「冒険の書百三十五:戦勝報告会」
三、四年に一度現れるかどうかというぐらいに希少なSクラス生徒が、一気に四人も誕生した。
衝撃の噂は、その日のうちに王都中に広まった。
新聞記事に載り、号外が配られるほどの騒ぎになった。
それはもちろん、ワシらの生活にも影響した。
道行くたびに指を差され声をかけられ、サインを求められ求愛された(本気で何度も、結婚を求められた)。
授業は変わらず受けていたが、登下校の際にはファン(?)に囲まれないよう十分注意しなければならなかった。
それだけで済むならよかった。
どんな人気者だろうと有名人だろうと、ある程度の時期が過ぎれば落ち着いてくるものだから。
よくないのは、人気絶頂の時にさらに話題になるような行為を重ねることだ。
下手をすると、 人気ぶりが絶頂を突破して神格化されかねない。
それこそ、ディアナ教が冗談ではなくなってしまう……。
最悪だったのは、ちょうど同じ時期に王城を訪ねる必要があることだった。
しかもこれ、当初から予定されていた日程なので調整が効かない。
先のパラサーティア防衛戦の戦果をパラグイン辺境伯(パラサーティアからわざわざやって来る)が報告する際、傍らに控えていなければならないのだ。
しかもしかも、本来なら『控えているだけでよかった』のに、『パラサーティア防衛戦で敵将ラーズを討ち取った』他に『勇者学院と王都の危機を救ったSクラス生徒』という戦果がついてしまった結果、ワシは『自ら国王陛下に報告しなければならなくなってしまった』のだ……。
+ + +
ワシらのSクラス入りが発表されてから一週間後の夕方。
ワシ・ルルカ・チェルチ・コーラスの四人は王城内にある控えの間で、自分たちが呼ばれるのを待っていた。
「ドレスを着なくてもいいのは助かるが……やはり気が重いのう~……」
勇者学院の制服自体が正装となるので、ひらひらしたドレスやなんやを着させられることはない。
それはいいのだが、問題は報告だな……。
「ワシ、敬語とか使えんぞ? 無礼すぎて捕まったりせんかのう? あと、変に人気になりすぎても困るのだが……」
ワシは正直に不安を述べた。
仲間たちから何か有用な助言がもらえはしないかと思ったのだが……。
「わ、わわわわわっ、わわわわわっ、わわっ、わっ」
緊張の限界に達したのだろうルルカは、真っ青な顔のまま謎の言葉を発する機械のようになっている。
「おー、美味いぞこれ。お菓子食い放題なの、すごいじゃん。あたい、ここの家の子になろうかな」
チェルチは控え室に用意されていたお菓子に夢中で、まったく話を聞いてくれない。
「ボクも、そうゆーの、わかんない」
世間知らず代表なコーラスもまた、まったく役に立たない。
「うぬぬ、いったい誰に相談すれば……?」
「大丈夫ですよ、ディアナさん」
不安を抱えているところへ、リゼリーナがやって来た。
ピンク色の華やかなドレスに身を包んだお姫様は、いかにも気楽な様子で微笑むと。
「ディアナさんの人気はもう止めようもないことですし」
「……それ、諦めの境地とか言わん?」
「そうかもですけど、運を天に任すというのもまた、武人としての正しく潔い態度では?」
「ある意味そうではあるが、宗教的に崇められるのはちょっとなあ~……。ワシの求める武人像とは違うんだよなあ~……」
ハアとため息をつくワシ。
「では、もう一つの問題について考えましょうか」
「あ、人気云々については諦めるのな」
ワシのツッコミを無視しつつ、リゼリーナは言った。
「礼儀作法について言いますと、お父さまはあのお祖父さまの子ですし、お母さまはそのお父さまの妻ですから」
「あ~……それはそうかもしれんが」
考えてみれば、アレスも礼儀作法とは無縁の奴だったからな。
そのアレスの子どもが、ことさら口うるさくしてくるとも思えんが……。
「でもなあ~……国王はよくても周りの者はそうはいかんだろうし、けっこうピリピリするんじゃないのか? ああ、考えただけで胃が痛くなってきた。ハアァ~……」
ため息をつきまくるワシを、リゼリーナはニッコニコで眺めている。
「なんだおまえ、やたらとご機嫌のようだが、ワシが困るのを見てそんなに楽しいか?」
「あら、ご冗談を。わたくしは純粋に、ディアナさんが約束を果たしてくださったことを喜んでいるのですよ」
「ふん、囲い込みに成功してよかったな」
「はい♡ わたくし、やりました♡」
「おのれ……嫌味も通じんか……」
リゼリーナは手を合わせて幸せそうに微笑むばかりで、嫌味のひとつも通じない。
「姫さま、ずっと、こんな、さすがに、疲れた」
「ホントにゃよ。毎朝毎晩のろけ話を聞かされるほうの身にもなって欲しいにゃ」
リゼリーナの後ろに控えていたララナとニャーナは、もうげんなりといった様子。
近衛騎士の格好(オレンジの上着に白のズボン)で、ハアとため息をついている。
「そうだ、言い忘れてましたわ」
ポンと手を叩き、思い出したようにリゼリーナ。
「ディアナさん。報告会が終わった後でよろしいのですが、わたくしのお婆さまに会っていただくことはできますか?」
「おまえのお婆さまというと……」
そこまで言って、ワシはハッとした。
そうだ――人魔決戦から五十年。当時、あの女は十六歳。
ということは、今も生きていたって不思議ではない。
「……賢姫ルベリアか?」
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