「冒険の書百二十四:Aクラスの大暴れ」
おそらくは全員が『魔薬』を服用していると思われるAクラスの生徒たちの戦いぶりは、それは凄まじいものだった。
戦略や戦術などない、真正面からの集団突撃。
剣の得意なものは剣で斬りつけ、魔術の得意なものはひたすら魔術を連発。
僧侶ですら戦杖で殴りかかる者が多くいた(これに関してはうちのルルカもだが)。
防御も体力配分も一切考えない特攻は、しかし意外なことに功を奏した。
なにせ攻撃が途切れることがないのでゴーレムたちが上手く連携できず、そもそもAクラスの生徒たちの地力が高いので数の暴力でぐいぐいと押していける。
もちろん無謀な突撃なので子どもたちへのダメージも大きく気絶者がどんどんと出ていくが、頭がおかしくなっているので誰ひとりとして退こうとしない。
どこかアンデッドの軍団を思わせるような攻撃によって、ゴーレムは一体、また一体と倒れていく。
最終的には子どもたち半数の戦闘不能と引き換えに、ゴーレム三体を倒すことに成功した。
成功はしたのだが、被害もまた大きかった。
他のクラスの子どもたちのような理性がないので退き際を知らず、限界を超えて肉体を酷使することによって自らケガをするようなケースもあった。
あまりといえばあまりの光景に、観客たちはドン引き。
「……え、なにこれ怖い」
「まともじゃないよ。みんな狂ったみたいになってる」
「呪いにでもかかったみたいな……」
子どもの保護者たちは大騒ぎを始めている。
「ど、どうしてうちの息子があんな……」
「アンナちゃん……うちのアンナちゃんが倒れてるっ! 誰か、誰かあーっ!」
「おい責任者! いったいどういう教育してんだ!」
非難の矛先は担当教師……ではなく、まずはゴーレム作成者であるウルガへと向かった。
「どうしてあんなゴーレムを作った!」
「相手は子どもだぞ!? 程度ってものがあるだろう!」
「訴えてやるからな! 覚悟しろ!」
皆がさんざんに罵倒するが、『狂人』ウルガはまったく気にしていない。
というよりは、逆に火をつけたと見るべきだろう。
「……ああ~? なんだあ、てめえらは?」
ウルガはものすごい目つきで保護者たちをにらみつけた。
「いやしくも人類の希望である勇者を目指そうってガキの親がよお、この程度のことでギャアギャア騒ぐんじゃねえよ」
「は、はあ~? なに言ってんだこいつ? この状態で反論とかするか普通?」
「ちょっと……ヤバい人なんじゃ?」
「だ、誰か衛兵呼んできたほうがいいんじゃない?」
まさか反発されるとは思っていなかったのだろう、保護者たちは動揺して顔を見合わせる。
中には衛兵を呼びに走る者もいる。
が、そんなことはウルガには関係ない。
「てめえらの虫けらみてえな脳みそでも理解できるように言ってやろうか。勇者ってのはなあ、魔王を倒すための存在だ。魔王がいなけりゃ魔族を殲滅し、魔王の復活を防ぐための存在なんだ。だから極限を求められるんだよ。戦時はもちろん、平時においても一瞬の油断すら許されないんだよ」
今から五十年前のことだ。
魔王を殺すため、魔族を殺すために勇者になろうとした少女がいた。
その名はコーラ。
だが彼女は、魔族の奇襲により死んだ。
ウルガを狙った魔族のせいで、巻き添えをくう形で。
もちろんそれ自体はウルガのせいではない。
誰にも予測不可能な襲撃だった。
だが、ウルガにとっては違うのだ。
準備不足は決して許されることではない。
弱かったからしかたない、予見できなくてもしょうがない。
そんな寝言は許されないのだ。
幼いコーラに誓って、絶対に。
「それがなんだ。てめえらのガキはよお、バカのひとつ覚えみてえに特攻かましやがって。あんなことしたらケガするのが当たり前で……っ」
「おいウルガ。その辺にしておけ」
「もし本当にてめえのガキを大事に思うならよお、そもそも勇者学院に入れなきゃいいんだ。魔族と戦う、戦って殺す、根絶やしにする。それがどれほど危険で、覚悟を必要とするものか……っ」
「やめよ、ウルガ!」
見るに見かねて声を荒げると、ウルガはキッとばかりにワシをにらみつけた。
「なんだあ、てめえもこいつらと同じことを思ってんのか? ガキどものために『衝撃緩和の魔術で護られた遊び場』を提供してやれば良かったって?」
「そうではない。ワシも、ゴーレムの強さに関してはこのぐらいでちょうどいいだろうと思っとる。敵わぬ相手に挑む怖さを知るのも、それによって引き起こされる恐怖や痛みを知るのも大切なことだ。どうあれ、勇者はそれらの逆境と向き合い続けねばならない役割なのだし、この程度で挫折するようならそれまでだ。――だが、今回のは違うだろう?」
ワシは倒れている生徒たちを指さした。
魔薬のせいでタガの外れた生徒たちは、ゴーレムの反撃と、自分自身の無茶な攻撃によって重いダメージを負っている。
打ち身擦やり傷は当たり前、中には骨折や、大出血を起こしている者までいる。
僧侶たちやルルカが懸命に『治癒』をかけているが、後遺症の残る者もいるかもしれない。
ケガを負っていない生徒たちの目は、未だぼうとして定まらない。
落ち着かなげに剣を地面に突きたてている者もいるし、攻撃用の魔術の呪文を唱えてはやめるのを繰り返している者もいる。
魔薬はまだ、抜けていない。
「皆の様子は最初からおかしかった。熱に浮かされたように敵を求め、攻撃を避けもせず、ダメージを受けても退こうとしなかった。明らかに異常だった。ここまでケガがひどくなったのは、子どもらをそんな精神状態に追い込んだ者と物のせいだ。――なあ、そうだろうマルダーよ?」
ワシはマルダーを指差した。
ひとり騒ぎを傍観する、Aクラスの担任教師を。
「おまえが生徒らに『魔薬』を飲ませたのではないか? かつて人魔決戦の折、『死ぬまで戦い続けるべく造られた魔族の秘薬』を」
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