「冒険の書百六:入れ替え戦当日」
さて、いよいよ『入れ替え戦』の当日だ。
天気は快晴。気温も程よし。
ワシらは勢いよく勇者学院の正門をくぐった。
「おっと、こいつはすごい人だな」
驚いたのは、敷地内が人でごった返していたことだ。
多くは子どもたちの頑張りをひと目見ようという家族たちだったが、中にはハイドラ王国の未来を担う子どもたちの活躍を記事にしようと押しかけた新聞記者たちもいた。
訓練場の周りには観客席が設けられているし、香ばしい匂いをたてる屋台が学院の入り口から訓練場までぎゅうぎゅうにひしめいているしで、これは軽いお祭り気分。
「皆、今日という日を楽しみにしていたのだな」
感心しているワシの隣では、ルルカがいつものように。
「ど、どどどどどどうしようわたし緊張してきちゃった」
顔面を蒼白にして怯えている。
「おまえなあ、今さらこのレベルの催しでオタつかんでもよかろうに。今まで戦ってきた魔族や、それこそボルゾイとの戦いと比べてみろ。本当の意味で大人と子どもの差があるのだぞ?」
「そ、そうは言うけどさあ~」
もともとが小心者のルルカだ。頭ではわかっていても割り切ることができんのだろう。
だが、それでは困るのだ。
ワシら『聖樹のたまゆら』の一員として、ルルカには皆の精神的支柱になってもらわねばならんのだからな。
とはいえ、どうするかだな。
背中を叩いたぐらいではダメだとすると……いっそルルカの好きそうなものをエサにするか?
「わかった、わかった。ではこうしよう。おまえが緊張を克服し活躍できたら、なんでもひとついうことを聞いてやろう」
「なんでも……ひとつ……?」
オウム返しにつぶやいた瞬間、ルルカの背後に「ピシャアァァーン!」と雷が落ちた。
いや、落ちたぐらいの勢いでルルカの表情が変わった。
今までの緊張はどこへやら、拳を握ってワシに詰め寄ると……。
「ホントに? ホントにホント? やっぱりウソ、とか言ってもダメだからね? わたし、聞いちゃったからね?」
「うむ、武人に二言はない」
ワシが鷹揚にうなずくと、ルルカはその場に跪いた。
「生きててよかった……! セレアスティールさま、感謝します!」
何をそんなに興奮しているのか、鼻血をダクダク流しながら女神に祈りを捧げている。
「あれ……? これ、美味い飯とかじゃすまないやつ?」
「あ~あ、スイッチ入っちまった。あたいは知らないからな~?」
チェルチが呆れたように言いつつ、屋台で買ったばかりの豚串を頬張っている。
「自分をエサにするにしても、相手は選ばないとだぞ」
「むむむ……たしかに早計だったかもしれん……」
ワシにして欲しいことをブツブツ呪文のようにつぶやくルルカは、控え目に言っても危ない人だ。
内容も「○○と××を着てもらって、△△のポーズで……」とか「『写真機』で激写して永遠に残して……」とか、具体的に何をさせようとしているのかはわからんが、ちょっと怖い。
「ま、今から悩んでいてもしかたない。なるようになるだろう」
割り切ったワシが振り返ると……。
「おっしゃ! 行くぞおまえら!」
緊張でガクガクになっているFクラスの子どもたちに、ジーンが発破をかけていた。
「おうおう、元気出してけおまえら! あれだけ練習したんだ、怖いものなんかないだろうが!」
「そうよそうよ、ディアナさまも太鼓判を押してくれたわけだし!」
ジーンに同調するように、今度はソーニャが発破をかける。
「あたしたちは誰より頑張った! あたしたちは誰より強い! あとはそれを証明するだけよ!」
実際にはそんなに簡単にいかないものだが、こういうのは気の持ちようだからな。
できると思えばできる、できないと思えばできない。
ならばできると思わせればいい、というわけだ。
「うむ、ふたりの言うとおりだ。おまえたちは強い。上のクラスの奴らなんぞ目じゃない。このワシが保証してやろう」
ワシがダメ押しすると、子どもたちは「うおお」とばかりに盛り上がった。
「ディアナさまが言ってくれるなら大丈夫だ!」
「そうだよ、あれだけ厳しいディアナさまのしごきに耐えたんだからな!」
「うおお、この勝利ディアナさまのために!」
「ディアナさま! ディアナさま!」
「ディアナさま! ディアナさま!」
突如として始まった『ディアナさまコール』の異様さに、道行く人たちはぎょっとして振り返る。
「何あれ? 有名人?」
「なんか……邪教崇拝の集いみたいな……」
「ディアナ教? 聞いたことないわね……」
うむむ、この手の風評被害はさすがにキツい。
変に有名にならないようにせねば……。
「お、おまえたち。その辺にしておいたほうがよくないか?」
ワシが慌てて皆を止めていると……。
「おや、なんですか品のない。あなたたちはそれでも栄えある勇者学院の生徒ですか?」
いかにもお高くとまった、いけ好かない声が辺りに響いた。
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