「冒険の書百六十四:おかしな奴ら②」
皆の前で、ルシアンがワシに愛の告白をしてきた。
歯の浮くようなセリフと共に、恥ずかしげもなく。
すると当然、皆が騒ぎ出した。
「わお!」だの「ひゃー⁉ 聞いた⁉ 告白だ告白!」などと騒ぎ立て、帰りかけていた者たちまでが戻ってくる始末。
「ハア~……」
上を下への大騒ぎの中、ワシはひとりどっちらけでため息をつく。
「いきなり何を言っているのだおまえは」
今までにも男から告白されたことはあったが、会った瞬間その場でというのは最速記録だ。
しかもこの男、名前からしても貴族のくせに。
種族違いそしてサイズ違いも甚だしいエルフの小娘に告白するとかあり得んだろ。
「一度冷静になって考えてみたほうがいいぞ? 自分の立場とワシの見た目と、今後の周りの反応を計算したほうがいい」
あまりにもあり得ないことすぎて、逆に心配してしまうワシだが……。
「ああ、初対面の僕の身を気遣う心根の優しさもイイ。外見にそぐわない古式めいた口調もイイ」
「おい人の話を……」
「申し訳ないが、衝動が抑えきれないんだ。美しい人よ、この白魚のような手に口づけをさせてくれないか?」
「人の話を聞かんか」
手の甲に無理やり口づけをしようとしたルシアンの横っ面を、思い切り引っ叩いた。
「ぐわあ~……っ⁉」
拒否されるとは思っていても、殴られるとまでは思っていなかったのだろう、ルシアンは堪らずぶっ飛んだ。
「な……いったいどうしてっ⁉ 僕の美しい顔を殴るだなんて君、美に対する反逆だよ⁉」
「気持ち悪い気持ち悪い、本っ当~に気持ち悪い」
ぞわ、ぞわわわわっ。
あまりの気持ち悪さで、全身に鳥肌が立っている。
「ベルトラかと思ったわ」
「突然の被弾⁉」
ワシの言葉でダメージを負ったのだろう、ベルトラが「ぐふうっ」と呻きながら後ろにのけぞっているのはさて置き。
「ワシは武人だ。愛だの恋だのにはそもそも興味がないのだ。しかもそれが男とか、会ったその場で告白してくるだとか、本気で恐怖でしかないのだ」
気持ち悪さの限界を突破したワシが言うのに、ルルカが「……男だからダメってこと?」と思案気につぶやき、リゼリーナもまた「……裏を返すと、気心の知れた女性ならいいということですか?」と謎の結論にたどり着いている。
どちらの言っていることも意味がわからんが、ともかくワシはルシアンから距離をとった。
当のルシアンは、殴られた頬を押さえながら立ち上がると……。
「わかった。それでは気心知れた間柄になってからもう一度、愛の告白をさせてもらうとしよう」
「全然わかっとらんじゃないか」
「ふふふ、僕の人となりを見てから判断したいだなんて、その奥ゆかしさも実にイイね」
「こいつ……っ?」
薄々そうじゃないかと思ってはいたが、やはりベルトラと同じ人種だ。
何を言っても自分に都合のいいように解釈する。
どこまでも平行線で、話し合うだけ時間の無駄。
しかも待てよ?
こいつ、旅の一行だよな?
ということはこれから先も……?
「え、ワシ……こいつと一緒に旅しなきゃダメなのか? 二か月……下手したら三か月も、毎日顔を合わせねばならんのか?」
おそるおそる問いかけると、リゼリーナは沈痛な面持ちになった。
「ディアナさんを狙う『敵』を増やすのはわたくしとしても気が進まないのですが……。Sクラスの生徒の大半は現在王都を離れておりまして……。また基本的に実力重視な方々なので、性格に少々難ありな方も多く……」
「ルシアンで少々? おまえそれ、本気で言っとる?」
「もっとひどい方もいるので……」
「ええ……」
これにはさすがにドン引きするワシ。
「しかしまあ、そういうことならしかたあるまい。これ以上おまえに迷惑をかけるのもあれだし、渋々ではあるが連れて行くとしよう。ちなみにもうひとりは? 頭がおかしいのは仕方ないとしても、どういう方向性のおかしさだ? ルシアンより多少はマシなんだろうな?」
「………………はい」
「おい、なんだかずいぶんと間があったぞ? おい待て、どこに逃げる」
ワシが問い詰めると、リゼリーナは頭を抱えて逃げ回った。
「しょ、しょうがなかったんですっ。今回はあまりにも時間がなくて……っ」
「それでもルシアンよりひどいのはあり得んだろおいっ」
「ひどいかどうかはわからないですけどその、感じ方は人それぞれとも申しますし……っ」
「思い切り予防線を張っとるじゃないかっ」
「――あーはっはっは!」
ぎゃあぎゃあとやり合うワシらの背後から急に――甲高い笑い声が響いた。
「ああーはっはっは! 愚民どもよ聞いて驚け、妾の名はマリアベル・ファング・ザリシオン! 前世において七つの国を滅ぼし七つの国を統べた、『漆黒の魔女イブリース』の生まれ変わりよ!」
笑い声の主は、黒髪を頭の脇で二本に結った小娘だ。
年の頃なら十二、三。
フリルのたくさんついた黒いドレスを着て、踵の異様に高い黒い靴を履いている。
顔立ち自体は可愛らしいのだが、右目に髑髏の描かれた眼帯をし、白粉を塗りたくった頬にピンクのハートマークを書いていたりと、見ている方が気恥ずかしくなるような装いをしている。
背が低いくせに高みから人を見下ろすのが好きなのだろう、小娘――マリアベルはテーブルの上に立って偉そうに腕組みをしている。
「王女殿下からどおぉぉ~してもの頼みということでしかたなくエルフヘイムへの旅に同行してやることにした! ありがたく思うがいい! なぁぁぁに心配するな! 妾の『邪眼』ですべての魔族を滅してやるから、大船に乗ったつもりでいろ! あっはっはっは! あああーっはっはっはっは!」
「これはまた……濃いのが来たものだのう~……」
マリアベルのおかしな振る舞いを見たワシは、心の底からため息をついた。
★評価をつけてくださるとありがたし!
ご感想も作者の励みになります!




