「冒険の書百十四:二番手はソーニャ」
「わ、え、ええぇ〜!?」
ジーンの勝利を目の当たりにしたセイラが、驚きの声を上げた。
あまりにビックリしたのだろう、素直に喜んでいいのかわからずにいるようだ。
「これって不意打ち? 反則? いや、開始の鐘は鳴ってるから反則じゃない? 大丈夫なんですかディアナさま?」
「もちろん問題はない。ジーンはあくまでルールを守っている。良い悪いで言うなら、会話に集中しすぎるあまり準備を怠った、相手が悪い」
そう仕向けたのはジーンだが、これは勝負事だ。
しかも将来の勇者を目指す者同士の誇りを賭けた戦いのだから、乗せられたほうが悪いに決まってる。
「目潰しとかも?」
「無論だ。剣だけで戦うように、などというルールは存在しない。つまりは正真正銘、ジーンの勝利だ」
「わ、わああああぁぁぁ~っ!?」
ワシが認めたことでようやく実感できたのだろう、セイラは改めて喜んだ。
自分の教え子の戦果に涙目になり、何度も手を叩いている。
「やった、やった、やったねジーンっ。やりましたねディアナさまっ。ディアナさまのおかげですねっ」
「いや、そうではない。勝ったのはジーンだ。あやつはもともと器用で技術力が高く、ワシの流派である『ドラゴ砕術』に伝わる剣技のうち、『セキレイの剣』・『脛斬り』・『龍尾(万一の備えとして覚えさせておいた、太ももの大動脈や金的などを狙う隠し技)』の三つをあっさり覚えた。だが、何より良かったのは作戦をブレずに実行できた精神性だ。戦い前にも言っただろう、ジーンが一番手に向いた性格だとな。あやつはな、どんなに不利な状況でも冷静に自分のすべきことができるのだ」
ソーニャとのコンビでワシに挑んで来た時もそうだった。
圧倒的な戦力差のあるワシに、しかしジーンはめげずに、かつ冷静に挑んできた。
「人間、極度の緊張下では萎縮して動けなくなるか、混乱して普段やったこともないような無茶をするものなのだ。あのぐらいの年齢の子どもならなおさらな。だが、あやつは違った。一番最初の、ジーンとソーニャ対ワシという絶望的な戦力差のある戦いの中でもな、決して諦めずにコンビネーション攻撃を仕掛けつつ、ワシの隙を探していた。今回のこれぐらいの相手なら、なおさら問題あるまいよ」
「でも、レベルに三十も差があって……っ」
「ワシとの差は六十以上だぞ」
「ああ、たしかにっ。でもすごいっ、ホントにすごいっ」
嬉しさのあまりだろう、とうとうボロ泣きし始めるセイラ。
Fクラスの子どもたちも、底無しに喜びまくっている。飛び跳ね、拳を突き上げ、耳を劈くような大歓声を上げている。
「……」
その光景は、ワシの胸を熱くさせた。
師匠のドラゴ・アルファや皆と共に修行に打ち込んでいた、そして二度とは戻らぬあの日々を思い出させた。
そんな中……。
「……ありがとね、ディアナさま」
ひとりだけ、喜びの輪に加わらない娘がいた。
ソーニャだ。
ジーンの双子にしてクラスの参謀を務めるソーニャは、訓練場を見下ろしながら淡々と言う。
「以前にも言ったことがあったかな。あたしたちはさ、貧乏な家に生まれたんだ。母ひとり、めんどくさい子がふたりでさ、今日明日のご飯も満足に用意できないのが日常だった。今から三年前だったかな。お母さんが病気になっちゃった時はさ、ホントに絶望したの。ジーンとふたりで泣いて、泣いて、自分たちに何ができるか考えて……見つけたのがこれだったんだ。勇者学院に入って、勇者になる。そしたら倍にして返すから、入学金とお母さんの治療費を出してくださいって、偉い人に頭を下げて回ったの。だからね、いつまでもFクラスでくすぶってるわけにはいかなかったの。ありがとう」
すっくと立ちあがると、ソーニャはワシを見つめた。
オレンジ色の瞳には、感謝の念が満々と湛えられている。
「あたしも勝つよ。勝って、もっと上にいく。ディアナさまがいなくなっても、ずっと上にいる。そんでいつか、この恩はまとめて返すから」
皆と一緒になって喜ばないのは、まだまだ満足していないからだろう。
この娘の夢は、遥かに遠い先にある。
「そういうセリフは、勝ってから言うものではないか?」
ワシが煽ると、ソーニャはふふんと笑って返した。
いかにもソーニャらしい、勝気な笑みだ。
「負けるわけないじゃない。だって、あたしたちはディアナさまの弟子だもん」
あっさり言うと、ソーニャは訓練場へと降りていった。
片手に長杖を持ち、訓練場から上がって来たジーンとすれ違いざま、片手同士をバシンと打ち合わせた。
「ソーニャさん、すっごい強気……」
基本弱気なセイラが、びっくりしたように目を丸くする。
「そうだな、あやつの良さはなんといっても、あの勝気な性格にあるのだ」
「彼女にも、何か策を?」
「うむ。難しい策だが、ソーニャならば実行できるだろう。あの偏屈なイールギットの奴めが編み出した術だから、相当に困難ではあるだろうがな」
「イールギット……それってまさか、勇者パーティの……伝説のエルフの大魔術師……? え、え、ディアナさまってひょっとして、イールギット様とお知り合いで……?」
おっとしまった。
ワシってば、また余計なことを……。
「そ、そんなことより、始まるぞ」
セイラを黙らせると、ワシは誤魔化すように訓練場に目を向けた。
ソーニャの相手を務めるのはAクラスのヘルミナとかいったか、金髪の縦巻きロールのお嬢様だ。
互いにジョブは『魔術師』、競技名は『やれるもんならやってみな! タイマン魔法対決!』だ。
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