「冒険の書百六十一:送別会②」
ルルカが王都の教会のお偉いさんに呼ばれ、チェルチが宿の常連や近隣住民に呼ばれいなくなると、ワシの周りに旧Fクラスの面々が集まって来た。
ジーンはいつものように元気いっぱいで「エルフの国に行くんだって? 珍しいお土産もってきてくれよな!」と調子のいいおねだりをしてきたが、なぜだろう双子の片割れであるソーニャは、顔を真っ赤にして怒ってきた。
「せっかくAクラスで一緒に授業受けられると思ったのにいきなりいなくなっちゃうんだ! ディアナさまってばそんなに冷たい女だったんだ!」
唇を尖らせ、ワシを責め立てる。
「なんだなんだ、急にどうした」
いったいどうしたものかと思い戸惑っていると──いきなりソーニャの態度が急変。
ひしっとばかりにワシに抱き着いてきた。
「本当に……どうしたのだ?」
ワシの顔を覗き込むソーニャの目には、ジワリと涙が浮かんでいた。
「絶対絶対、帰って来てよね! あたしたちのこと、忘れちゃヤダからね! もし忘れたら、針万本飲ませるからね!」
「……なるほど、そういうことか」
針万本を飲むのはさすがにキツイ……というか、そういう問題ではない。
なんのことはない、こいつはワシがいなくなるのが寂しかったのだ。
弱気になった自分を見せたくなくて、必死に強がって見せていただけなのだ。
「旧Fクラスの中では一番大人びた娘だと思っていたが、こういうところはまだまだ子どもだな」
とはいえ、このまま泣かせておくのも忍びない。
形はどうあれ、年齢差はどうあれ、入れ替え戦を共に戦った戦友ではあるしな。
「ここで下手な突き放し方をして、こじれさせても困るしな」
というわけで、ワシは全力で慰めてやることにした。
ソーニャの体をギュッと抱きしめ返すと、背中を撫でた。
「大丈夫だ、ワシは必ず戻ってくる。なぁに、往復でせいぜい三か月程度の旅路だ。おまえの前から消えていなくなってしまうわけではないのだから、安心せい」
言葉を尽くし、体を密着させ背中を撫で、具体的な戻りの日にちまで指定して、ようやく納得したのだろうソーニャは泣き止んでくれた。
他の娘たちもソーニャと似たような調子で、わんわんと泣いてはワシとの別れを惜しんできた。
子どもたちよりもひどかったのは担任のセイラで……。
「うう、いつかこの時が来るとは思ってましたが、まさかこんなに急だなんて……っ。入れ替え戦から数日しか経ってないのに、わたしまだっ、心の準備ががががが……っ」
その場に座り込んでボロボロ、ボロボロ、ボロボロ。
凄まじい泣きっぷりに、子どもたちがドン引きするレベル。
ソーニャよりも手間のかかる大人めが、と思いはしたが、気持ちはわからなくもない。
万年Fクラスの担任から突如Aクラスの担任になり、責任や義務は倍増。
そこへきて、頼りにしていたワシが突然いなくなるとなっては、泣き言も言いたくなるというものだろう。
今後の子どもたちのことも考えるなら、ここはきっちり道筋を教えてやらねばならない。
とはいえ、そんなの今すぐにできることでもないので……。
「セイラ、大丈夫だ。おまえならきっとできる。もちろんまだまだ危ういところはあるが、おまえぐらいに子供たちへの愛情があれば大丈夫だ。とはいえ、ひとりでは色々と不安もあるだろう。そこでだ、もしわからないことがあったり、不安で圧し潰されそうになったりしたら、コーラスに頼むといい」
「ぐすっ……コーラスさんに?」
「うむ。ワシの胸についているブローチはミニコーラスといってな、どれだけ離れていても連絡のできる、魔法の品なのだ」
ワシの言葉に反応したのは、セイラだけではない。
いつでもワシに連絡できるアイテムがあると知った子どもたちの目に希望が宿り、それが連鎖的に広がっていく。
めそめそ泣いていた子どもたちが泣きやみ、そこここで歓声が上がる。
もちろんセイラは狂喜乱舞。
ちょうど近くにいたコーラスに抱き着くと……。
「コーラスさん、コーラスさん頼みましたよっ。明日からすぐ登校を開始してくださいねっ。あなたとあなたのミニコーラスさんだけがわたしの希望の星なんですからっ」
「わかった……けど、近い」
ぐいぐい抱き着いてくるセイラの顔を鬱陶し気に押し返すコーラス。
「……ま、この場しのぎではあるがな。今はこれでいくしかなかろう」
と、そこへさらにめんどうな奴がやって来た。
それは――もちろんベルトラだ。
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