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異世界八険伝  作者: AW
第2章 新たな仲間たち
58/92

57.エリ村での死闘

突然伝えられた「エリ村強襲」の知らせ。

急ぎ準備をして転移したリンネたちを、魔族が迎え打つ!

『すみません! お話がありますです!!』


 けたたましくドアをノックする音で、ボクたち5人は目が覚めた。これからノンレム睡眠ステージ3に移行しようというタイミングで――。


 窓から覗く日の光はまだ弱い。朝7時か6時か。


「どうかしましたか?」


 メルちゃんがドアを開けて尋ねると、ギルド職員の犬耳女性が部屋に飛び込んできた。酷い慌てようだ――。


『ミルフェ王女からの緊急通信が入りましたです! エルフの村が魔族に襲撃された、とのことです!」


「「えっ!?」」






「アユナちゃん、落ち着いて!」


「助けに行かなきゃ!! そうだ、リンネちゃんの転移で行けるよね!?」


 泣き喚くアユナちゃんは気づいていない。既に襲撃から数日は経っているだろうことに。

 この世界の情報伝達はリアルタイムではない。確かに今すぐに行けるけど、もし、見るも無惨な惨状だったら? まだ魔物がたくさん残っていたら?


 けど、行かない理由なんて1つもない!

 覚悟を決めて行くしかない!


 メルちゃんとレンちゃんも当然のように準備を始めている。


「アユナさん、準備が整い次第、すぐに向かいましょう」


 そう言って、アイちゃんがアユナちゃんの背中を優しく擦り、落ち着かせてくれている。

 その間、ボクたちは2人から離れてエリ村の情報を共有した。


 その後、ギルドでメリンダさんとも話し、召喚されたばかりのアイちゃん用の装備を整え、全員のステータスも確認した。

 これでいつでも行ける――。


 アイちゃん用の装備。急げ。


《ミスリルの短剣。魔力により耐久と切れ味が増強される諸刃の短剣。耐久+10%、斬撃+10%》


《銀狼のローブ。幻獣の毛をふんだんに用いて魔法効果を高めたローブ。魔法耐性+5%、魔力+2%》


 全員のステータス。急げ、急げ。


◆名前:リンネ

 種族:人族/女性/12歳

 職業:平民/冒険者

 クラス/特技:賢者/雷魔法

 称号:銀の使者、ゴブリンキングの友、フィーネ迷宮攻略者、ドラゴン討伐者、女神の加護、魔人討伐者、北の大迷宮攻略者

 魔力:61

 筋力:32


◆名前:メル

 種族:鬼人族/女性/14歳

 職業:平民/冒険者

 クラス/特技:メイド戦士/家事

 称号:青の使者、魔人討伐者、北の大迷宮攻略者

 魔力:78

 筋力:78


◆名前:アユナ・メリエル

 種族:エルフ族/女性/11歳

 職業:平民/冒険者

 クラス/特技:精霊使い/召還術

 称号:森の放浪者、女神の加護、魔人討伐者、北の大迷宮攻略者

 魔力:53

 筋力:25


◆名前:レン

 種族:ピクシー族/女性/14歳

 職業:平民/冒険者

 クラス/特技:剣士/二刀流剣術

 称号:赤の使者、魔人討伐者、北の大迷宮攻略者

 魔力:45

 筋力:49


◆名前:アイ

 種族:人族/女性/11歳

 職業:平民/冒険者

 クラス/特技:識者/念話

 称号:黒の使者

 魔力:16

 筋力:18



「現在の状況がわからないので……無闇に村の中に転移せず、近くから様子を探りましょう」


 アイちゃんの言う通りだ。いきなり村の真ん中(広場)に飛ぶところだった! こういう時こそ焦っちゃダメだよね。


「みんな、準備はいいね。行くよ!」


「「「はい!」」」


[メルがパーティに加わった]

[アユナがパーティに加わった]

[レンがパーティに加わった]

[アイがパーティに加わった]




 ★☆★




 ボクはエリ村の聖結界内ぎりぎりの所に《転移》した。


 この《転移》、なかなかに魔力を使う。質量制限の目一杯だったからか、総魔力量の3割近くは消費してしまった――。


「メルちゃん、気配は―――」

「何も」

「そう、ありがとう」


(リンネさん。わたしです、アイです。《念話テレパシー》で話しています。聴こえますか?)


(あ、聴こえるよ! アイちゃんの魔法だね)


(私のもう1つの魔法《情報収集ギャザリング》によると、半径20km以内には町も村もありません……最悪も想定してください……)


(村が、ない? まさか! あそこには最強の魔法使い、エリザベートさんも居るんだよ? 嘘でしょ……)


(地図に村の存在が無いとしても、生存者が居るかもしれませんし、魔族が支配しているかもしれません。急ぎましょう!)


 ボクの脳裏にはエリ婆さんの顔が、リザさんの顔が、そして――優しくしてくれたアユナパパとママの顔が浮かぶ。

 絶対に助けなきゃ。そのために村を出たんだから!


「――メルちゃんとボクが先頭で行くよ、まだ暗いから足元に気を付けて!」


 焦る気持ちを抑え、前を向いて歩き出す。





「クピィ!」


「リンネちゃん、魔族です! 数は――5!!」


「魔族!?」


 クピィとメルちゃんの反応に、アユナちゃんの顔が蒼ざめる。今はアユナちゃんを戦闘に巻き込むべきじゃない。無謀に突っ込んじゃうから――。


「アユナちゃんはアイちゃんを結界で守って! メルちゃん、レンちゃん、行くよ!」


「「わかった!」」



 150m先に魔物が3匹見える。

 この距離でもはっきりわかるほどに体が大きく、纏う黒い魔力も見える――やはり魔族だ、魔人ではない。


《レッサーデーモン/下級魔族。人や妖精種・精霊だけでなく魔物すらも喰らう邪悪な性格》


《ベリアル/中級魔族。下級魔族を従えて行動する》


《レッサーデーモン/下級魔族。人や妖精種・精霊だけでなく魔物すらも喰らう邪悪な性格》


 レッサーデーモンとベリアル!

 フィーネ迷宮での記憶が甦る。全く手も足も出なかったけど、竜人グランさんが助けてくれたんだ。


 今はあの時とは違う。ボクたちは確実に強くなっているし、魔人ウィズとも和解できたんだ。魔族とだって話し合いができるかもしれない――。


「レッサーデーモンとベリアル――ちょっと話してみる!」


「「リンネちゃん!?」」


 話し合いが通じなければ、命を懸けて戦うしかない。ボクだって、覚悟はできてる!



「魔族たち! ボクは魔人ウィズの同盟者だ! 今すぐここから出ていって!!」


『ウィズゥだぁ? コイツらみなごろしにしろ!!』


『『ショウチ!』』


 逆効果!?


「待って! ボクは――」


『ハラワタをひきずりだして、くってやる!』


「リンネちゃん!!」


「ごめん! ボクが先制する! メルちゃんの《鬼神降臨バーサーク》、どのくらいもつ?」


「全魔力を使って156秒です!」


 総魔力量×2秒――。


「わかった、べリアルに雷撃落とすから、レッサーデーモンをお願い!」


「はい!」


 レンちゃんは既に《隠術ハイド》で背後を狙って動いている。


「アユナちゃん、アイちゃん! 結界から出ないでね!! 危なくなったらみんなで転移するから!」


「リンネちゃん――」

「べリアルは《闇魔法》と《火魔法》を使うようです、気を付けて下さい!」


「わかった!」


 悔しい!!

 悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!


 既に距離は50m――。


 3mの巨体を誇るべリアルが、次々とレッサーデーモンに指示を出している。5体のうち2体が突進してきた。


「ボクは奥の3体をやる! メルちゃん、この2体お願い!」


「はい!」


 べリアルの左右にはレッサーデーモンが2体残ってる。半径8mなら3体が雷撃の直撃範囲に入る!

 マジックポーションは残り1本、最初に全力で撃つ!


 メルちゃんが、迫り来るレッサーデーモンの攻撃をグリフォンメイスで跳ね返している。

 まだ《鬼神降臨バーサーク》は使っていない。うん、これなら1対2でもいけそうだ。ここは任せるよ!


 ボクはレッサーデーモンを躱し、単身べリアルに迫る!


 既に魔力は練り上げている。雷の範囲を広げる分、威力は落ちてしまうかもしれない――でも! ボクは仲間を信じて、撃つのみ!


「罪ごと消し飛べ! 全力全開、《雷魔法/中級(サンダーストーム)》!!」


 ベリアルの頭上に巨大な魔法陣が現れる!

 薄闇に包まれた森が一瞬昼間へと変わる!


 直後、バキバキッという爆音、爆発で土煙が舞い上がる!


 光速、不可避な半径8mの雷撃だ!

 残りの全魔力――総魔力の7割を全部ねじ込んだ全力の1撃!



 案の定、一瞬で意識が飛んでしまった――。


 足がもつれて豪快に転び、顔を地面にしたたかぶつけて意識が戻る。


 よし、身体はまだ動く!


 なけなしのマジックポーションだけど、一気に飲み込む!



 前方は――まだ土煙で見えない!


 その中から剣戟の音が聞こえる!


 レンちゃんだ!

 タイミング合わせてべリアルに突っ込んでくれたんだ!



 後ろは?


 メルちゃんが鬼化して2匹を倒したみたい――アユナちゃんの安心安全結界も無事だ!



「メルちゃん! もう《鬼神降臨バーサーク》は解いて!」


「リンネちゃん! レンちゃんとべリアルが戦って――」


 その時!

 突然目の前に火柱が現れ、何かが飛ばされ――。


火炎魔法ファイアーストーム》か!


「「レンちゃん!!」」


 メリンダさんの占いが頭を過ぎる――。


 ボクは、吹き飛ばされたレンちゃんを追って全力で駆け寄る!


 そして、倒れ伏す彼女を起こそうとして、絶句する――。


 その身体が、全身が焼け焦げて――。


「《回復魔法ヒール》! 《回復魔法ヒール》! 《回復魔法ヒール》! 《回復魔法ヒール》!!」


 ダメだ、ダメだ!

 意識が途切れそうになりながら何度も《回復魔法ヒール》を唱えたけど、レンちゃんの意識が戻らない――。


 どうしよう!


 あ、そうだ!!


異空間収納アイテムボックス》から無我夢中でエリクサーを引っ張り出す!


 間に合え!!


 小瓶の蓋を開け、レンちゃんの口を探す――。


 でも、炭化した口は――まるで生への拒絶を示すかのように、全く開こうとはしなかった――。


「飲んで!! レンちゃん飲んでよ!!」


 無理矢理に飲まそうとしても、喉の一部が焦げ落ちていて――。


 ボクは、エリクサーを自分の口に含み――そして、無我夢中で口移しに捻じ込む!!




 レンちゃんの橙色の瞳が、ほんの一瞬、見開かれた気がした。


 そして――レンちゃんの身体が白く輝いて、焼け落ちていた手が、脚が、そして顔が――再生されていく!


 でも、でも!


「レンちゃん!! レンちゃん!!」


 こんなに可愛いのに、凄く綺麗なのに、どうして意識が戻らないんだよ!!




 背後に気配を感じ、振り返る。


 アユナちゃんが結界から出て来ていた。顔が真っ青だけど、大丈夫だろうか――。


「リンネちゃん! レンちゃんは?」


「……」


 首を振るボクのもとへアユナちゃんが駆け付けてくる。


 そして、ここに2つ目の結界を張ると、ぎゅっとレンちゃんを抱きしめ、わんわん泣きだした。


 彼女にレンちゃんは任せる。

 ボクにはやることがあるから――。




 村の中央、以前は広場があった所を凝視する。


 メルちゃんだ、メルちゃんがべリアルと戦ってる! あんなにフラフラなのに!


 でも、マジックポーションは使ってしまったし――もう、ボクがやるしかない! ボクが戦わないと、みんなが死んじゃう!!




「べ リ ア ル!!」


 絶対に許さない、許さない!!



「メルちゃん、下がって!」


「私も戦います!!」


「下がれ!!!」


 今の、ボクはどんな顔をしているのだろう。自分でもわからない。涙と怒りとでぐじゃぐじゃだと思う。


 悔しさに、怒りに飲み込まれる。


 涙で霞むボクの目には、弱々しく走り、アユナちゃんの結界の中で倒れるメルちゃんが映っていた――。




 土煙が晴れていくと、全身から黒い魔力を放つベリアルが現れた。


「べリアル!!」


 くっ、《自己再生》してるのか!


 どうする?


時間停止クロノス》を使うタイミングは?


 こいつは雷撃の中心に居たのに無傷に近いということは……魔法防御力が桁違いに高いはず。よく見ると、リッチのような黒い膜が身体を覆っている。

 今ここで《時間停止クロノス》を使っても、あれを突破するすべはない。ならば、物理攻撃に賭ける!


 オオグモの脚を取り出す。

 残り魔力はもう2割を切っている。


 いけるか? いくしかないんだ!


 長所を潰し、弱点を突くんだ!


(リンネさん! べリアルは尻尾と角が弱点です!)


(!! アイちゃんありがとう!!)


 念話が繋がりっぱなし……だったか。


(リンネさんの……その……心の悲鳴が強すぎて……)


 そっか……ごめん、冷静にならないと!


 冷静に、冷静に、冷静に考えろ――。



 尻尾、角を切断する力――。


 剣、水剣は売ってしまった。

 でも、無いなら造ればいいんだ!


 武器に雷を纏わせる。直接だと武器が壊れるから――少し離して、刃のように薄く、オリハルコンのように硬くする!

 さらに、チェーンソーみたいに雷を回転させるイメージで魔力を練り込む――。


 オオグモの脚が1mの剣となる。

 黄金色に輝く剣――聖剣なんて洒落た物じゃない。名前なんて無い。ただ、斬ることだけに特化した魔力の塊――。



『ガッガッガ! ぜつぼうをあじわえ!』


「べリアル! お前を魂ごと切り刻んでやる!!」



 残りの魔力の大半を使ったボクの最終兵器、それを低く構える。


 魔力をみなぎらせ、一気に迫り来るべリアル――。


 受けてはダメだ! 力で潰される!



 ボクの頭に真っ直ぐ突きが飛んでくる!


 眼前に、唸りを上げる三ツ又の矛が迫る!!



 辛うじて横に避ける!


攻撃反(カウン)――》


 完璧に躱したはずなのに――流れた突きが、ボクの左肩を抉っていく。

 速すぎて《攻撃反射カウンター》ができない!


 でも、痛みは感じない。

 ヒールを使う時間も魔力も勿体ない。


 再び飛んでくる連続突き――。


 ボクはサイドに、バックにとステップを踏んで躱したけど、その度に脚にダメージを受けている。この矛、普通じゃない!


 動きが鈍ったボクにトドメを刺そうと、べリアルは矛に炎を纏わせ、袈裟斬りに――。


 今だ!!


 尻尾が、腰に巻き付いていた尻尾が伸びたこの一瞬を見逃さない!


「《転移》!」


 瞬時にべリアルの背後をとる!


「《雷魔法/下級(サンダーカッター)》!!」


 雷剣を全身全霊の力を込めて、振り抜く!


 シュパッ!


 尻尾は、その半ばから切断された!


『グォォ! きさまァァ!!』


 吠えて手足を振り回すベリアル――ボクはジャンプから《空中浮遊フライ》を使い、空高く舞い上がる!


 破壊対象を見失い、周囲を睥睨へいげいするベリアル――その隙だらけの頭上を、全体重を預けて放ったボクの剣が襲う!!


 ガキンッ!


 べリアルの角を、2本纏めて横薙ぎに切り落とす!!


『ギャオォォォ!!』


 べリアルは咆哮を上げて仰け反った!


 黒く覆っていた膜が消えていく!

 べリアルの魔力が急速に落ちるのがわかる。


 ボクはさらに空中を走る。空を翔けながらフェアリーワンドに持ち替える。


 これは、《闇魔法》!?


 よく見ると、ベリアルを中心に半径5mほどが薄い闇に包まれていた。それが、急速に晴れていく――これは、幻惑効果と魔法耐性強化!?


 ならば、それが解かれた今がチャンス!


 ボクは再びベリアルの頭上に立ち、真下に向けて杖を振り下ろす!


 今度は細く、思いっきり細くした、身体を貫く高密度の雷撃!


「貫け、《雷魔法/下級(サンダーボルト)》!!!」


 べリアルの額から入った光は、黄金色の身体を縦に貫く!


 そして、ベリアルは激しく痙攣した後、黒い魔素となって爆散した――。


 勝ったんだ――。




 ★☆★




 ボクは冷たいベッドで目が覚めた。


 横を向くと、隣にはレンちゃんが寝ていた。


 静かな寝息が聞こえる。息はある!



「リンネさん!」


 反対側にアイちゃんが居た。


 今にも泣きだしそうな笑顔だった。



「みんなは?」


「メルさんは大丈夫です。レンさんは……まだ目が覚めませんが……命に別状はありません。でも、アユナさんが……」


「えっ!?」


 結界の中に居たアユナちゃんに何が!?


 まだ昼になったばかりのようだ。

 窓の外から射し込む陽光は眩しく、潤んだボクの目を貫いてくる。


 ボクは、重い身体を酷使してゆっくりと起き上がり、部屋を出た――。

お読みいただきありがとうございます。

次回、第58話は私が最も辛いストーリーです。

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