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将軍位とは

永禄七年(一五六五年)六月 若狭国 後瀬山城


「お初に御意を得ます。照山周暠にございまする」

「そう畏まらないでいただきとう存じまする。周暠上人は私の叔父にございます。どうぞ、緩やかにお過ごしいただければ幸いにございまする」


 黒川玄蕃佐が叔父の周暠を連れて後瀬山城にやって来た。無事に此処まで辿り着けてなによりである。玄蕃佐に聞けば周暠も三好方に命を狙われていたらしい。保護して正解である。


「叔父上を呼んだのは他でもございませぬ。叔父上を守るためにございます」

「守るため、ですか」

「はい。三好は叔父上の命も狙っておりました。どうしても平島公方に将軍位を授けたいのでしょうな。それに母上も気落ちしておりまする。なんとか母上の無聊を慰めていただければ、と」


 流石に弟まで殺されたら今度は母上が死にかねない。それであればもう俺の方で守ってしまう。これが一番手っ取り早いのだ。


「拙僧にできることでしたら何なりとお手伝いいたしましょう」

「そう仰っていただけると私としても助かります。それでは早速住まいを――」

「恐れながら申し上げます。それであれば拙僧に寺を建立させていただけましたらと存じまする」


 それであれば渡りに船である。館を立てるのも寺を建てるのもそう違いはない。それに、領内から本願寺派を一掃する良い機会でもある。


 叔父は臨済宗の相国寺派である。臨済宗であれば過激な宗派ではない。仏教を抑えることはできないので、出来るだけ穏やかな宗派を領内に広めたい。


「分かりました。では後瀬山城下に寺を建立しましょう。そこを今後、我ら武田の菩提寺にさせていただきたく」

「過分なご配慮、誠に痛み入りまする」


 適当な土地を見繕って寺を建てよう。その差配を、そうだな。良い機会だ。菊千代にやらせてみようと思う。そうそう失敗することのない仕事だ。必要なのは領民との土地の調整である。


 領民としても寺が建立されるのは悪くない話だ。そうそう拒否されることはないだろう。


 あとは定期的に寺を利用してお金を落とせば問題ないだろう。ああ、坊主も何人か付けてやらないとな。それから護衛も。殺されては堪らない。


 これで一段落したと思ったら面倒なことが起きた。母親も出家すると言い出したのだ。気持ちは良く分かる。旦那と兄が殺され、弟までも殺されそうになったのだ。


 そして更には母の母親である――つまり俺の祖母だ――慶寿院までもが自害という形で死んでしまったのだ。現世が嫌になるのも理解できる。


 ここまで身内が死なれてしまったら止められない。離れを作ってそこに住んでもらおう。流石に遠くには行かないで欲しい。しかし、どんどん関わりが薄くなってしまう。


 孫が出来れば変わるだろうか。いや、孫が出来ても殺されると悲観してしまうだろうな。お藤も文も母の下へあまり行かせない方が良いかもしれない。下手したらお藤も出家しかねないぞ。


 これで一安心と思っていた矢先、俺の元に思わぬ来訪者がやってきたのだ。朝倉景鏡である。


 正直、乗り気はしないのだが会わねば朝倉との関係が拗れてしまう。なので、会うことを使者に告げると直ぐにやってきた。


 新しく小姓として取り立てた嶋左近の息子である嶋新吉に取り次ぎをさせる。父と同じく利発な息子である。きちんと教育が行き届いているようだ。


 向こうから下卑た笑みを浮かべた顔がこちらに近付いてくるのが分かる。そう、朝倉景鏡だ。俺に近付き頭を下げて口上を述べた。少し、近い気がする。


「伊豆守様におかれましてはご機嫌麗しゅう存じ奉りまする。こちら、詰まらぬものではございますが某からの心配りにございまする。ご笑納下さいませ」


 見え透いた下らぬ世辞だ。某からと言ってるが主である朝倉義景に強請ったのだろう。朝倉からではなく某からか。強かである。景鏡のこういうところは見習いたいと素直に思えた。


「斯様な心配り、誠に痛み入る。して、此度は如何様にて我が元を訪れたのだ?」

「勿論将軍位についてにございまする。我が主は覚慶様こそが次の公方に相応しいと考えておいでにございます」


 そうだろう。覚慶と義景は俺を挟んでの遠縁になるのだ。俺の大叔母を母に持つ義景と俺の母の兄である覚慶。後押しするのなら覚慶だろう。


 それに平島公方は既に三好が抑えている。その三好に好き勝手されたくないという強い意志を感じる。


 成る程、これが名門の矜持というやつか。景鏡の演説は続く。そして終盤に差し掛かり、俺をギンと強く見てこう言い放った。


「勿論、伊豆守様も伯父であらせられます覚慶様の将軍位を望んでおりましょう?」

「いや、望んでおらぬ」


 神妙な面持ちでそう言い放ってやった。ぽかんとする景鏡。どうやら予想外の言葉だったようである。なんというか、一矢報いた気分になった。


「そ、それは何故に?」

「将軍位になったから俺の伯父は弑されたのだ。母も伯父を失い、気落ちしている。父を失い、伯父を失い、これ以上俺は肉親を失いとうないのだ。それならば平島公方が将軍位に就く方がマシというものだ」


 そう言って悲しみの表情を浮かべる。もう肉親を失うのはうんざりだという表情を。これをみて景鏡が表情を崩した。流石に想定外だったようである。


 これで俺は将軍の後継者争いに加わらずに済むという算段だ。まずは今を凌げればそれで良い。言質を取らせぬことが肝要である。


「では、我らが覚慶様をお救いになったとしても伊豆守様は支持しないと?」

「……将軍位とは諸大名の推挙にて決まるものなのか?」

「それは……」


 言葉に詰まる景鏡。そろそろこの話も終わらせるべきだ。そう思い、一言述べて退出することにした。


「我らは帝の定めた将軍に従うのみ。朝倉式部大輔殿は異なるのか?」

「いえ、仰る通りにございます」

「では、この話は終わりにしよう。帝の沙汰を待つだけだ。それよりも、其方は気にしなければならぬことがあろう」


 話を朝倉家中の権力争いにずらす。こうして、将軍の後継争いをのらりくらりと躱すのであった。


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