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脱皮

予約が増えておりません。これは由々しき事態です。とても悲しく辛いです。


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永禄十一年(一五六八年)五月 越前国 一乗谷 朝倉氏館 沼田上野之助祐光


 某は今、御屋形様の密命を帯びて越前は朝倉の居る一乗谷へと赴いていた。御屋形様の息の掛かっている朝倉景鏡を利用して朝倉義景と面会する。


 今回、某は朝倉に派遣されたのは、朝倉を対織田の戦線に引き摺り出すためである。御屋形様と某の見立てでは十分に入り込む余地があると思っている。


「其方は孫犬丸の使者か。面を上げよ」

「ははっ」

「して、孫犬丸は儂に何の用じゃ?」


 未だに御屋形様を幼名である孫犬丸と呼ぶ朝倉義景。おそらく、彼の時間はここで止まっているのだろう。だが我らは止まらない。前へと進むのみである。


「恐れながら申し上げまする。今、足利義昭が織田と共に上洛を狙っているとのことにございます。そこで、左衛門督様にも織田の上洛を阻止するため、兵を出していただきとうお願いに参った次第にございます」

「それは無理な相談だ。儂は義昭様に管領代に任じられておる。どうしてそのような不義が出来ようか」


 取り付く島もなく却下されてしまう。ここまでは想定通りだ。だが、自尊心が高く誇り高い男ほど動かしやすいのだ。


「お言葉ながら考えてもみてくだされ。このまま織田と義昭様が入京され、征夷大将軍に任じられれば織田が管領もしくは副将軍の地位に就きましょう。織田なぞ所詮は守護代の織田の家臣でございます。元を辿れば織田なぞ越前国は丹羽郡の織田荘の荘官にございます。その織田に頭を下げると仰られるのでしょうや」


  この越前国丹羽郡織田荘は朝倉氏が押領しているのだ。そう告げると朝倉義景が「むぅ」と小さく唸った。そうであろう。それは名門である朝倉の血筋が許さない。さらに追い打ちをかける。


「そうなれば浅井殿は『管領の義弟』として辣腕を振るうことになるのでしょうな。我々が浅井殿に頭を下げる日もそう遠くはないでしょう」


 そう述べると、義景が握っていた扇子から鈍い音が響いた。それは我慢ならなかったようだ。朝倉と浅井は盟友の関係だが、立ち位置としては朝倉が兄、浅井が弟といったところだろう。


 弟が兄を超えるなどあってはならないと思っているようだ。ここまでくれば、最後にもう一押ししてやれば朝倉は動くに違いない。


「平島公方様に朝倉左衛門督様を管領代に任じてもらえるよう、お願いしてみましょう。まずは如何でしょうか。浅井殿に観音寺城攻めに加わるなと制止をかけてみては?」

「そうじゃな。それが良い。式部大輔、浅井に文を」

「ははっ」


 傍に控えていた朝倉景鏡にそう指示を出す義景。これで浅井の出兵を阻止する、いや阻止できなくても兵数を減らすことは出来そうだ。そうすれば織田は一気に孤立する。


 義景との面会を終えた後、景鏡の屋敷に邪魔をして二人きりで話を詰める。議題はもちろん先程の織田の観音寺城攻めについてだ。


「織田は血気盛んでございますな」

「全くにございます。して、朝倉殿は誰を観音寺に送るおつもりで?」

「はて。派兵の予定はないが?」

「何を仰います。今こそ政敵を屠る好機ではございませんか。朝倉としては派兵した事実が残り、式部大輔様としても邪魔者を排除できる。さらに朝倉の家中はその者の死によってより強固になりましょう」

「ふむ。なるほどなるほど。あ、いや、そのような者はおりませなんだ。居りませぬが、派兵の件、前向きに検討しておきましょう」


 御屋形様の情報通りである。景鏡は朝倉家全体のことよりも保身の方が大事であると。大軍での派兵は望めぬが朝倉家からの派兵という事実はつくれそうである。


「しかし、何故備中守様は織田に反旗を?」

「御屋形様は平島公方に与するゆえ、織田と敵対するは必然にございまする。平島公方から御内書が届いたからでございますな」


 嘘である。御内書など届いていない。いや、正しく述べると御屋形様が戦を始める理由として御内書を取り寄せている最中である。


「成程。そうでござったか。いや、なに。翻意された理由が気になっただけに」

「その御懸念、わかり申す。御屋形様も成り上がり者である織田が許せなかったようにて」

「その気持ち、痛いほどわかりますぞ」


 景鏡が某の手を取りながら涙を流しつつ熱弁する。何というか、御屋形様が景鏡を利用する意味がよくわかった。こういうことだったのか。


 この後、某は景鏡の酔った勢いによる愚痴を延々と聞かされる羽目になったのであった。


◇ ◇ ◇


永禄十一年(一五六八年)五月 近江国 観音寺城 六角承禎


 儂は今、強い危機感を覚えている。六角が滅ぶかもしれないという危機感だ。馬鹿息子が後藤親子を誅してからというもの、六角の求心力が落ちているように思う。


 そこに東から足利義昭を携え上洛しようとしてくる織田が現れたのだ。危機感を覚えない方がおかしい。そこで儂は平島公方を利用して諸将を観音寺城へと集めたのである。


 流石に公方は来ていないが、名代の三好三人衆を筆頭に本拠である我ら六角、大和の筒井、それから何と言っても若狭の武田だ。又甥ではあるが、来てくれるとは思わなんだ。


 ここ数年、出会っていなかったが風格が備わったように思う。この場にて一番堂々としていたのは備中守だ。表情に怯えがない。


「集まっていただき感謝致す。将軍の名代として僭越ながら某が場を取り仕切らせていただく」

 

 そう述べたのは三好三人衆でもある三好宗渭であった。将軍の名代である三人衆が上座である。席次としては三人衆、我ら六角、筒井、武田だ。備中守は遠慮して下座に座ったようだ。


「さて、議題は他でもござらん。織田と将軍を僭称する足利義昭についてである。彼奴等が上洛を目指し、軍を動かしているのは明白。伊勢の神戸を下せばそのままこの観音寺へやってくるであろう」


 ここまでは同意である。伊勢を落としているのは後顧の憂い無く上洛を目指せるようにするためだ。早ければ来月にもこの観音寺に迫ってくるだろう。


「そこでこの観音寺城にて織田勢を迎え撃とうと考えておる。諸将の意見を伺いたい」


 そう言うと喧々諤々と各々が意見を述べ始めた。我ら六角からは蒲生定秀が譲れぬ意見を述べている。兵力だけは絶対に確保しなければならない。それは事前に取り決めていたことである。


 それよりも不気味なのは武田よ。これまで一言も発言をして居らなんだ。もしや、織田と内通をしているのではないだろうか。こちらの情報を探りに来ているのではと勘繰ってしまう。


「備中守殿は如何思われますかな?」


 儂がそう述べると皆の視線が備中守に向いた。彼の言葉を逃すまいと辺りが静まり返っている。備中守は柔らかい笑みを浮かべながら口を開いた。


「ふふふ、こうも注目されますと何だか気恥ずかしさを覚えますな」

「今は戯言を尋ねているわけでは――」

「わかっており申す。しかし、私はまだこの対織田連合に参加を決めたわけではございませぬ」


 そう述べた途端、場の空気が変わった。やはり織田と内通しているのではないだろうか。何を考えているのかがわからない。得も言われぬ恐怖を感じる。たらりと汗が流れた。


「そう早合点なさらず。まずは皆々様が如何ほどの兵力にてこの観音寺城に集まる心積もりなのかをお聞かせ願いたい」


 そう述べる備中守。まずは率先して我らが兵力を述べた。そもそも、我らとしては兵力を出し惜しみするという選択肢がない。全兵力を集めるつもりだ。


「我らは一万五千だ」


 家中が浮足立っている現在、一万五千を集めるのが関の山だろう。我らに続いて意見を述べたのは大和の筒井である。大和も筒井と松永で二分されているのだ。


「三千にて参戦する所存」


 これにて一万八千。ただ、織田は五万もの大軍を動員することが出来る。一万八千の兵では太刀打ちできない。三好がどれだけ融通してくれるかが鍵となるようだ。


 利に敏い織田である。京に上ればそのまま堺も手中に収めるだろう。そうなれば三好とて他人事では済ませられないはず。


「我ら三好は五千の兵にて助力致そう」

「五千……あの天下の三好がたったの五千。これはどうやら三好殿は本腰を入れられないと見える。戦うだけ無駄かと諦めたか。それならば我らは合力出来ぬ。最早これまで」


 そう言い残して席を立とうとする備中守。確かにあの三好が五千しか融通してくれないのはおかしい。備中守の言葉で場が動揺する。


「お待ちを。備中守殿は如何ほどの兵にて参戦なさる予定で?」

「先に述べた通り、我らはこの会合から撤退させていただく。三好殿が一万ほど動かしてくれるのであれば参戦も有り得たでしょうが、五千では話になりませぬ」


 侮蔑のような笑みも交えて備中守が言った。言い切った。儂にもわかる。あの頃の孫犬丸はもういないのだと。今、目の前にいるのは戦国という乱世をのし上がった武田備中守だ。


「もし、我らが一万の兵にて参戦するのであれば、備中守殿も参戦なされると?」


 三好宗渭が武田備中守に問う。備中守は座り直し、こう述べた。


「それ以外に我らが参戦するには三つの条件がございます。一つ目は織田を討てとの御内書を頂戴したく。相手は叔父上にござる。戦うのであれば名目を与えていただき等ございます」

「承知した」

「二つ目は叔父上……朝倉左衛門督様を管領代に任じていただきたい。さすれば越前からも後詰めが届きましょう。また、浅井の動きも牽制できまする」

「……それも承知した。管領代であればできるだろう」


 ちらりとこちらを見る三好宗渭。儂は静かに頷く。管領代は六角が最後に任じられていたが、背に腹は代えられない。それを譲って武田と朝倉の兵が増えるのであれば譲るべきである。


「三つ目は一色治部大輔を越前に送っていただきたい」

「如何なる理由で?」

「一色治部大輔には越前から美濃を攻め奪っていただきたく。仮にも前国主であり、攻め入る動機は十分かと。兵が足りなければ我らから融通しましょう」

「それも構わぬ。今は伊勢に居るとのことだ。伊勢もすぐ織田の手に落ちる。そうすれば困るのは一色治部大輔だ。本人も越前には向かいたいであろうな」


 備中守が三つの条件を話した。しかし、肝心の兵力の話はしていない。果たして備中守はいくらの兵力にて駆け付けてくれるのであろうか。蒲生定秀が切り出す。


「そこまでは理解いたし申した。して、肝心の兵力は如何にございましょう?」

「そうですね。朝倉の後詰めと併せて二千ということろでしょうか」

「二千!? たったの二千と申されるか!?」


 思わず大声を出し、立ち上がってしまった。今や西は備中から東は若狭まで治める武田備中守が二千の兵しか送らぬという言葉に驚いたのは儂だけではないはず。


「いやいや、然に非ず。二千は二千でも千の兵には種子島を持たせておりまする。城の守りであればこの上ない後詰めになりましょう」


 入手しやすくなったとはいえ、種子島はまだまだ高価である。それを千も融通してもらえるのであれば、ありがたいことこの上ない。


「承知いたした。備中守殿の後詰め、痛み入り申す」

「まだにございます。さて、この反織田連合軍とでも申しますか。我らの軍をまとめあげる人物が必要にございます」

「それは自身が盟主になると?」


 蒲生定秀が言う。備中守はそれを即座に否定した。


「いえいえ、滅相もございませぬ。こちらには公方様がおいでにございます。十分な兵力にてご助力いただけるとのことですので、此処は公方様に御出座いただくのが良いかと」


 上手い。これで三好は大軍を動員せざるを得なくなった。備中守が流れを作ってくれた。この流れに乗るべきだと儂の勘が言っておる。


「然り然り。向こうも織田と足利が轡を並べておりましょう。であるならば我らも公方様と轡を並べたいところにございます」


 儂が続くと場の諸将たちから声が上がる。将軍を出馬させよとの声だ。さて、三好はどう出るか。選択を誤まれば命取りになる状況である。


「貴殿らの意見は理解した。しかしながら公方様の容態芳しくなく、代わりに某が総大将を引き受けたいと思うが如何か?」


 そう述べた三好宗渭に対し、声を上げたのは備中守であった。備中守が三好宗渭に対し、明確な拒絶を投げつけた。


「我らは公方様に御出座願いたいのであり、貴殿ではございませぬ。自身を公方様の代理などと……大それた物言いにございますな。それであれば六角殿が兵を率いるのが道理ではございませぬか?」


 突然指名されて内心驚いておる。しかし、備中守はどうして儂を指名したのだろうか。戦場が観音寺城だからだろうか。いや、違う。備中守はそのようなことで儂を指名する男ではない。


「何を申すか。総大将は三好殿を置いて他にござらぬ。どうぞ、我らを導いてくだされ」


 儂がそう述べ首を垂れると備中守が「これは失礼いたした」と述べて頭を下げた。諸将がそれに続き、頭を下げる。これで三好は引き受けなければならない。総大将を。


 しかし、総大将が一番兵力が少ないと格好がつかない。お笑い種だ。もしや、それを見越して儂に話を振ってきたのだろうか。何処までが計算なのかがわからない。


「承知した。反織田連合の盟主はこの三好が引き受けよう。各々方、抜かりなく!」

「「「ははっ」」」


 こうして反織田連合の盟主は公方様(であるが代理として三好)が就くこととなった。兵力は三万ほど集まりそうな見込みである。終始、備中守に主導権を握られた会合となった。


「大きく育ちましたな」


 蒲生定秀が言う。まだ小さかった孫犬丸がこのように大きくなるとは。我が子など、あっという間に飲み込まれよう。これで六角も終わりか。


 ただ、備中守の登場により、織田との戦が少しだけ楽しみになったのであった。

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[一言] 大多数の読者はこの作品(歴史物)の続きを読みたいからページを開いている。 作者さんには申し訳ないが本作とは関係性のない別作品の予約数が少ないです悲しいですと予約を催促されても困る。 個人的に…
[一言] そりゃ予約は増えんでしょう。だってあっち書いてないんだもの。初出版の人の、ネット上でもそこまで話の進んでない本はそりゃ買わんでしょう。
[一言] 主人公が孫権みたいなのに加えて、どんどん権力を追い求める姿勢(もちろん家族のこともあるけど)が全斗煥とかに似てるかも(【第五共和国】という韓国の政治ドラマから)
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