泣き出したマリアベルが十分に反省してると見たワシは、パッと手を離した。
マリアベルはその場に崩れ落ちると、ワシに握られていたところにふうふうと息を吹きかけている。
「よかったぁ~……折れたかと思ったぁ~……」
「はっはっは、いくらなんでも仲間にそんなことはせんよ。ちょっと痛い目に遭わせて、わかってくれればそれでよし。わからなければ――そのまま手首をポキリだ」
「ひあ……っ?」
「それでもダメなようなら、首もポキリだ」
「ひあああぁ……っ?」
「言っておくが、今後わずかでも兆しがあったらその時点でポキるからな。邪眼使いに容赦するほど、人間できておらんから」
脅しが効いたのだろう、真っ青になったマリアベルが土下座して謝ってきた。
「ごめんなさいホントにもうしないのでポキるのだけはやめてくださいお願いします」
ワシの『躾け』を見た周りの者は「うわあぁ……」と呻いて完全にドン引きしているが……。
え……ワシ、全然間違ってないよな……?
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