「冒険の書百二十一:マルダーの誤算②」
~~~マルダー視点~~~
個人競技の終了後、マルダーはAクラスの生徒全員を教室へ連れて帰った。
見学に来た家族と水入らずで弁当を食べさせるのが入れ替え戦の通例だが、今回はそれどころではないという判断だ。
実際、成績は悪かった。
Fクラスの躍進に呑まれたせいでAクラスの生徒は全員調子を崩し、FクラスはもちろんBクラスに次ぐ三位という、過去最悪の成績となってしまったのだ。
「バカどもが! なんたる体たらくだ!」
マルダーは怒った。
顔を真っ赤にして叫ぶと、黒板をバンと叩いた。
「Fクラスに三連敗で!? その後も下位に沈んで!? ようやく調子を取り戻してきたと思ったらまたFクラスに三連敗して!? いったい何を考えているんだ!?」
マルダーは怒るが、生徒にだって言い分はある。
「で、でも先生っ。あの三人はおかしいですよっ」
「そうですよっ。最初のジーンとソーニャは徹底的にこっちの弱点をつかれた結果だからしょうがないし、コーラスはまあちょっと異常だけど……でも、後半のあの三人はっ」
「全員レベル八十以上ですし、見た目可愛いけどやることエグいですし」
「チェルチちゃんは空に浮いたまま魔術ぶっぱなしまくりで降りて来ないし。ずっと『飛行』し続けるとか、そもそも魔力量おかしいですし」
「ルルカちゃんも聖気強すぎですよ。あんな結界、一生かかったって破れる気しないです」
「極めつけはディアナさまですよ。他のクラスが結託して襲いかかってるのに、ひらひら蝶のように舞って捕まえられなくて……その姿がなんか幻想的で……俺、思わず興奮しちゃいましたよ」
口々に感想を述べる生徒たちにマルダーは。
「敵に対してちゃん付けするな! さま付けもするな! あと最後のおまえの感想は明らかにおかしい!」
バンバンバンバンと黒板を叩いて、マルダーは怒り散らした。
教卓に置かれていた弁当をぶん投げ、机を蹴倒して暴れまくった。
「レベル八十以上がなんだ! わたしは九十だぞ!?」
元々がプライドの高い性格なので、レベルなどのわかりやすい力の差には敏感だ。
自分より格下の相手に自分の教え子が惨敗したというのが許せないのだ。
それではまるで、自分が弱いみたいじゃないかと考えているのだ。
「しかもおまえたち、聞いていたか!? 個人戦終了後の王女殿下の講評を!」
リゼリーナは王族として生徒全員の頑張りを褒めたたえたが、信じられないほどの好成績を残したFクラスに関しては特に暖かい言葉を投げかけた。
大躍進を支えた一部の生徒――特にディアナを評する言葉は美しく彩られ、その目はまるで、恋する乙女のようにうっとりとしていた。
「くそっ、このままでは今後のわたしたちの将来設計に支障が……!」
この入れ替え戦を機にリゼリーナの心を掴んで恋人関係になり、あわよくば王家に名を連ねたいとすら妄想していたマルダーにとって、今回の惨敗はあまりにも痛い結果だった。
「このままではBクラスにも抜かれてCクラス落ち? そうなったら二度と王女殿下の目に止まることはできん……ええいこうなったら……!」
目を血走らせたマルダーは、懐に忍ばせておいた薬瓶に触れた。
大人の拳大の薬瓶にはラベルも張られておらず、白い怪しい粉が詰まっている。
それは数カ月前、職務を終えて下校していたマルダーに話しかけてきたチビで禿頭の商人から購入した薬だ。
商人曰く、『お湯に溶かして飲むことで精神を高揚させ、普段は発揮できない真の力を解放できる魔法の薬』だとのこと。『過度な服用には副作用の恐れがあるが、少量を定期的に服用する分には最高の精力剤である』とも言っていた。
生徒たちの成績の伸び悩みを気にしていた当時のマルダーは、半信半疑ながらもこれを入手、給食時に生徒たちの飲み物にこっそり混ぜて飲ませていた。
実際に薬の効果はあり、生徒たちのレベルは急速に上昇していたのだが……。
「副作用がなんだ。人間、ここぞという時には攻めるあるのみだ」
ディアナへの対抗心と自らの栄達を求めるあまり、マルダーは悪魔の決断をした。
「おまえたち、怒ったりして悪かったな。ちょっと冷めてしまったが、弁当を食べようじゃないか。おっとそうだ、いつものスペシャルドリンクも忘れずにな。今日のは特別にスパイスを効かせてあるんだ」
ニタリ笑うと、薬瓶の蓋を緩めたのだった……。
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