「冒険の書百十三:ジーン、セキレイの剣!」
~~~ジーン視点~~~
「互いに向かい合ってんだ、不意打ちなんて言うなよな!」
開始の鐘が鳴ると同時に、俺は仕掛けた。
狙いはマカインの胴……ではなく手。
魔剣を抜こうと頑張っているところを、叩き斬るのではなく引っ掻くようなイメージで。
左小手、右小手、左拳、右拳。
剣の重みと反動のみで剣先を動かし、上下からテンポよく攻めていく。
「な、なんだこの剣筋は……っ!?」
見慣れない剣の軌道に、マカインは驚きの声を上げた。
「くそっ……攻撃が途切れない……っ、ねちっこいっ!?」
思いきり振りかぶったりしない分、俺の攻撃には隙が生まれにくい。
手数が多い分、回避も難しい。
けっきょくマカインは剣を抜けないまま、ひたすら後ろへ下がり続けていく。
「ちくしょう、いったいなんなんだよそれは!?」
「『セキレイの剣』って言うんだってよ!」
「セキレイ……? そんなの知らねえっつうかなんて汚ねえ、邪悪な剣だよ! 剣士としての誇りはねえのかおまえには!」
マカインの言い分は一方的で、自分勝手だ。
が、苛立つのもよくわかるんだ。
実際、今まで俺たち勇者学院の生徒が習ってきたハイドラ王国正統流剣術とは真逆の軌道だもんな。
今まさに自分が追い込まれていることもあるし、否定したくなって当然。
「わかるよ、俺たちはずっと聞かされてきたもんなあ! 『獅子の如く構えなさい』とか『鷹の如く突きなさい』とかな! 頭の固え教官たちに! でも、ディアナさまの剣術は違うんだ!」
合宿でディアナさまが教えてくれたのは、いかにも実戦重視の剣術だった。
卑怯で、泥臭くて、でも面白いほどに理屈が通ってる。
今回のこれだってそうだ。
「手を斬り飛ばさなくても、叩くだけで剣は落とせる! 動脈を引っ掻いて傷つけられれば、それだけで勝負は決まる! 戦場で相手の命を取るためだけに効率化された、泥臭い剣術っ! でも効くだろ!? 苦しいよなあ~!?」
本来ならセキレイの尻尾のように剣を動かして、相手との間合いと鍔迫り合いを制する技術だとか言ってたっけな。
相手の剣が邪魔してくること前提なんだけど、今回はそれが無いから一方的に攻めることができてるんだ。三十もあるレベル差を覆すほどの、それは圧倒的なアドバンテージだ。
「勝てばそれでいいのかよ!? 誇りはいらねえのか!?」
「負け惜しみ言ってんなよ! そもそも戦いに負けちまったら、勇者になるもなにもあったもんじゃねえだろうが!」
「くっそがあぁぁぁぁぁー!」
悔し紛れに叫んだマカインは、魔剣を鞘ごと振るって俺の剣を弾いた。
そのまま攻撃するのではなく――その場で剣を抜くのでもなく――背中を見せて走り出した。
俺から徹底して距離を置いて、なんとしてでも剣を抜こうというつもりだ。
来た!
内心で、俺は快哉を叫んだ。
ここまですべて、ディアナさまの想定した作戦のとおりだ。
――よいか? 言葉で相手を惑わせて攻めれば不意をつくことができる。相手が剣を抜く前に小手や拳を攻めれば一方的だ。だが、もし相手が『敵に背を向ける』という恥をかいてでも勝とうとするなら、そこにこそ本当の隙が生じる。その時はな……よいか? いったん剣を抜かせるのだ。そしてな……。
「っしゃおらあぁぁぁ~! ようやく抜けたぜえぇぇぇぇ~!」
ダッシュで逃げて俺から距離をとったマカインは、勢いよく魔剣を引き抜いた。
貴族の息子であるマカインの家に代々伝わってるんだとかいう炎の魔剣は、刀身からゴオオッと炎を噴き上げた。
熱量の凄まじさで、辺りの空気が揺らぐほどだ。
「今までよくもやってくれたなあ~! だがここまでだ、『衝撃緩和』の魔法なんか関係ねえ、この炎の魔剣でてめえの骨まで燃やし尽くしてや……」
「そうかい、そいつは良かったなあー!」
満面に笑みを浮かべるマカインの顔面に、俺は拾った砂をぶん投げた。
炎の魔剣のせいで死角になった下から、思い切りザバッと。
「っぷあ……目潰しだとおぉ……っ!?」
剣士と剣士の戦いで、まさか砂をぶつけられるとは思ってなかったのだろう、目を封じられたマカインは悔し気に呻いた。
「……ちくしょう! やられてたまるか!」
ぶんぶんと剣を振って俺を近づけないよう頑張るが、目の見えない状態じゃ当たるものも当たらない。
「喰らえ……『脛斬り』!」
俺は魔剣の下をかいくぐると、マカインの脛を狙った。
これも、ハイドラ王国正統流にはない剣筋だ。
敵の体の端っこにあたる、脛を斬る技。
実戦でも躱しづらいだろうが、目を封じられた今となっては回避不可能だろう。
実際、俺の剣は思い切り当たった。
『衝撃緩和』の魔法のせいで斬り裂くことこそできなかったが――
「痛ってえええええ~!?」
鈍器で思いきり脛を殴られたような形になったマカインは、脛を抱えて転げ回った。
「勝った、勝ったぞ……いや待て。気を抜くなよ、俺」
――よいか? 例え当てても気は抜くなよ? 実戦でも、倒れた敵が死に物狂いで反撃に出てくることはあり得るのだから。剣先を相手の急所に向け、いつでも突けるようにするのだ。これは残心といってな、武人の大事な心得のひとつなのだ。
ディアナさまの忠告のとおり、剣先をマカインに向けて残心を決めたが、当のマカインは地面にうずくまったまま動かない。
口から漏れるのは「ひい、ひい」という苦しみの呻き声のみで、反撃してくる様子はない。
うん、これは勝った。
完全に俺の勝ち。
「はん、口ほどにもねえ」
な~んて、気取って言ってはみたが、内心ではウキウキだった。
嬉しさで口がむずむずするほど。
だって、考えてもみろよ。
俺って剣士レベル二十五だぜ?
Fクラスで、ゴミだ獣だとバカにされてたようなガキだ。
それがレベル五十五の、Aクラスで炎の魔剣持ちの貴族の息子を圧倒したんだ。
これが喜ばずにいられるかっての。
「っしゃおらああああ! 見たかソーニャ! ディアナさま! 下剋上決めてやったぞおおおおぉぉぉ~!」
俺が拳を突き上げのると同時に審判が決着を宣言、会場中が歓声に包まれた。
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