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【コミカライズ】ドワーフの最強拳士、エルフの幼女に転生して見た目も最強になる!【企画進行中】  作者: 呑竜
「第七章:弱者の戦い方」

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「冒険の書百五十三:チェルチの涙」

 部屋に戻ったワシはチェルチをベッドに座らせると、酒場からもらって来た温かい茶を飲ませた。

 ついでに何か軽いものを食わせようとしたのだが、食欲がないということで断られた。

 チェルチにしては珍しいというか、それだけショックがデカかったのだろう。

 今回の件がなければ、天変地異の前触れだと考えたかもしれん。


「んでさ、結論から言うと……」


 茶で唇を湿らせたチェルチは、ぼそぼそと小さな声でしゃべり出した。


「エーコ・デオドラなんていう人間はこの世に存(・ ・ ・ ・ ・)在しない( ・ ・ ・ ・)ってことだったんだ」


「存在……しないだと?」


 思ってもみなかった返答に驚くワシに、エーコは細かいところを語って聞かせた。


「驚くと思うよ、実際あたいも驚いた。でも事実だ。あたい、ギルドの人間に『魂魄支配』を使ったから。バレたらマズいと思ったけど、それしかないと思ったから」


「……そうか。ギルドの人間に」


 相手の心と体を乗っ取る『魂魄支配』は、上位『誘惑する悪魔(サキュバス)』特有の技だ。 

 そんなものを使っているのがバレたら、チェルチは即座に人類に仇名す魔族と認定されるだろう。


 リゼリーナやルルカの口添くちぞえがあればなんとかなる可能性もあるが、単独ではおそらく無理。

 最悪、その場で騎士団に通報され、討伐されていた可能性だってある。


「……誰にもバレなかったか?」


「たぶん、ほんの短い時間しか使わなかったから」


「そうか……次は気をつけろ。最悪、ワシを呼べ」


「……うん」


 ワシはチェルチを責めなかった。

 間違いない暴走だが、責めることはできなかった。

 目の下のくまひとつとっても、チェルチが追い詰められているのはたしかだったから。


「んでさ、冒険者ギルドでは、エーコはこんな風に思われてるんだって」


 チェルチが語ったところによると――


 公的な記録をすべて漁ってみても、エーコ・デオドラなる人物はこの世に存在しない。

 国籍・出身・学歴・身分証すべてが偽物。

 様々な街のギルド職員を務めた後にベルキアに落ち着き、ギルドマスターの名を騙って機密情報を集め、何か大きなはかりごとを成していたらしいのだが、詳しい内容はわかっていない。

 わかっているのは、エーコが所属したギルドでたびたび、職員の不審死があったこと。

 ワシらがベルキアを旅立った直後、エーコの自室で『特務騎士』が皆殺しにされていたこと……。


「帰りにさ、魔術師ギルドにも寄ってきたんだ。なんか、気になったから。そしたらさ……」


 チェルチが見せてきたのはマフラーだ。

 ベルキアをつ時にエーコに持たされたお気に入りで、紫色のブローチが付いていて……。


「おまえこれ、ブローチが……っ」


 ワシは一瞬、言葉を失った。


 チェルチのマフラーに縫いつけられていたブローチが壊れていたのだ。

 まるで硬い床に叩きつけられでもしたみいに、粉々に砕けていたのだ。


「そいつにはさ、『覗き鏡(ミラー・アイ)』の魔術がかけられてたんだって。遠く離れたところの状況がわかる魔術がかけられてたんだって。……あたい、どこにいても監視されたんだって。なんでそんなことしたのかはわかんないけど……。エーコ……エーコはさ、あたいを騙してたんだ」


 じわり……チェルチの目の端に涙が浮かぶ。


「『いつも寒そうな格好してるからせめてマフラーでもしときなさいって』言ったの、全部ウソだったんだ。あたいを騙して、何か、得しようって思ってたんだ。そんでもって、勇者学院を襲って、ウルガとコーラスにケガさして、あたいとルルカを殺そうとして……っ。なんか……なんでかわかんないけどっ。う……ううっ、うわあああ~んっ」


 話しているうちに気持ちがたかぶってしまったのだろう、チェルチはとうとう泣き出してしまった。


「わああ、わあああぁ~んっ」


「チェルチ……」


 チェルチが泣いている。

 大粒の涙をボロボロ流し、苦しげな声を上げている。


 元とはいえ悪魔貴族だった娘が、まるで幼い子どものように──いや、実際に幼いのだ。

 若干八歳で悪魔貴族に選ばれ、その後ずっと『魔の森』に封印されていたから、こいつの情緒は未だに未発達なままなのだ。


 しかも、生い立ちがまたひどいのだ。

 父の姿は見たことがない。

 母に育児放棄されていたから家族の愛を知らない。

 田舎で雑に扱われていたから他者に愛されたことがないと、ないないづくし。


「……そうだ、そういえばチェルチは言っていたな」


 ベルキアを後にしてすぐのことだ。

 商隊を護衛するべく他のパーティと組んで、旅を始めた頃のことだ。

 こいつはワシに、こう言っていたのだ。 

 旅する日々を、皆との交流を。


 ――ああ、楽しいぞ。みんなあたいに優しいし、いっぱいご飯くれるからな。


 ――うちは母ちゃんが男のとこに入りびたっててさ、いつも家にいてくんなかったんだ。家に食い物がある時もない時もあってさ。だからあたいも、昔から腹いっぱい食えたことってなかったんだ。だから満腹になれるの嬉しい。あと『家族』ってのもいまいちわかんなかったんだけど、今はちょっとわかる気がするんだ。

 

 ――兄ちゃん姉ちゃんがいっぱいできた感じで楽しいな。冒険者になってよかったよ。


 ニコニコと笑顔を浮かべながら、そんな風に語っていたのだ。


 にもかかわらず、こいつは裏切られたのだ。

 信じていた友だちに、最悪の形で。

 短いつき合いではあったが、チェルチにとってエーコはそれほど大事な存在だったのだ。

 だったのに……。


「やだよう、もうやだようっ。なんでみんな、そんな簡単に人を裏切るんだよお~っ」


 自らの内に閉じ込めかねたのだろう、チェルチはそこら中のものを殴り始めた。

 ベッドを、枕を。

 子どもが癇癪を起こしたように、力の限り。


「チェルチ、チェルチ、落ち着け」


「なんだよ、触んなよう~っ」


 暴れ出したチェルチがケガをしたりしないよう、ワシはぎゅっと抱きしめた。

 頭を抱え、背中をさすり、ゆっくりと言い聞かせた。


「いいか? 聞け、とにかく聞け」


 ワシにかけられるだけの優しさと、ありったけの愛情を込めて。

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― 新着の感想 ―
こんなシリアスな場面で言うことじゃないけど、これがきっかけで情緒が育って惚れるんですね、分かります
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