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今後の糧

 君尾山城の城主である市川信定には守りを固めるよう厳命し、出陣式を恙なく終えて桐村城へと向かう。兵数差は火を見るよりも明らかである。


 桐村城が見える小丘に陣を張る。正直、そこまで大きな城ではなさそうだ。険しい山城ではあるが、郭がある訳でもない。こぢんまりとした山城である。そこで二人にこう述べた。


「石川左衛門尉、矢野弥三郎、両名にて落とすこと能うか?」


 二人が率いているのは二百そこそこの兵である。つまり五百に満たない兵で城を落とせるのかと訊ねたのだ。


 恐らくは無理だ。俺が尋ねられたのであれば無理と答えるだろう。彼等の配下に知恵者が居るか、それとも虚勢を張るか。でなければ首は縦に振れん。


 何故こんなことを訊ねたのかというと、彼等からどう思われているのか知りたかったからだ。

 怖くて進言、諫言が出来ないと思われているのならば早めに是正しなければ。


「あ、能いまする。我々にお任せ下され」


 そう述べたのは石川秀門である。俺は「本当に大丈夫か?」と念を押す。すると、石川秀門は「無論にございまする」と返した。俺は出来ないと思っているが、そこまで言うのであれば信じることにしよう。


「相分かった。では、石川左衛門尉に先鋒を任すことに致す。矢野弥三郎はこれを良く補佐してくれ」

「ははっ」


 二人が低頭し、準備があるとのことで退出する。残ったのは十兵衛と利家、一豊それから伝左と南条兄弟である。俺は彼らにこう尋ねた。


「本当に二人で落とすこと能うか?」

「難しいでしょうな。兵数は優っておりますが城攻めでござる。あと五百は欲しいところにございましょう」


 そう言ったのは南条宗勝である。俺も同意見だ。そこで、山内一豊を彼等の後詰めとして送ることにした。勿論、助けが欲しいと依頼があったときようである。


「伊右衛門、悪いが直ぐに出られる用意をしておいてくれないか」

「承知いたしました」

「あくまで準備で構わん。まずは二人の手並みを拝見と行こうではないか」


 遠くから法螺貝の音が響いてくる。どうやら二将が攻め込むようだ。まずは石川秀門が正面から攻め掛かる。


 そして搦め手として裏の茂みから矢野政秀が攻め掛かるようだ。果たして、上手くいくであろうか。


 一進一退の攻防が続いていく。どうやら石川秀門は火矢を用いるようだ。城に火を付けるつもりのようである。しかし、城からの被害も大きい。それを固唾を吞んで見守っていると、横から十兵衛が話しかけてきた。


「不味いですね」

「何がだ?」

「今は農閑期にございます。敵方お味方共に兵の主力は農民にございます。ここで力押しは悪手だったやもしれませぬ」


 雇い兵を使っているのは主に我等だけである。周囲の国衆にそれを強要することはしていない。つまり、石川も矢野も兵の主力は農民の可能性があるのだ。


 そして敵方の桐村は言わずもがな農民兵が中心だろう。そして農民が死ねば恨みを買うことになる。恨みを買えば統治しづらくなってしまうのだ。これは判断を誤ったかもしれない。


「急ぎ伊右衛門に城を攻めさせよ。速やかに城を落とすのだ」

「承知いたしました」


 近習の一人が使い番として走る。そんなことをしていると、桐村城に火が付いてしまった。どちらも死力を尽くしているのが分かる。石川も矢野も、敵方の桐村も被害は大きいだろう。


「伊右衛門はまだかっ!」


 あれだけ準備をしておけと申し伝えたにもかかわらず、山内一豊が一向に現れる気配がない。そうこうしているうちに城門を突き破り、石川秀門が城内へと入って行った。


「ふぅ……。誰かある」

「はっ」


 声をかけると一人の若武者が現れた。顔を見たことがある。確か、黒川衆の手の者だったはずだ。俺はその男にこう指示を出した。


「山内隊が到着したら石川隊と矢野隊を下がらせよ。そして其の方らの働き、見事天晴れであったと伝えてくれ」

「承知いたしました」


 どちらも満身創痍だろう。これで石川隊も矢野隊も使うことはできなくなった。小城一つと隊二つが引き換えか。これは確実に悪手であった。忠誠心を試すようなことをするべきではなかった。


 動きの遅れた山内隊を叱責するか。いや、そんなことをしている場合ではない。そもそも俺の要望が無茶だった場合もある。徒に叱責はできない。


 しかし、我らが火矢を用いたことで城は焼け落ち、落城どころか廃城になったのは事実。拠点に出来る場所が一つ失われてしまったのだ。


 今から城や砦を築くとなると一苦労だ。しかし、この桐村の地を治めるにはそのどちらかが必要である。それでなければ塩見に攻め込まれて待ち受けるのは、死だ。


「ご注進! ご注進にございまする!」

「如何した?」


 二人の母衣武者が本陣に駆け込んでくる。しかも別々な場所から派遣された使い番だ。イヤな予感しかしない。俺は静かに使い番の報告を耳にした。そして、決断する。


「上林城の上林下総守と十倉城の渡辺内膳が我が方に向けて進軍中との由にございます! その数はおよそ千! おそらくは後詰めに動いたかと」

「黒川衆の報告に寄らば奈賀山城、猪崎城に動き有りとの由」

「そうか。これは潮時だな。撤退する。貝を吹け」 


 今の状態で横槍を突かれるのは不味い。上林と渡辺に合わせて塩見らも出て来た格好となった。兵数では負けていないだろうが多勢に無勢だ。そして四方八方から攻められる。うん、勝ち目は無い。


 そうと決まったら判断は速い方が良い。兵の損失を出すことが悪である。やはり、畿内はそう甘くはないか。辛酸を嘗めさせられたわ。


「はっ、法螺貝吹けぃ! 撤退するぞぉっ!」


 さて、撤収するとなると殿軍を決めねばならんな。戦慣れしている者に任せねばならん。撤退の報を聞いて諸将が俺の許に集まってくる。


「石川左衛門尉、矢野弥三郎は早々に戻り給え。此度の働き、見事であった。必ずや報うことを約束しよう」

「ははっ。有りがたきお言葉にございまする。それでは某はこれにて失礼いたしまする」


 石川秀門、矢野政秀の両名が陣を離れる。彼らは国衆だ。また、兵も疲弊している。酷使する訳にはいかない。となれば、明智十兵衛か武藤友益か。そのどちらかだろうな。


 そう考えていた時である。この男が俺に声をかけてきたのは。


「殿は某共にお任せ下され」

「正気か?」

「勿論にございます」


 立候補したのは南条宗勝と弟の信正であった。戦の経験も豊富、大軍を率いることも出来る。兄弟の連携も良い。素早い判断ができるといった点では殿軍向きである。


 しかし、まだ心の底から宗勝を信じることができない俺が居た。


「又左衛門」

「応!」

「お前は帰れ。殿は任せん」

「何でだよ!?」

「お前は殿向きではない。どちらかというと先陣向きだ。鍛えた兵を無駄にするでない。これは上意である。それから武藤上野介、其方も帰られよ。この馬鹿の面倒を見てくれ」

「ははっ」


 まずは前田利家と武藤友益を帰らせる。これで俺は十兵衛か南条兄弟のどちらかに殿を任せようと考えていた。


 ここの判断が、出来ない。兵を預けて裏切られたら大事ぞ。それを見越したのか、南条宗勝が声を上げる。


「何をお迷いになられまする。我等は息子を御屋形様に預けておりまする。どうして裏切れましょうや」

「御屋形様。某が殿を――」

「いや、良い。十兵衛、撤退の準備を。勘兵衛、九郎左衛門。兵は如何ほど必要か?」


 俺は決断した。殿軍は南条兄弟に任せることにした。彼等を信じる。子息を預けているのだ。裏切るはずがない。


 そして何よりも彼らが信じて欲しいと言ってるのだ。もし、裏切るつもりならこうは言わないだろう。信じるべきである。


「三百ほど預けていただけますれば」

「分かった。では兵を百と伊右衛門を其方らに任せる。丁度良い、伊右衛門を鍛え直してくれ」

「ははっ」

「よし、撤退する!」


 こうして、俺の丹波国攻めは何の成果も上げられないまま、呆気なく失敗してしまったのであった。俺が二人の忠誠心を試したのが悪かった。今後の糧としよう。

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