「冒険の書百二十七:VSマルダー!①」
マルダーが『魔薬』を飲んだ。
グイと、瓶ごと一気に飲み干した。
魔薬は通常の麻薬と異なり体内の魔力に乗って拡散されるので、服用者の魔力が高いほど吸収効率が上がる。
だからだろう、Aクラス担任であり高位の『魔術師』でもあるマルダーに起こった変化は、劇的なものだった。
まず、瞳孔が小さくなった。
白目が血走り、四肢に力が漲り。
体の中に閉じ込めておけなくなった魔力が皮膚の表面より放出されたのだろう、小さな嵐となって辺りに吹き荒れた。
「おいおい、こいつ瓶ごといきおったぞ? これって絶対ひとり分じゃないよな? 下手するとAクラスの子どもたちが飲んだ量と同じぐらいだったりする?」
「ええ……可能性はありますわね。ですのでちょっと……どうなってしまうのか見当もつきませんね」
生徒たちでさえあれなのに、数十人分をひとりで飲んだマルダーはいったいどうなってしまうのか。
今すぐ飛び込んで取り押さえるべきだろうか……いや、下手をすると手痛い反撃を喰らう可能性もあるか?
人魔決戦時にすら経験したことのない事態にワシが躊躇していると……。
「ふは、ふはははは……」
マルダーは笑い出した。
うつむき、肩を揺らしながら楽しそうに。
「ふは、ふは、ふはっ! ふはーっはっはははっははっ!」
マルダーはグイと顔を上げると、そのまま天を見上げた。
興奮によるものだろう、その頬は赤く染まっている。
「手に入れた! 手に入れたましたよ力を! 最強最高の! 魔術師の頂点にすら立てるだろう力を!」
マルダーは、顔をグリンとこちらに向けた。
次に、ワシの隣にいるリゼリーナに向けた。
「わかりましたよ! 強いというのはこういうことなのですね! 弱者に阿る必要などないんだ! 最強最高のわたしは、欲しいものがあったら力ずくで手に入れてしまえばいい~のですね!」
「おまえが弱者に阿ったことなどあったか? というか、『魔薬』のおかげで強くなったのを自身の力と勘違いとか、笑えん冗談なのだが」
「うるさい死ね! 『一閃』!」
突如ブチきれたマルダーは、思い切り手を振った。
もちろんただ振っただけではない。
マルダーの指先から放たれた紫色の魔力の塊が剣となり、つい先ほどまでワシのいた空間を斬り裂いた。
魔力の剣はワシに直撃こそしなかったものの、髪の毛先を数本斬り飛ばすと、そのまま地面を深く割った。
「ほお……地面を割るほどか。『一閃』は基本的な攻撃魔術のはず。それがこれほどの威力になるとはな……」
ワシの言葉に、観客たちもどよめきを上げる。
訓練場にいる教師や審判、Aクラスの生徒たちの介抱を続ける僧侶たちもまた、驚きの目でマルダーを見つめている。
その反応に気をよくしたのだろう、マルダーはさらに大きな哄笑を上げた。
「ふははははははははあ~! どうですかどうですかあ~! 高まったわたしの魔力は『一閃』ですらこの威力なのですよお~! ねえ、ここで疑問に思いませんかあ~? もしこれが一本ではなく十本……いや千本だったらとおおおおぉぉぉおぉ~!」
興奮のあまり絶頂しながら、マルダーは両手を前に突き出した。
交差させるように突き出していたそれを徐々に横に広げていく。
両手の人差し指が上下に動いて、宙に黄金色に輝く文字を書いていく。
「『秘儀文字』……こいつ、古代魔術をっ!?」
ワシは驚き叫んだ。
古代魔術は現在主流となっている音声魔術(口頭で呪文を詠唱する魔術)とは異なり、『秘儀文字』と呼ばれる特殊な文字を媒体として奇跡をこの世に顕現させる魔術だ。
そのためには莫大な魔力が必要で、理屈はともかく現実的には実現可能な者などいないとされてきた魔術なのだが……。
「そうか……魔薬で無理やり補うことで魔力不足を解決したのか!」
「気づいたところでもう遅い――喰らえ『千剣支配』!」
マルダーが叫んだ瞬間、紫色に輝く千本の魔剣が、この世に姿を現した。
★評価をつけてくださるとありがたし!
ご感想も作者の励みになります!




