「冒険の書百十二:ジーン仕掛ける!」
〜〜〜ジーン視点〜〜〜
抽選の結果、初戦の対戦カードが決まった。
Bクラス対Dクラス、Cクラス対Eクラス。
Fクラス代表の俺がAクラスのマカインにぶつかることを知った観客が、一斉に笑い出した。
「あちゃー、FクラスとAクラスかよ」
「しかもAクラスは首席のマカインだぜ? あいつ、前回もこの競技で首位だったよな?」
「圧倒的だったよ、一族に伝わる炎の魔剣とやらで一閃。相手が可哀想なほどだった。……Fクラスの奴、死んだな」
魔術師学院の人らが張った『衝撃緩和』の結界のおかげで攻撃が当たっても死ぬことはないが、当たり所が悪ければケガはする。場合によっては大ケガだってするかもな。
俺たちの実力差と戦いの結末を想像した観客が、可哀想なものを見るような目を向けてくるが……。
「へっ、好きに言ってろ。決着がついた後に驚くのはおまえらだからな」
俺は気にせず、抜き身の長剣を肩に担いだ。
膝を緩め、リラックスして構えた。
「でもまあ、ある意味じゃありがたいのかもな。『ナメられてる状態のほうが番狂わせを起こしやすい』ってディアナさまが言ってたけど、ホントにそのとおりだわ。他クラスの連中はみんな、『俺と当たりたかった』って顔してんもん。俺の実力も知らないくせに甘く見て、油断して……。そうだ、『相手を呑む気合いは大事だが、慢心とは違うぞ』とかも言ってたっけな。さっすがディアナさま」
ディアナさまについて言うと、どう見たって子どもだから『さすがに無理あるんじゃね?』と思う時はあるんだけど、どの言葉も理屈がしっかりしてて現実味があって、『なるほどなあ』と唸らされるものばかりなんだよ。だからどうしても信じちゃうの。
誰かが『戦女神の生まれ変わり』なんじゃねえかって言ってたけど、案外当たってたりして……。
「なんだ、Fクラスの一番手は子どもかよ。マルダー先生が煽り倒してくるからいったいどんなのが出てくるかと思えば、拍子抜けもいいとこだな」
対面のマカインが、ニヤニヤしながら話しかけてきた。
得物の魔剣(一族に伝わる炎の魔剣だとか)はまだ鞘の内で、偉そうに腕なんか組んでる。
最初から臨戦態勢の俺とは真逆の、ナメた態度だ。
「はん、見た目で侮るとケガするぜ?」
「させてみろよ。とはいってもこちとらレベル五十五の『剣士』だ。おまえ如きじゃ傷ひとつつけられないだろうがな」
マカインの言葉に、観客が再び反応する。
「レベル五十五だって!?」
「ひゅう~、マジかよ! ベテランクラスの上位じゃん!」
「在学中にそこまで上がるとかあり得る!?」
「Sクラス……まではいかないにしても、王女殿下に近いとこまではいってるぞすげえな」
観客の反応を聞いたマカインは気持ち良さげに笑うと……。
「だそうだぜ? なあ、おまえも見た目は剣士っぽいが、今現在、何レベル?」
「俺は二十五だ」
俺の言葉に、観客はどっと笑い声を上げた。
「二十五!? たったの!?」
「ビギナークラスじゃん! それでよくあんな偉そうなこと言えたなあ!」
「見た目で侮るとケガするんだっけ? おっかねえ~!」
マカインもまた、お腹を抱えて笑い出した。
「に、にじゅうご、まさかの……げほっ、げほげはっ、わ、笑い死ぬ……っ」
ヒイヒイと笑い苦しむマカイン。
いやホント、ディアナさまはすげえわ。
こういうのを『慢心』っていうんだよな。
「おまえはホント、哀れな奴だよなあ~」
俺はボソリとつぶやくと、審判の方に目をやった。
入れ替え戦の審判は不正が行われないよう外部の人間を雇って行わせる。
俺たちには縁もゆかりもない人たちだから、どっちに肩入れするとかもない。
俺たちがどれだけいがみ合っていても関係なく、定刻になったら鐘を打ち鳴らして試合を始めるだろう。
「……この感じだと、あと一分ちょいってとこか?」
まだ鐘を鳴らすための木槌を手に取っていないところからザックリ計算した俺は、ディアナさまから授けられた策を実行しようと声を張り上げた。
「なあ、クイズしようぜ? 『レベル百のエリート剣士ひとりと、レベル一のビギナー剣士百人が戦ったらどっちが勝つ?』」
「はあ? そんなもん、エリートに決まってるだろうが」
「ホントか? 百人の突きが同時に襲い掛かってきても、同じことが言えるか? 百本の剣が同時に飛んでくるんだぞ? 喉に、目に、頭頂部に、つま先に膝に金的に、ありとあらゆるところに一斉に突きこまれて、それでも生きてられるか?」
「そ、そんなもん机上の空論だろうが。実際には一度に相手を攻撃できる人数は決まっていて……っ」
審判が木槌を手にした──もうちょいだ。
マカインは腕組みしたまま、剣の柄に手すらかけていない──よし、いいぞ。
「じゃあもう一個クイズだ。『レベル百のエリート剣士ひとりと、レベル一のビギナー剣士が戦うんだ。しかしビギナーは一度に百の突き放てるものとする。これならどっちが勝つ?』」
十──
「同じことだろうが。それもやはり机上の……」
七──
「ブブ〜、どっちも外れ」
五──
「はあ? 何を適当なことを……」
三──
「空論じゃないってことを、教えてやるよ。剣士の戦い方はひとつじゃないってことをな」
俺のセリフが終わるか終わらないというタイミングで、鐘がガアンと打ち鳴らされた。
「あ、始まった」
「え、もう?」
「嘘だろ、心の準備が……っ」
俺の謎かけを解くのに集中していた観客は、一瞬反応が遅れた。
それは当事者であるマカインも同じで……。
「ん? 開始の合図? もう始まってえぇぇ――?」
マカインが長剣を抜こうとした時には、俺はすでに仕掛けていた。
飛び込みざま、背に負っていた長剣を叩き込んだ。
「互いに向かい合ってんだ、不意打ちなんて言うなよな!」
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