「冒険の書百三十四:ディアナ、囲い込まれる」
まったく状況が呑み込めないまま壇上に上ったワシらに対して、学院長はいきなりこう言った。
「ディアナくん、ルルカくん、チェルチくん、コーラスくん。きみたち四人は、本日をもってFクラスからSクラスへと昇格になります」
……ん?
「…………今、なんて言った?」
同じ事をワシらはもちろん他の皆も思ったようで、体育館中がザワめている。
「ディアナくん、ルルカくん、チェルチくん、コーラスくん。きみたち四人は、本日をもってFクラスからSクラスへと昇格になります」
皆の戸惑いを感じたのだろ、学院長は同じ言葉を繰り返した。
「理由は、きみたちの功績が大であったことです。本学院に迫った危機を退け、生徒はもちろん来場していた保護者の方々やご来賓の命も救い……」
学院長の話を要約すると――
ワシはマルダーの暴走と魔族タンドールを討ったこと。
コーラスはそれに協力したこと。
ルルカは会場中の皆を結界で護ったこと。
チェルチはマルダーに自白を強制し、事件の捜査に協力したこと。
ワシら全員の活躍があまりにも目覚ましいものだったから、AにとどめるのではなくいっそSまで上げてしまおうという話になったそうだ。
「なるほどな。子どもたちや保護者、お偉いさんの命を救い、魔薬の蔓延を阻止して王国の未来をも救った。リゼリーナが言うところの条件が揃ったというわけか」
たしか入れ替え戦前に、リゼリーナが言っていたな。
Sクラスになるにはいくつかの条件があると。
ただ強いだけでなく、王国に対して貢献したか、人類の希望である勇者になり得る存在かという部分も厳しく審査されるのだと。
ワシらの場合はベルキアやパラサーティアの件があるので幾分かは緩和されるが、できればもうひとつふたつ活躍したほうがいいと。
「今回のことで、ワシはもちろんルルカとチェルチも資格十分。コーラスに関しては少々足りていない気もするが、あるいは第三王女殿下が何かしたか……学院側に『わたくしを救ってくださった皆様に報いたいのです』とか言って直談判したか……。それこそ、万が一にもワシが辞退することのないように……?」
チラと横を見ると、緞帳から顔を覗かせたリゼリーナと目が合った。
リゼリーナは「てへへ……♡」と舌を出し、照れて見せているが……。
「何が『てへへ……♡』か。裏であれこれ働きおって、この策士めが」
ワシの前ではいつもバッチリきめているリゼリーナだが、今日は珍しく髪をほつれさせ、疲れた様子を見せている。
察するに、今日この日までにSクラス昇格を決めるため、相当に急いで事を進めたのだろう。
下手をすると食事もとらず、睡眠時間すら削る勢いで。
ララナとニャーナの気苦労が偲ばれるというものだが……。
「そこまでしてワシを捕まえておきたいのか……ハア~」
悔しいが、リゼリーナの狙い通りだ。
コーラスまで引き込まれてしまっては、まさかワシだけ辞退するわけにもいくまい。
「まあそこまでせんでも、ドワーフが約束を違えるようなことはないのだがな……。にしても、ワシが勇者候補で勇者学院のSクラスか。勇者パーティの笑い顔が目に浮かぶようだわい」
かつての仲間たちのニヤニヤ笑いを頭に思い浮かべていると……。
「ね、ねえディアナちゃん。これってどういうこと? わたし、状況がまっっったく飲み込めてないんだけど?」
ルルカが不安げな表情でワシにしがみついてきた。
ワシらのSクラス昇格を祝って大歓声を上げる皆を、戸惑いの目で見ている。
「ああそうか、おまえは知らんのか」
「うん、なんにも理解できてない」
「じゃあ説明してやろう。勇者学院にはF~Aクラスの上に、Sという特別なクラスがある。といっても『Sクラスという教室があって授業が行われている』わけではなくて、『強すぎる個人が特別に扱われることをそう呼ぶ』わけだが」
「ふ、ふうん……そんなのがあったんだ……?」
「Sクラスに選ばれた生徒は授業費をすべて免除され、好めばどのクラスの授業を受けることもできる。禁書も含めた学院のすべての資料を閲覧できる。さらに王国の青年外交官として自由に他国に入国でき、広報・交流活動も行える。言うならば、ハイドラ王国の未来を背負って立つスーパー武官やスーパー文官候補の囲い込み制度といったわけだな。優秀な人材の他国流出を防ごうという制度なわけだ」
「はえ~……それは大変なことだねえ。期待が重いというか、選ばれた人たち大変そう……」
「おまえも選ばれたのだが」
「ん?」
「ワシと、チェルチと、コーラスと。あとおまえも選ばれたのだが」
「はえ~……なるほど~……そうなんだあ~……? わたしもねえ~……?」
そんなたいそうなものに自分が選ばれるなど、微塵も想像していなかったのだろう。
ルルカがワシの言葉を理解するのに、たっぷり一分ほども時間がかかった。
「…………ん? わたしも?」
気づいた瞬間、劇的な変化が起こった。
王国からの期待の重さに耐えかねたルルカは顔を真っ白にすると、「ひゅ……っ?」と息を吸い込むような音を残して、その場にバタリと倒れ込んだのだ。
「おいルルカ……ルルカ!?」
「あちゃ~、これはダメだ。完全に白目むいてるわ」
ワシの腕の中で気絶しているルルカと、呆れたように見下ろしているチェルチ。
コーラスはぼうっとした表情でたたずんでいて、リゼリーナが慌てて駆け寄って来て、子どもたちは大騒ぎで……。
入れ替え戦の結果報告会は、大混乱のうちに閉会となったのだった……。
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