表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/270

美作国

永禄七年(一五六四年)十一月 若狭国 後瀬山城


 この若狭にも寒い冬が訪れようとしていた。しかし、今年は将兵領民揃って余裕を持って乗り切れそうである。


 薪が大量に必要になるので、伐採が進んでしまったが、同時に植樹も行っている。植樹、大事。じゃないと地滑りの原因になってしまう。


 そんな若狭の後瀬山城に参謀方を呼び出していた。明智十兵衛、沼田上野之助、細川兵部、嶋左近、そして本多弥八郎と堀菊千代である。彼等を何故呼び出したのか。それは美作についてである。


「皆に集まってもらったのは他でもない。毛利と尼子についてである」


 そこで俺は先日、宇山久兼から受けた提案を皆に話した。あれから数か月経ったが宇山からは何の音沙汰も無い。そろそろ、我等の立場を明確にしなければならないと考えたのだ。


 立場とは尼子を援けるか、それとも尼子を潰すかである。どちらも一長一短だ。尼子を援けた場合、毛利との間に壁ができるようになる。それは本当に助かる。


 そして尼子を潰した場合、領地は広がるが毛利と領地を接する羽目になる。毛利は強国だ。正直、勝てる気がしない。少なくとも毛利元就が存命中は敵に回したくない相手だ。


 元就は既に七十手前の年齢だ。もって数年というところだろう。勿論、吉川と小早川の両川が存命中は手強い相手だが、元就が居ない方が御しやすい。


「皆、如何考える?」

「某は尼子を取り潰すべきだと存じます。我が方には尼子式部少輔殿が居られます故、攻め込む大義名分は充分かと。それに、毛利の動きも鈍うなっております。これは我等の策が効いているものと存じまする」


 そう訊ねる。まず、声を上げたのは菊千代であった。積極的に参加しようとする意志が感じられる。ここで多くを吸収してくれると俺としても嬉しい限りである。


「左様にございますな。南条を取り込んだ時の一計が毛利を徐々に蝕んでおりまする。国衆の離反や反乱が領内にて増えているとのことにございますれば。某も尼子領を切り取るべきかと」


 追随したのは嶋左近である。堀菊千代も自身の策が認められたと思ったのか、鼻息荒く首肯していた。首が吹き飛びそうな勢いである。しかし、これを止めるは年長組の明智十兵衛であった。


「お待ち下され。美作には三浦を始め後藤、江見、中村、草刈、竹内、原田、牧、岡本、角南と一癖も二癖もある海千山千の兵が揃っておりまする。迂闊に手を出すべきではないかと」


 これは確かに十兵衛の言う通りだ。高田城の三浦貞広を始め、三星城の後藤勝基、林野城の江見久盛、高山城の草刈景継、一ノ瀬城の竹内久盛、稲荷山の原田貞佐、岩屋城の中村則治など曲者揃いなのだ。


 更に牧尚春、岡本氏秀、角南重義など、美作を手中に収めるための障害が多い。此処で悪戯に国力を消費して良いものか、判断に悩んでしまう。


「更に備中の三村紀伊守が美作を狙っているとの噂も」


 そう付け加えたのは細川兵部であった。やはり年長者は慎重に事を運ぶよう考えている節がある。ただ、年長組と言っても三十かそこらである。比較的、全員が若いのだ。


 しかし、此処で待ったをかけたのは本多正信である。正信はどうやら違った方向から美作について考えているようだ。


「それは逆に好機でございましょう。三村紀伊守が狙っているのであれば我等が保護しに向かうのが最上かと。菊千代殿が申す通り、こちらには尼子式部少輔殿が居られまする。美作の面倒を我等が見るだけでも尼子は助かりましょうな」


 つまり、西から毛利が。そして南からは毛利と結託した三村が攻め込もうとしているのだ。そこで三村の相手を我等が行うことで間接的に尼子の力になろうと本多正信は申しているのだろう。


「そうなると美作の詳細な情報が欲しいな。十兵衛が申した国衆の誰が尼子の味方で誰が尼子の敵方なのかを見極めねばならん」

「それであれば美作の中尾四郎兵衛なる商人が近頃、小浜の湊に出入りしていると聞き及んでおりまする」

「ほう。与四郎、与左衛門。接触すること能うか?」

「お任せ下され」

「であれば、まずは与四郎から美作の詳しい情報が上がってくるまで判断は保留とする。しかし、それまでに尼子の動向を伺っておきたい。十兵衛は宇山飛騨守と接触し尼子家を探れ」

「ははっ」


 まずは戦を避ける方向で進みたい。毛利も一枚岩ではないことが白日の下に晒された。やはり、毛利元就が言葉巧みに国衆を調略していたようだ。


 そして怖いのは三村よりも備前の宇喜多よ。毛利と宇喜多から同時に攻められては我々も苦戦を強いられるだろう。それだけは避けねばならない。


 東の朝倉、浅井に動きは無いが油断していると寝首を搔かれるのはよく理解している。これを機に朝倉とは盟を結んでしまっても良いかもしれない。これは叔父上にお膳立ててもらおう。


 今は西に領土を広げる良い機会なのだ。浅井は着々と六角を飲み込もうとしている。朝倉も一向宗に攻め込まれても崩れない。どちらも地盤が安定しているのだ。


 東の安全を確立してから西に展開する。となれば、南の三好とも盟を結びたいが、それを行ったらば足利義輝が黙っていないだろう。であればどうするか。三好ではなく松永、内藤と盟を結ぶことにしよう。


 そして、その立ち合いを足利義輝に頼み、松永を三好から離反させる(と伝える)。これは成るだろう。松永は元より天下盗りの野心が滾々と溢れていた。三好家中からは白い目で見られているはず。


 松永自身も三好が目の上の瘤となりつつあるはずだ。三好三人衆と馬が合っていないようなのである。


 まずは内藤宗勝と話し合い、根回しをしてみることにしよう。今回は戦はしない。『戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり』を肝に銘じる。


 我等もそこまで大身ではないが、それでも四十万石は固い。松永も無碍にはしないはずだ。


「皆、一つ案があるのだが聞いて欲しい」


 俺は皆にこの考えを共有した。俺が美作と備前を重要視していることを意識してもらうためでもある。今、東と南に伸ばすのは頭打ちなのだ。


「成る程にございますな。良き考えかと。しかし、少し詰めが甘いようにございまする」


 そう述べたのは細川兵部である。彼が言うには足利義輝が首を縦に振るはずがないと考えているのだ。


 三好憎しであるならば賛同いただけると思うのだが、細川兵部はそうはならないとみている。


 これは坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの理論で三好憎けりゃ松永まで憎いと思っているのだとか。それを乗り越えて篭絡できるかは松永の手腕に掛かっていると言っても過言ではない。


「あいや、待たれよ。細川兵部殿。我等と松永、そして内藤が盟を結ぶは上策にございますぞ。それで南の憂いが無くなるのでございます故」


 そう反論したのは嶋左近であった。しかし、松永と盟を結ぶには足利義輝の許可が要る。許可無しで盟を結ぶと三好に与したと思われかねない。そこを細川兵部に追及される左近。


「何を仰られまする。松永が頭を垂れて公方様に謝罪し、傘下に加わると願い出るのであれば盟を結んでも何ら問題はございますまい。むしろ、公方様の将軍としての器量が試される場面になりましょうぞ」


 義輝が謝罪を受け入れなくても世論は松永は三好と決別したと見る。それであれば三好に与したと思われないと左近は言うのだ。成る程、確かに一理ある。


「どちらにせよ、まずは内藤蓬雲軒殿に意見を伺ってからだ。これに関しては俺の方で進める。良いな、『戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり』を肝に銘じよ」

「「「ははっ」」」


 力ではなく智によって相手を屈服させる。今までは痛い目を見過ぎた。若狭武田の新たな戦が始まろうとしていたのであった。

良かったらブックマークだけでもしていってください。ご協力、よろしくお願い申し上げます。

また、Twitterやってます。フォローしてください。お友だちが欲しいです。


https://twitter.com/ohauchi_carasu


気が付いたらほぼ100%返信しますので、フォローして気軽に話しかけてくれると嬉しいです。

これからも応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

餓える紫狼の征服譚の第2巻が予約受付中です。

あの、予約にご協力をお願いします。それなりに面白く仕上がってますので、助けると思ってご協力ください。

詳しくはこちらの画像をタップしてください。

image.jpg

応援、よろしくお願い申し上げます。


― 新着の感想 ―
[良い点] 追いつき直しました。怒涛の更新めっちゃ嬉しいです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ