「冒険の書百二十三:団体競技開始」
ワシらFクラスは、観客席の最前列に陣取っていた。
食後の眠気や緩みは一切なし、子どもたちはそれぞれがメモを構え、あるいはギンギンと目を凝らしてて訓練場を見下ろしている。
その狙いはひとつ。
午後の部の団体競技の出番が最後に決まったので、他のクラスの戦いぶりを自分たちの参考にしようという算段だ。
団体競技は『強力な敵が登場し、クラス全員でそれを倒す』というもので、何が相手となるかは競技の開始までわからない。
ちなみに一昨年は研究員の中から選ばれた『付与術士』が十体の『動く鎧』を操った。素早く強力な個体ばかりで、E・Fクラスの生徒では半分も倒せなかったという。
去年は同じく研究員の中から選ばれた『魔獣使い』が五頭の『ケルベロス』を操った。三つの頭から同時に炎を吐く凶悪な魔獣が大暴れし、A・B・Cクラスのみが打倒に成功したが、他クラスは一頭倒すのが精いっぱいだったとか。
「年々『敵』の脅威度が上がっているというわけか。そして、基本的にはパーティ戦を想定していると。なるほど、なるほど……」
勇者個人がいかに強くても、凶悪な敵を一対一で倒すのは難しい。
敵によって攻撃の種類が違うし、物理攻撃が効きづらいとか魔術攻撃が効きづらいとかそもそも肉体がないとか様々なパターンがあるので、パーティを組んで戦うのがセオリーだ(人類最強のアレスが決して単独で行動しないのも、これが理由だ)。
だからだろう、団体競技の敵は基本複数。
各クラスが効率的にパーティ分けし、これを各個撃破するという形式をとっている。
「飛びぬけた『個』が圧倒してしまうのを避ける意味もあるのか。考えられているな。そして今年の敵は……と」
今回の団体競技を担当する研究員が錬金術師のウルガということもあって、訓練場に姿を現したのは三体のゴーレムだ。
一体一体が巨大で、二階建ての住居ほども背丈がある。
目は単眼で、体は赤・青・黄に塗り分けられている。
「単眼巨人型……と、おとさまは、言ってた」
ゴーレムたちにひらひらと手を振りながらコーラス。
「そうか、コーラスの知り合い……家族みたいなものか?」
「うん。赤がウヌタス、青がドゥニオス、黄がトリアーク」
「得意な戦術は?」
「ウヌタスは、熱線。ドゥニオスは、冷気。トリアークは、稲妻。出す」
「……見た目どおりだな。団体競技用の親切設計というわけか」
実際の戦闘では、そんな風にわかりやすく色分けはされていないのが普通だ。
だが今回のこれは、あくまで競技だからな。
敵の攻撃を知った上でどのような対策を練るかに重点が置かれているわけだ。
「ち、ちなみに家族だから手を抜いてくれたりはしないのかな? だったら助かるんだけど……」
ゴーレムたちの図体に圧倒されてビビるルルカの問いに、コーラスはぶんぶんと首を横に振った。
「おとさまは、ボクに、一番厳しい」
「うう……教育熱心だねえ~……」
「ま、ウルガならそうするだろうな」
なにせコーラスを対魔王用の人造勇者として育てるつもりの男だからな、こんなところで手を抜いたりはせんだろう。
「不正を疑われることがないとわかっただけでよかろう。勝ったとしても、あとであれこれ難癖つけられるのは面倒だからな」
「もう勝つのは前提なんだね。だからこそのディアナちゃんなんだけども……」
呆れたようにつぶやくルルカはさておき。
「しかし問題は、クラスをどう分けるかだな。十三人編成の大型パーティをふたつ、十四人編成をひとつにしてそれぞれのゴーレムに挑ませるか。三十人のレイドを作って一体を速攻で倒し、残り二体は五人ずつのパーティで遅滞戦術に持ち込むか……」
さてどうしたものかと考えているうちにも、団体競技は進んでいく。
まずはDクラス……全滅。
次にEクラス……全滅。
Cクラス、Bクラスですらも相手にならない。
「ほう、なかなか強いな……というか、強すぎるなこれ。正直、相手になってないぞ」
ゴーレムたちは一体一体が強力だが、ちょっとでも油断していると三体が息を合わせての連携攻撃を行ってくる。
熱線、冷気、稲妻の三方同時攻撃が特に凄まじく、まともに喰らったパーティは一瞬で防御魔術をぶち破られ、戦闘不能に陥ってしまう。
戦闘後は大騒ぎだ。
訓練場に張られた『衝撃緩和』の結界のおかげで大ケガにこそ至らないものの、子どもたちはそこそこのケガを負っている。
訓練場の外で待機していた僧侶たちは『治癒』をかけるのに大忙しで、ルルカまでもが「あわわわ……わ、わたしも手伝ってくるねっ?」と言い残して手伝いにいく始末。
「おとさま、よその子どもにも、厳しい」
「まあウルガだしな。『狂人』の名をほしいままにしておったあの男が、歳をとったぐらいで丸くなることもあるまい」
「……おふたりとも、落ち着きすぎじゃないですか?」
怖さのあまりだろう半泣きになっているセイラがツッコんでくる。
「そうか? 勇者を目指す学院ならこんなものだろう。この後戦うワシらとしては、ギャアギャア騒ぐよりどう戦うかを考えるべきだ」
「そ、それはそうかもですけど……」
とはいえ、多くの者が思ったよりも被害は大きかったのだろう。
クラス担任や子どもたちの保護者らが、運営本部の端にいたウルガに詰め寄っている。
「……これ、下手すると中止になるか? ワシとしてはこの強いゴーレムたちと戦ってみたかったのだが……」
そんな風に思っていると……。
「中止? バカを言うんじゃありません。この程度の木偶人形どもに負ける者ようなら、そもそも勇者になれるような器ではなかったということでしょう。むしろ篩にかけられてよかったではないですか」
いかにもお高くとまった、いけ好かない声が辺りに響いた。
「げげ、この声は……?」
嫌な予感がして振り返ると、そこにいたのはやはりマルダー。
「もちろんわたしの生徒たちなら倒せます。それだけの実力がありますから。ねえ、あなたたちもそう思うでしょう? この程度の敵なら余裕だと」
糸目を笑みの形に歪めたマルダーが振り返ると、後ろに控えていたAクラスの子どもたちが声を上げた。
声といっても「はい! もちろんです!」とか「その通りです、先生!」みたいな素直な返事ではない。
「「「「「「うおおおおおおー!」」」」」」
「「「「「「やるぞ! やるぞ! やってやるぞ!」」」」」」
「「「「「「敵は皆殺しだあああああぁー!」」」」」」
叫ぶ、叫ぶ。
剣を掲げ、拳を突き上げ、地面を足で踏み鳴らす。
相手を威圧するような大絶叫は、未開の部族の上げる『戦士の咆哮』そのものだ。
「ええ……おまえらってそんな感じだったっけ? もっとこう、実力を鼻にかけた嫌な感じで……野太い声とか上げないタイプではなかったっけ?」
さすがに戸惑うワシの鼻先を、あの匂いをくすぐった。
しかも、濃さが尋常ではない。
瓶ごと『魔薬』を鍋にぶちまけ煮つめたかのような、おそろしいほどに濃密な香りが漂ってくる
「ま、まさかおまえたち……全員……っ?」
ワシの疑念に答えるかのように鬨の声を上げたAクラスの子どもたちは、ゴーレムの待つ訓練場へと飛び降りていった。
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