「冒険の書百三十九:賢姫の提案」
ルベリアとの会話でへとへとになっているところに、メイドがケーキと紅茶のセットを持ってやって来た。
普段は甘いものなど食べないワシだが、今回だけはありがたくいただいた。
大きな栗の乗ったマロンケーキを食べて、糖分を摂取。
疲れた脳を回復させながら、女どもの食い物も悪くないなと思っていると……。
「そういえばディアナさん。ウルガから聞いたわよ。あなた、『精髄』を損傷しているんですって?」
「ああまあ……今ウルガの奴に治療方法を探してもらっているところだが……」
というかルベリア、ウルガと知り合いなのか。
『賢姫』と『狂気の錬金術師』のどこに接点が……いや、ルベリアのことだから、王国中の有為な人材のことはすべて把握していて当たり前なのだろうが……。
「色々試しはしたのだが、どうも上手くいかなくてな。最終的には『万能の霊薬』を作るしかないという結論に達したようだ。だが、そのための材料が足りなくて困っているとか……」
錬金術師の目指す到達点のひとつに『万能の霊薬』の創薬がある。
錬金術師の祖ヘルメスが創ったとされるその薬は、服用した者のケガも傷もそのすべてを一瞬で治してしまう効果があるのだとか。
ただし効果が効果だけに、材料もまた希少なものばかりで……。
「『不死鳥の尾羽根』と『黒竜の心臓』と『ユニコーンの角』と『世界樹の涙』。とにかく材料が高価な上に市場にも滅多に出回らんということでな。いっそのことワシ自らが探しに行こうと思っているところだったのだ」
「三つ、揃うわよ」
「……ん?」
「『不死鳥の尾羽根』と『黒竜の心臓』と『ユニコーンの角』なら宝物庫にあるわ。あら不思議、あとひとつ揃えば『万能の霊薬』が出来上がるわね。ちなみに最後のひとつ、『世界樹の涙』の場所も知ってるわ」
「そ、それはすごいな。さすがはハイドラ王国の宝物庫とおまえの知識……だが、なぜそこまでしてくれる? 何が狙いだ?」
ワシはジッと、ルベリアをにらみつけた。
老いたりとはいえ伝説の賢姫だ、タダで高価な素材やその情報を提供してくれるわけがない。
これは絶対何かあるはずだと思い、身構えていると……。
「あら、狙いなんてないわよ。だってあなたの体調が万全になれば、単独でかの魔戦将軍ラーズを倒すほどの実力が発揮できるようになるのでしょう? 加えて言うなら未来の勇者候補であり、王国の未来を支えるSクラス生徒でもある。それぐらいの代価は払って当たり前だと思わない?」
ルベリアは事もなげに言った。
「そ、それはそうかもしれんが……。どれもこれも伝説級の素材だぞ? 情報だってタダではない。少しは惜しいと思わんのか?」
「では聞くけど、それら伝説の素材や情報は、自ら動いて魔族を倒せる? 今まさに活動を活発化させている『闇の軍団』を倒せるの?」
「それは無理だろうが……」
「人材は国の宝よ。伝説級の素材や情報程度で買えるなら、安い物だと思わない? それにあなた、エルフでしょ? ということは長生きよね? 人より遥かに長く生きて、人より遥かに長くこの国に尽くせる。わたくしとしてはここであなたに恩を売るほうが、よっぽど有意義だと思うのよ」
素直に感心した。
ルベリアの提案は、合理的で無駄がない。
ワシを何百年何千年とこき使うつもりなのは恐ろしいが、エルフの種族特性を考慮に入れたやり口は、まさに賢姫と呼ばれるにふさわしいものだ。
しかし、ひとつ疑問がある。
ごくごく当たり前の発想なのだが……。
「『精髄』が回復した瞬間、ワシが逃げるとは思わんのか? あるいは金に目がくらんで、素材だけ奪って逃げるとは?」
ワシの疑問に、ルベリアはウインクひとつ。
「わたくしはね、あのコの人を見る目を信じてるの」
「おまえ……っ? ついさっきまで『あなた、本当にエルフなの?』とか言ってたくせにっ? 孫娘にたかる悪い虫だと疑ってきたくせにっ?」
「あら、そんなことあったかしら? いやあね、年寄りは忘れっぽくて」
ワシは絶句した。
さっきまでのはウソ?
ワシを動揺させ、本音を吐き出させるための罠?
すべてが計算づくで、最初からワシはこいつの手のひらの上で踊らされていた?
もしかしたら、この提案が悪くないように聞こえるのすらも策のうちか?
「ええい、悩むな。頭で勝てないのはわかりきっていたことだろう」
ワシは自らの頭を叩いた。
実際問題、それ以外の選択肢はないのだ。
一生この一族に頭が上がらなくなるような気がするし、それはとても恐ろしいことではあるのだが……。
「わかった、わかった。いずれにせよ、『精髄』無しで最強の武人になることはできんからな。それらの素材を都合してくれ。残りのひとつの情報もな。すべての準備が整い次第、素材回収に向かうとしよう」
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