毛利は負けない
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永禄十一年(一五六八年)四月 備中国 松山城 小早川隆景
今、毛利家は苦境に立たされている。北からは尼子、西からは大友が、南からは三好が攻め込み長宗我部も虎視眈々と我らの領地を狙っている。それを終わらせるために東の三村を早急に潰さねばならない。
北は出雲国を放棄し、国境まで兵を下げ防備を固めることとした。西は兄者が向かっている。門司城は守り切れるだろう。南は村上水軍が奮闘している。四国は危ういやもしれぬが安芸国や備後国には来ないはず。
「さて、始めるとしようか」
一万の兵を率いて三村家親の籠る備中松山城を包囲する。向こうは逃散も続いたせいか二、三千の兵しか居ない。しかし、松山城は堅城だ。どう攻略するべきか。
まずは奇をてらう。兵は詭道なり。降伏の使者として井上弥左衛門尉利宅を送る。条件は備中国の放棄と三村家親の首だ。それで家族を保護すると伝える。まあ、要求は呑まれぬだろうな。
利宅に行ってもらいたいのは交渉ではない。松山城の確認である。兵の配置や物資量を確認してもらいたいのだ。一番重要なのは、物資の保管場所である。
交渉はもちろん決裂した。しかし、利宅は無事に戻った。直ぐに呼び出し、詳細な情報を地図に記していく。松山城の見取り図は既に入手済みだ。
「松山城の士気はどうか?」
「低うございます。一押しすれば崩れるかと」
「籠城は続きそうか?」
「物資はまだまだある様子にございました。おそらくではございますが、食糧はこの辺りかと」
利宅が見取り図に墨を入れていく。次は逆に目視で確認した場所に何があったかを尋ねた。そこは明確に除外することができる。
「なるほど。ではこの辺りに焙烙火矢を打ち込むとするか」
既に四の平櫓を落とし二の門までは奪取できている。残るは南御門だけだ。ここを抜ければ残るは天守だけとなる。こちらには焙烙火矢と炮烙玉が十二分にある。これを有用に使えば落とせぬ城ではない。
四の平櫓の上に更に櫓を組む。人一人が乗れればそれで良い。高所から焙烙火矢を打ち込んでいくのだ。相手を恐慌状態に陥らせる。そうすれば容易に城を落とせるはずだ。
問題は櫓をどうやって組むかだ。日中に建ててしまってはバレてしまう。そこで一計を案じた。夜中に騒音を放つ作戦にしたのである。具体的には槌で木板を夜通し叩くのだ。
三村方も始めは何事かと捉えていたが、我らが睡眠の妨害をしているのだと結論付け、次第に相手にしなくなってきた。暗闇で音だけが響いている。
我らの本当の狙いは櫓を組むことだというのに。
「左衛門佐様、櫓の用意が出来ましてございます」
「そうか。では日の出とともに攻め落とすとしよう」
「はっ」
どっしりと構え、利宅に指示を出す。日が昇ると同時に轟音が響き渡ってきた。どうやら各所で炮烙を使用しているらしい。いくら塀があるとはいえ、炮烙を投げ入れることくらいは容易だ。
炮烙が降ってくる恐怖に耐えながら城門を守る。そんな芸当ができる武者が日ノ本に何人いようか。少なくとも備中には居ないことは確かである。
「叩けぇっ!」
遠くから声がする。破城槌で門を叩いてる音が聞こえた。小気味良い音だ。門さえ開けばこちらのものである。三村を落とし、首を獲って城を燃やす。このまま武田に明け渡すのは癪だ。
「左衛門佐様、城から火の手が上がっておりまする」
ちっ。首を獲られることを恐れて自ら火を放ったか。これはこれで厄介なことになる。我らが故意に逃がしたと思われたら痛くもない腹を突かねかねん。搦め手が上手く嵌っていれば良いのだが。
「突入を急がせよ。三村家親の首を持って来るのだ」
「ははっ」
焦るな。ただ三村の首が欲しいだけなのだ。武田との約束は果たしてある。朝廷の力も上手く利用すれば丸く収められる。言い包められる。
「左衛門佐様、三村家親の近習の一人が三村家親の首を持って参ったと」
「ほう、それは誠か?」
「はっ。確かにございます。首実験をなされますか?」
「そうだな。行おう」
首を確かめる。確かに三村家親の首だ。想定していた搦め手が上手く嵌ってくれたようだ。実は、備中松山城内に噂を流しておいたのだ。三村家親の首を持って参った者は毛利家にて重臣として取り立てると。
ここまで攻め込まれたら自分だけは助かりたいと思ってもおかしくはない。だが、そういう男は毛利家には必要ないのだ。ありがたく首だけを貰っておくとしよう。
「其方が届けてくれたのか?」
「は、ははっ。某は三村紀伊守が近習を――」
「足労であった」
刀を抜き、首を斬り落とす。これで戦は終いだ。ここまで火が回ってしまえば城は勝手に落ちるだろう。我らがやったのではない。三村が行ったのだ。
「弥左衛門尉、このまま京へと赴いてくれ。武田との講和を早急にまとめたい」
「かしこまり申した」
「残った兵はこのまま安芸へと向かう。安芸から一万の兵を門司城へ向かわせるよう、早馬を走らせてくれ」
「承知しました」
終わらせる。これで全てを終わらせる。東が落ち着き、朝敵から外れたらば動静を探っている国衆たちも動かせるようになる。北と南は落ち着かせられる。問題は西だけになるのだ。
まだだ。まだ終わらんよ。毛利はここから生き返る。まずは尼子。次に南の西園寺と一条。最後に西の大友だ。各個撃破であれば毛利は負けない。
そう自分に言い聞かせ、兵五百を残して安芸へと戻るのであった。
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