「冒険の書百五:合宿④」
王家付きのシェフによる豪華な料理は、それはもう素晴らしいものだった。
・大ツボ貝と氷河苔のマリネ。
・黄金鹿の燻製と蜂蜜林檎パン。
・竜骨と虹玉ねぎのスープ。
・月光鱒の香草焼きとニ十七面鳥の丸焼き。
・木苺とメロンのシャーベット。
普通に生きていたら一生お目にかかれないほどのご馳走に、子どもたちは目を輝かせた。
手や口の周りをベタベタに汚しながら、心ゆくまで味わった。
食事が終わった後は、場所を教室へと移してリゼリーナが先生を務めるお勉強タイムだ。
Aクラス首席だった経験を活かした各競技の分解や、ポイントをつける先生の癖、他クラスの有力選手の強みや弱みなど、実際に体験した者だからこそわかる情報が満載で、子どもたちは盛んにうなずきながらメモをとっていた。
ララナとニャーナも加えた『黄金のセキレイ』による軽い実技指導も行われたが、さすがに身分が身分なので、リゼリーナはここで退散。
「わ、わたくしもディアナさんと一緒に就寝をぉぉぉ~っ!」
謎の悲鳴を上げながら去って行くのを見送ってから戻ると、わっとばかりに子どもたちが群がってきた。
ワシの肘を抱き、裾を掴み、盛んに話しかけてきた。
「すごいねディアナさま、王女殿下と旅してたのホントだったんだ!」
「お城の晩餐会にも呼ばれてるんでしょ? いいなあ~、わたしも一度でいいから行ってみたい!」
子どもたちが憧れを口にするのに対してワシは、「勇者になればおまえたちも会えるぞ」とか「誰も真似できぬ功績を上げればいい。そのためには努力あるのみよ」とか、自分たちがすべき努力の方向性を伝えた。
これ以上ない具体例が目の前にいるおかげで説得力があったのだろう、子どもたちは素直に受け止め、目を輝かせた。
「わかった! やってみる!」
「うおおお、やるぞ~! 明日も頑張って練習だ!」
子どもたちの気合いの入った声が、教室中にこだまする。
「これは予想以上の成果だな。やはりリゼリーナの奴を呼んでよかったわい」
ワシが目を細めて喜んでいると……。
「さ、ディアナさま。お待ちかねの筆記テスト対策の時間よ~?」
教壇に上ったソーニャが、キラリと目を光らせた。
セイラから借り受けたのだろう教鞭でピシリと手の平を打つと……。
「今日は出来るまで寝かさないからねえ~?」
にこやかに笑いながら、ワシを脅しつけてきた。
その目にはどこか嗜虐的な色があり、女としての将来を心配させるが……。
「ぐぬうう……わ、わかっておるわいっ」
相手は十歳児、こちらは姿形はともかく二百五十八歳児だ。
子どもたちの前で情けない姿は見せられないなと、歯を食いしばりながら席についた。
「ボクも、頑張る」
ワシの隣の席で、コーラスが言った。
「なんだコーラス、おまえも勉強は苦手か?」
「うん、ボク、勉強、苦手」
「歴史も、算術も?」
「全然、ダメ、ディアナと、一緒」
「いやいや、ワシも全然というほどひどくは……まあ、決してよくはないわけだが……」
「一緒、一緒」
何が嬉しいのだろう、コーラスはこてりこてりと首を左右に傾げ続ける。
そうこうするうち、ソーニャの筆記テスト対策は始まった。
四十人を成績のいい順に五班に分け、各自に小テストをやらせつつ、ソーニャが定期的に見て回る。
同じレベルの者同士なので疎外感がなく、むしろ皆に置いていかれないよう頑張るという、実に考えられた仕組みだった。
おかげで皆は集中し、効率よく勉強できたようだった。
「……わたし、天才かも」
「もしかして、百点いけちゃう?」
皆が盛り上がる中、ワシも(ワシなりに)出来た実感が湧いていた。
「このままいけば、赤点は回避できるかもしれんのう」
「ボクも、すこし、賢くなった、かも」
コーラスも心なしか得意げな様子で、こてりと首を傾げている。
+ + +
勉強の終わった後は、就寝の時間だ。
と言ってもベッドなどがあるわけではない。体育館に四十人分の布団を敷いた雑魚寝だ。
セイラ先生は「なんでわたしがこんなところで子どもたちと……」とうんざり顔をしていたが、当の子どもたちはワクワク顔で騒いでいた。
「こんな大人数で寝るの初めて」
「おまえイビキかくなよ」
「おまえこそ歯ぎしりすんなよな」
「ね、恋バナしよ恋バナ!」
まくら投げに怪談に恋バナ(?)に。
子どもたちは限られた休息時間を全力で楽しもうとしたが……さすがに疲れていたのだろう、布団に横になった瞬間ぐっすりと眠りに落ちた。
人造人間であるコーラスも一応眠りはするようで(寝てる間に疑似魂を整理するのだとか?)、目を閉じた瞬間喋らなくなった。
「むにゃむにゃ、ディアナちゃん。そこはダメだよお~……えへ、えへへへへ♡」
相も変わらず謎の寝言を発するルルカはさておき、ワシも静かに目を閉じた。
「……おやすみ、皆」
第一日目の子どもたちの頑張りを評価しつつ、残りの合宿の日程の無事を祈っていると、いつの間にか眠りに落ちていた。
そうこうするうち三日間の合宿は終わり、いよいよ入れ替え戦の当日となった──
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