「冒険の書百二:合宿①」
合宿の日は晴れていた。
気温は暑くなく寒くもなく、そよ風が肌に心地のいい最高の日だった。
Fクラスの担任セイラ以下四十人の生徒は、休日で誰もいない勇者学院の体育館にお泊り用の荷物を運び込むと、すぐに訓練場に集まった。
最初にセイラからボソボソ覇気のない挨(?)があった後(「ああ~、なんだってわたしが休日返上でこんな仕事をぉ~……」とボヤいていた)、入れ替え戦のルールに詳しいソーニャが元気よく壇上に上がった。
「まずはルール確認から始めるわよ。『入れ替え戦』はポイント制。クラス全員が得たポイントを集計して、高い順番からA・B・C・D・E・Fに入れ替わるわ。つまり上手くいけば、FからAにいきなりジャンプアップすることも可能ってわけ」
ソーニャがニヤリと笑うと、子どもたち「おお!」とばかりに盛り上がる。
「ポイントを得るためには『個人競技』と『団体競技』でいい成績を残す必要があるわ。『個人競技』は『俺の拳が真っ赤に燃える! 攻撃力測定!』や『そんなんじゃあたいのスピードについて来れないねえ! 早口詠唱テスト!』みたいな感じの、文字通りの個人競技ね。それぞれが得意そうなのに参加して、頑張ってポイントを稼いできてね。『団体競技』……クラス全員でひとつに挑む競技は毎回内容が違うから事前対策が難しいんだけど……訓練場に入った瞬間あっと驚く『何か』が起こるって仕組みなのは間違いないわね。ちなみに去年は『アンデッド大量発生! みんなでがんばって退治しよう!』だったらしいわよ。訓練場の地面から大量のゾンビの手が出てきたみたいよ~?」
ソーニャがゾンビの真似をすると、子どもたちはキャッキャッと盛り上がる。
「……皆、本当にノリがいいな」
明るいし元気だし声も大きいし、リアクションもいちいちデカい。
個人競技の種目名にもいちいちキャッチフレーズがついているし、本当にここは学校なのだなと実感する瞬間だ。
ワシが同じぐらいの歳ならば一緒になって盛り上がることができたのだろうが、さすがに前世と合わせて三百八歳ではな……。
「いや~……さすがに老体に染みるわい」
ワシがしみじみため息をついていると、隣にいたルルカがツッコんできた。
「な~に言ってるのディアナちゃん、こぉぉぉんなにぴちぴちなお肌をしといて! 髪もつやっつやだしお手々もピンクがかってて綺麗だし! あのね! セイラ先生なんかね! 『子どもに嫉妬するのが醜いのはわかってるの。でもあれを見ちゃうとね、年月の残酷さを感じずにはいられないというか……。いっそ転生してエルフの美幼女になりたいというか……。そんでもってチヤホヤされながら一生過ごしたいというか……』とかってつぶやいてたよこの前!」
「さすがにやめてさしあげろ」
最悪な妄想を人前で暴露されてしまった形のセイラ(御年三十歳)が真っ白になっとるから。
「ソーニャの話を聞こうルルカ。ほら、また何か言っておるから」
話はいつの間にか、『個人競技』と『団体競技』の話から『筆記テスト』へと移っていた。
「体を使った実技の競技と比較して、地味だけど確実に稼げるのが『筆記テスト』ね。やればやった分だけ実力がつくし、ポイントになって返ってくるから、ここは絶対にサボらないこと。実技に関してはこれから練習するとして、筆記テストに自信のない奴は、夕飯を食べた後であたしが面倒見てあげるからね」
「げ、筆記テストがあるのか……」
苦手な分野の話に、思わず呻くワシ。
ソーニャはそれを聞き逃さず……。
「今『げ』って言った奴は、あたしがマンツーマンでみっちりしごいてあげるから覚悟しておいてね♡」
「げげげぇ~……」
ニッコリと笑う捕食者じみたソーニャの笑顔に、ワシは背筋を震わせた。
「筆記は苦手なんだよなあ~……」
そもそも武人に必要な教養じゃないし。
できることなら一生涯、離れていたい分野だし。
それとも、勇者になるならできねばならんのか?
いやいや、アレスだって決して勉強できるタイプではなかったし。
あいつはノリと顔で乗り切ってただけだし、間違いないし。
いやいやいや、そもそもワシは勇者になりたいわけでは……。
「……とはいえ、ここで逃げるわけにもいかんかぁ~……」
ワシはため息をついた。
これだけの子どもたちが集まり、目をキラキラさせながら上位クラスを目指している中で、まさか自分だけ逃げるわけにもいくまい。
観念したワシは、ソーニャに向かって頭を下げた。
「頼む、ソーニャ。色々教えてくれ。自慢じゃないがほぼほぼゼロからだが、どうか頼む」
「オッケー♡ ディアナさまには大きな役割があるからね、ある程度で勘弁しておいてあげるけど」
「それは助かるが……ちなみに、大きな役割というのは?」
「もちろん、『団体競技』の総指揮よ。どんなのかはわからないけど絶対に強力な敵が出てくるはずだから、そのための戦い方を教えて欲しいの。んで、本番でもバッチリ指揮をとって欲しいの」
「おお、それなら任せておけ」
得意分野が出てきたことで、ワシは一気に元気を取り戻した。
「今まで百や千じゃ効かない数の敵をぶっ殺してきたのだ。どんな相手とでも戦えるように鍛えてやる」
「おお~、さっすがディアナさまっ! 期待してるわよ!」
手放しで讃えたソーニャはしかし、ワシの傍に寄ると、ひそひそ耳打ちしてきた。
「でも大丈夫よ。ディアナさまがすごいのはわかってるから、わざわざ数字を盛らなくたって……」
「……盛る? どういうことだ?」
「え、だって百とか千とか普通に考えてあり得ないでしょ?」
「いや普通にあり得るのだが……?」
ソーニャの言葉の意味がわからずワシが首を傾げていると、ルルカがそっとソーニャの肩を叩いた。
「……ソーニャちゃん。ディアナちゃんを見た目で計っちゃダメだよ? 超絶可愛い月の妖精みたいな見た目をしておいて、中身は最強の武人だから」
「え、可愛いのも強いのもわかるけどでも……」
すると今度は、チェルチがソーニャの肩を叩いた。
「あんたはディアナを甘く見過ぎた。こいつが『どんな敵とでも戦えるように』っつったらそれは文字通りの意味だからな。こいつ、こういうことに関して手を抜いたりしないから覚悟しておけよ?」
「え、え? どういうこと? 覚悟ってなに?」
ソーニャが何に戸惑っているのかはわからんが、ワシにできることはただひとつだ。
「安心せいソーニャ。Fクラスの子どもたちは、このワシが責任をもって強くしてやろう」
胸をドンと叩きながらのワシの言葉に、なぜだろうルルカとチェルチが「はあああああ~……」とクソデカいため息をついた。
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