「冒険の書百五十五:ルルカのひとりごと④」
~~~ルルカ視点~~~
最近、忙しい日が続いてた。
広い王都を東へ西へと駆け回ってさ。
毎日やることいっぱいでモオォ~大変だったの。
そもそも、王都での生活が始まった時点でおかしかったんだよね。
勇者学院に入ってディアナちゃんとウキウキ学生ライフが満喫できるかと思ったのにさ、Fクラスの子どもたちは全員武闘派で、Aクラスに上がって勇者になることしか考えてないし。
ディアナちゃんはディアナちゃんで子どもたち以上の武闘派だからさ、ニッコニコで指導者になっちゃうし。
そこへすかさず、リゼリーナさまが手厚い支援をしてくださるし(ディアナちゃんと一緒にいたいの見え見えだよリゼリーナさま! もう!)。
入れ替え戦のライバルとなったAクラスの人たちもさ、マカインさんを始めとした濃い人ばかりだし。
先生のマルダーさんなんて、『魔薬』を生徒の食べ物や飲み物に混入させるとかいう最低最悪なことをしちゃってさ。
そんなもんだから、入れ替え戦本番は上を下への大騒ぎだった。
ディアナちゃんを中心に頑張ったおかげでなんとか死人は出ずに済んでさ、パラサーティア防衛戦の戦勝報告会が終われば落ち着けるかなと思ったんだけど……。
まだ終わりじゃなかったんだよね~、これが。
戦勝報告会が終わった後、ルベリアさまと長話をしてたディアナちゃんと合流したら、勇者学院の方角から爆発音がして、火事が起きてて。
駆けつけてみたらウルガさんが血まみれで、コーラスちゃんなんか両足が無くて。
なんとかギイ(?)ちゃんと黒ずくめの女の人を追い払ったら、実は黒ずくめの女の人がエーコさんだったことが判明して……。
とにかく頭の中が大混乱だったんだけど、それでもわたしは僧侶だからさ、やるべきことを必死でやったの。
ウルガさんを治療して、亡くなった警備兵さんたちのご遺体を弔って。
レッサーデーモンの死体を処分するのも大変だったなあ~……。
瘴気が悪臭を放っててさ、辺り一面にむわあ~って漂ってて……うっぷ、思い出しただけで気持ち悪くなってきた……。
「でも、チェルチちゃんはショックだったろうなあ~……」
教会からの帰り、すっかり暗くなった夜道を歩きながら、わたしはつぶやいた。
「エーコさんと一番仲が良かったのはチェルチちゃんだもんね。わたしだってベルキア時代は色々お喋りしてたけど、チェルチちゃんみたいに一緒に働いたりはしてないもん。そういえば、餞別で貰ったマフラーとかも大事にしてたもんなあ~……」
辛い想像をしてしまったわたしは、思わず頭を抱えた。
「あああ~……どうやって慰めたらいいんだろうぅ~……」
黒ずくめの女の人の正体がわかったことで、チェルチちゃんは呆然としてた。
話しかけても心ここにあらずって感じでさ、ディアナちゃんが引きずるようにして、ようやく宿に帰りつけたぐらいだったんだ。
わたしはまだ僧侶としてのお仕事に集中してたから良かったけど、考える暇がいくらでもあったチェルチちゃんはいったいどれほどの悲しみを抱えてるんだろう。
そう思ったわたしは、小走りになりながら宿に帰った。
宿の一階は酒場、お安くて美味しい料理が売りだ。
今日もお店は大繁盛で、表の通りまでその大騒ぎが聞こえてくる。
「チェルチちゃん、大丈夫っ?」
わたしたちは朝食と夕食をいつも酒場でとっていたので、ふたりは今日もそこにいるだろう。
そう思ったわたしが、勢いよく扉を開けると――
「おお~、ルルカじゃんっ。お帰り、こっち来て座んな~っ」
お酒を飲んでいるのだろう、いい感じに赤ら顔になったチェルチちゃんが、わたしに向かってぶんぶん勢いよく手を振ってきた。
ちなみに隣にはディアナちゃんがいて、こっちはいつものように赤ら顔(夕食時は、ディアナちゃんはいつもお酒を飲んでいる)だ。
「僧侶の仕事で疲れただろっ。さあ食え、焼き鳥もたくさんあるからなっ」
「え、チェルチちゃん? え、めっちゃ元気になってるぅっ?」
まさかの『なんにも感じてない』みたいな状態に、わたしはさすがに驚いた。
いやもちろんね? ショックを受けててくれたほうがいいとは思わないよ?
でもでもまさか、こんなあっけらかんとした感じで出迎えられよ~とはっ?
いったい何があったの~っ?
「えっとえっと……ごめんね、なんていうか想定外すぎて……」
チェルチちゃんに促されるままに、わたしは席に座った。
いつも通りの定位置、ディアナちゃんの隣に。
「わたし、けっこう心配してたんだけど……」
「うむ……ワシもこれには驚いておるのだがな」
わたしの驚きを察したディアナちゃんが、ここに至るまでの状況を説明してくれた。
チェルチちゃんが死ぬほど落ち込んで、一時は泣いたりしてたこと。
ディアナちゃんの励ましのおかげで立ち直ったんだけど、立ち直りの勢いがよすぎて――
「感情の振れ幅が強すぎたせいかのう。元気を通り越して、今や『今度エーコに会ったらぶっとばしてやるんだ』などと息巻く始末だ」
見ると、チェルチちゃんは「しゅっしゅっ」と目に見えない誰かを殴る真似をしている。
どちらかというと戦いの嫌いなチェルチちゃんにしては珍しく、好戦的に振る舞っている。
もちろんそれが、本心からの行動なのかはわからない。
自分を奮い立たせるために、無理やり強がっているだけなのかも。
「どっちにしてもさ、元気に振る舞えるってのはいいことだよね。ホントに落ち込みきってたら、きっとそんなことすらできないもん」
「なるほど、そういう考えもあるのか。さすがはルルカだのう」
感心、といった風にうなずくディアナちゃん。
「ディアナちゃんは落ち込んだ経験とかないんだろうけど、一般人はそうなんだよ」
「……おまえはいったい、ワシをどんな風に見ておるのだ?」
「さぁて、どんな風かなあ~? ふふふふふ……」
ディアナちゃんと軽いやり取りをして疲れた心を癒していると、わたしはふっと違和感を覚えた。
「ふふふ……あれ?」
違和感の正体は、すぐに明らかになった。
わたしが下ろした目線の先に、衝撃な光景が広がっていたのだ。
それは――
なんと、チェルチちゃんの手の平がディアナちゃんの太ももに触れていたのだ。
なんと、チェルチちゃんの手の平がディアナちゃんの太ももに触れていたのだ。
なんで二回も言うのかって話なんだけど、なんだったらそのぐらいの接触は酒場だったら普通だよね席とか狭いしねって話なんだけど、でも違うのっ。
なんかねなんかねっ、チェルチちゃんの距離感が全体的におかしいのっ。
ディアナちゃんとの距離が近すぎるというか、それこそつき合ってる男女が見せる気安さみたいなのを感じるのっ。
「わたしがいない間に、まるでふたりの間に何かがあったみたいな……はっ? これがもしかして、学院の一部の女子の間で噂のWSS(わたしのほうが先に好きだったのに)ってやつなのではっ?」
学院の女子たちが使ってた謎めいた言葉の意味がようやくわかったわたしは、ショックのあまり頭を抱えた。
「いやいやいや、ディアナちゃんに限ってそんなことはないはずなんだけど……。そもそもチェルチちゃんが意識しての行動かもわかんないんだけど……。でもでもやっぱり気になるよお~っ」
パニックになったわたしは、ディアナちゃんとチェルチちゃんの間にぎゅうぎゅうと割り込んだ。
「ふたりとも、ちょっと離れよっ、ちょっと離れよっ」
「なんだ、急にどうしたルルカ」
「そうだぞルルカ、こんな狭いとこに入って来る必要ないだろっ。自分の席に座ってろっ」
「たしかにそうなんだけどっ、お説ごもっともだとわたしも思うんだけどっ、でもでもやっぱりダメなんだよお~っ」
無理やりディアナちゃんとチェルチちゃんの間に座ったわたしは、なんとかふたりの距離を離すことに成功した。
ちょっと強引だったかもしれないけど、でもしょうがないんだよ。
ホントさ、これだけは言わせてもらいたいの。
声を大にして。
「もうライバルが増えるのはイヤなんだよおお~っ」
★評価をつけてくださるとありがたし!
ご感想も作者の励みになります!




