「冒険の書百五十七:理由」
教育庁には長官がひとりいて、その下にいるふたりの副長官のうちひとりがリゼリーナ。もうひとりがルドヴィクであることが判明した――瞬間、ワシの目の前は真っ暗になった。
「ということはこいつが勇者学院を、ひいてはSクラスの生徒を監督する役回りに……? つまりワシの上役になるというわけか? ワシはこんな奴の命令に従わねばならんのか?」
「落ち着いてくださいディアナさん。そんなこと、このわたくしが絶対にさせませんからっ」
リゼリーナはショックのあまり倒れそうになったワシの肩をガシリと掴むと、キッとばかりにルドヴィクをにらみつけた。
「ルドヴィク兄さま、冗談にしても度が過ぎていると思いますわっ。身分詐称はいかな王族といえども許されることではありませんよっ」
「そんなこと、わかっているに決まっているだろう妹よ。そら、これを見よ。国王陛下からの正式な任命証だ」
ルドヴィクがひらひらとばかりに見せびらかしてきたのは、国王アーガス・ロキ・デア・ハイドラのサイン付きの任命証だ。
上質な紙には流麗な文字でルドヴィクの名と任命される官職名が書かれており、とどめとばかりに国王のサインとハイドラ王国の金印が押されている。
「こ、これはたしかにお父さまのサイン……っ。というかそもそも国王陛下直筆の文書の偽造は身分を問わず極刑……っ。いくらお兄さまの頭がお花畑といえどもあり得ないことでしたわ……っ」
「おまえ……けっこう失礼な物言いしてるが、一応僕は兄だからな?」
リゼリーナの一切の遠慮のない感想に怒り、額に青筋を浮かべるルドヴィク。
と、それはさておきだ。
「こいつがワシの上役のひとりであることは間違いない、ということか?」
「はい……しかしどうしてお父さまは兄妹揃って同じ役職に……? いったいなんの目的があって……?」
それはたしかに疑問だ。
「もともと国王の怒りを買って『王国中を巡り見聞を広めて来い』と追い出された男が見聞を広めぬままに王都へ呼び戻され、しかもけっこうな要職につけられることになるとは……。ハッキリ言って時間と金の無駄というか、国の害にしかならないと思うのだが……」
「はい、まったくその通りです。これこそまさに百害あって一利なし。嘆かわしいことですわ」
「さ、さ、さ、さきほどから言わせておけばあぁ~……っ」
ワシらの無礼な評価に、プルプルと肩を震わせる無能王子。
がしかし、その場で暴れ散らすというようなことはなかった。
突如横合いから――すうっとそいつが姿を現したからだ。
「その理由に関しては、わたくしがお答えしましょう」
現れたのはルベリアだ。
まるでタイミングを計っていたかのように……いや、実際にタイミングを計っていたのだろう、『いつでもなんでもお見通し』で有名な太后様は、いわくありげに口の端を持ち上げると……。
「ディアナさん、リゼリーナも。聞いてくださるわよね?」とニッコリ笑んだ。
たったそれだけの所作なのに、言葉なのに。
「「……っ!?」」
異様な圧を感じたワシとリゼリーナは、揃って背筋を震わせた。
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