「冒険の書百二十五:ディアナのちょっと回想」
いきなりマルダーを犯人だと決めつけたワシだが、なにも適当ぶっこいたわけではない。
情報集めを任せていたベルトラが、事前に証拠を持ち帰ってくれていたのだ。
それは今から遡ること、一時間ほど前のこと――
当初のワシの捜査指示は『勇者学院全体に対して』というぼんやりしたものだったのだが、ベルトラはマルダー一本に狙いを絞った。
ワシへ対抗心を燃やすマルダーへ殺意を募らせていたのだろう、その行動は素早く、そして徹底されていた。
ひとりにつきひとつ与えられる教員控室のうち、マルダーのそれを真っ先に捜索。
物理鍵と魔術鍵で厳重に守られた金庫を『解錠』と『解呪』の魔術であっさり解錠。
中身の残っている『魔薬』の薬瓶や、生徒たちに服用させる以前と以後の能力値の変化などの記された書類などを見つけ出した。
勢いのままに部下の死霊を大量に動員し(幽体なのでどこへでも入ることができる)、学院内に蔓延る無数の魔薬と一部の生徒の魔薬服用の証拠を見つけたベルトラは、それはもうウッキウキで帰還したものだ。
「我、頑張りました! ディアナ様の望むものをすべて見つけ、帰還いたしました! この見事な働きに対し、是非褒章をいただきたく存じます!」
「……自分で自分を見事と言うか? たしかに良い働きだったとは思うが……。まあよかろう。ほれ、欲しいものがあるならなんでも言ってみろ」
「なんでもいいのですか!? な、ならば折檻……もとい、お褒めの言葉をいただけるとありがたいです! も、ももももしくはディアナ様の『美しく白きおみ足』に接吻させていただいたりとかでも!?」
たかだか足とはいえ、さすがに気持ち悪いので無し。
とはいえ、働かせただけで何も報酬が無いというのも哀れなので……。
「うむまあ……。よくやったぞ、ベルトラ。偉い偉い」
ワシが頭を撫でてやると、ベルトラは「どぱあっ」とばかりに涙を流した。
アンデッドが涙を流すというのもおかしな話だが、ともかく両の目から液体を溢れさせた(もしかしたら『変身』魔術を操ってそう見えるようにしたのかもしれない。器用な奴だ)。
「な、なんで泣いておるのだ? おまえの言うとおりの『なんでも』は叶わなかったというのに……」
「とんでもございませんっ。我の如きゴミ虫ごときに温かいお言葉をかけていただいて。しかもディアナ様のお手が我が頭に直接触れてっ。これが喜ばずにいられますかっ」
「ミスリルメッシュの手袋をしておるから、直接ではないがな」
霊体に直接触れるとダメージを受けるため、魔法金属であるミスリルを間に挟む必要がある。なので厳密に言うと触れていないのだが……などという問題でもないのだろう。
ベルトラにとってはワシが褒め、手ずから労ってくれたというのが嬉しいのだ。
人類の敵であるアンデッド、その中でもとりわけ強力なリッチであるというのはさて置き、従順で役立つ男であるのは間違いない。
これからも便利にこき使うために、たまにはこうして鞭ばかりではなく飴を与えてやるのもいいだろう。
などと思っていると……。
「ハア……ハア……っ」
「な、なんだ? 急にどうした?」
息を荒げ興奮したベルトラは、震える手をワシに向かって伸ばしてきた。
それこそ魔薬の切れた中毒患者のように。
「ま、まさかおまえも魔薬を……っ?」
「いえ、ディアナ様成分の過剰摂取で中毒状態になってしまいました……っ。ご、後生ですからもう一度その手を頭に……っ。もしくはその『美しく白きお手に接吻』をさせていただければと……っ。助けると思って……っ」
「あ~……無理っ。これはさすがに気持ち悪い」
嫌悪感が頂点に達したワシは、その場でギュンと回転。
後ろ回し蹴りをベルトラの顎にぶち当てた。
ワシとしては制裁のつもりだったのだが、ベルトラは「素敵な折檻っ、ありがとうございますっ!」と言いながらぶっ飛んだので、あるいはここまで含めて作戦だったのかもしれない。
言葉で褒められる、頭を撫でられる、顎を蹴られるというベルトラ的フルコースだったのかも。
「ハア〜……やれやれだな」
変態の相手をするのに疲れたワシは、ハアとため息をついた。
「ま、それはともかく準備は整ったか。さっそくマルダーの奴めを糾弾し、Aクラスの子どもたちを救ってやろう」
準備を整えたワシは、マルダーを追い詰めるべくようようと動き出した。
そう、この時はまだ、マルダーが凶行──生徒に規定以上の魔薬を飲ませる──に出るなどとは思っていなかったのだ……。
★評価をつけてくださるとありがたし!
ご感想も作者の励みになります!




