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異世界八険伝  作者: AW
第2章 新たな仲間たち
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56.黒の召喚者アイ【挿絵/アイ】

北の大迷宮を攻略し、黒の召喚石を授かったリンネたち一行は、城塞都市チロルへと帰還した。

そして、新たな仲間と出逢う!

 部屋の片隅にある黒い膜――恐らくは、召喚石を守る結界――を抜けて行くと、そこには中央に魔法陣が刻まれた2mほどの扉があった。


 重厚な金属柱を噛み合わせ、物理的に頑丈に施錠されているそれは、金庫にも牢獄にも見えた――。


 1000年に亘る永き歳月、誰一人として此処に入ることが叶わなかった――その事実が、酷くボクの胸を締め付けてくる。

 召喚石が使われないことは、逆に言えば平和が続いているということ。でも、大切な仲間をずっと待たせてしまっていたかのような、凄くやるせない気持ちも湧いてくるんだ。


 魂にかされるかのように、ボクの手は頑強な扉へと伸びる。

 そして、指先が扉に触れた途端、扉は開くことなく、そこに刻まれた魔法陣が淡い光を放った――。



 気づくと、ボクは小さな部屋に居た。


 何度か見たことのある例の召喚石が置かれた小部屋――あの扉は“扉”ではなく、転移装置だったらしい。


 目の前の台座には、横に3mほど雄大な翼を広げた黒竜の像がある。あの暗黒竜ブラックドラゴンを象った物だろう。

 その立派な口には、この大迷宮に挑んだ目的、すなわち黒の召喚石がくわえられていた――。


 ボクは台座に上がり、それを両の手で丁寧に受け取る。


「黒の召喚石、確かに頂きました」


 誰も居ないけど、一応声に出してみる。



 ――しばらく待つが反応はない。


 うん、早く皆の所に戻ろう。


 ボクは像に向かい、スカートの裾を掴んで礼儀正しく一礼し、くるっときびすを返す。

 そして、再び魔法陣が描かれた扉に手を触れ、神殿へと戻った。




 ★☆★




 夜空に浮かぶ巨大な神殿――その外縁に立ち、眼下を見下ろす。


 さすがに雲より高いとは到底言えないけど、25階層の飛び込み台の100倍以上はあるもん、普通は足がすくむというもの。

 でも!

 今のボクには《浮遊魔法フライ》がある。大空への恐怖なんか微塵もない。だって、空と友達になったんだから。


 貰ったばかりの黒竜の翼を使うことも考えたけど、今は全力で飛ぶことしか頭に残らなかった!



 あの暗黒竜ブラックドラゴンの像のように両腕を目一杯に広げ、ゆっくりと前方に身体を傾けていく――。


 視界が縦に振れ、足裏に伝わる地面の感覚がつま先を離れたそのとき、ボクは大空を翔ける鳥となる。


 風を追い越し、時には追い越されながら、風と共に飛ぶ。


 巻き上がる地平線を眼下に望み、思わず頬が緩む。


 魔物だけでなく、ここには鳥も居ない。この大空、輝く月や星々さえも独占したような優越感に浸る。


 ひらめくローブ、スカートの裾を押さえる必要もない。優しい風が抱き締めてくれるから。



 とても気持ちいい!


 鳥たちは、自由は、こんなにも気持ちいいんだ!



 山を越え、谷間をすり抜けて飛ぶ。大木を跳び、草原を翔け、今度は天に向かって垂直に舞い上がる。


 湖面に浮かぶ星々、舞い散る滝の水、懐かしい森の香り――ボクの五感は幸せで満たされていく。




 気付いたら1時間近く空に居た――。

 高度と同じように、今のボクにはこれが限界らしい。推測だけど、飛翔高度は「魔力値×10」、飛翔時間は「1日合計で魔力値×分」といったところかな。


 みんなを心配させちゃってるよね、早く戻らなきゃ!


 随分遠くまで来てしまったけど、目印の神殿は相も変わらず月光を浴びて空に存る。


 その明かり、仲間たちが待つ希望の光を目指して、ボクは再び両手を広げる――。





「「「リンネちゃん!!」」」


 神殿の柱がはっきり見える所まで来たとき、みんなの声が聞こえた。


 速度を緩め、高度を落とし、ゆっくりと大地に両の足を着ける。


「ただいま! 遅くなってごめんね!」



「無事で……良かった……です……」


 メルちゃんが泣きながら抱き締めてきた。


「うわぁ~ん!!」


 アユナちゃんも抱き付いてきた。鼻水付けないでね。


「信じてたよ、あたしの勇者様!!」


 レンちゃんも泣きながら頭を抱いてくれた。



 3人はお互いに目配せした後、ボクの前に片膝を付いて座った――。


「「「勇者リンネ様、貴女に、永久とわの忠誠を誓います!」」」


 えっ?


 なになに!?


 ボクは混乱して言葉が出ない。


 3人は、相変わらず下を向いたまま返事を待ってるみたい――。


 何か、何か言わなきゃ!


 でも、何を言うの?



「い、いきなり……ど、どうしたの?」


 うわ、反応がない。ボクは何かやらかした?


「仲間……いや、友達なんだから……忠誠とか言わないで!」


「私たちは友達である以前に、リンネ様の従者であると思ってください。リンネ様が居なければ私たちは中層で果てていました。しかも、あの空を飛翔する姿は――」


「待って待って! 魔法もアイテムも――あの《浮遊魔法フライ》だって借り物の力だよ、全然凄くないよ!」


「違うよ! さっき、暗黒竜ブラックドラゴンさんが挨拶に来たんだよ……リンネちゃんのこと、凄い凄いって興奮して語ってたもん!」


「さすがのあたしでも、あの巨大なドラゴンはいろいろと無理だわ……」


 あぁ、あれを見ちゃうとね――。


「でもね、ボク自身は本当に弱いの。だから、みんなに力を貸してほしい――」


 このあと、何だかんだ話して、何とか今まで通りの関係をキープすることが決まった。距離が開いちゃうのは絶対に嫌だからね!




「それでは、いきなり告白タ~イム! 皆さんの体重を教えてください! 」


「い~や~!!」


「あれ? レンちゃんはボクにチューセーを誓うんだったよね?」


 利用できるものは利用する!


 今、ボクの魔力値は61もある。魔力値×4kgまで転移可能らしいから、合計224kgまでなら大丈夫なはず――装備は最悪、外して異空間収納アイテムボックスに入れれば良いけど、4人ならこのままでも大丈夫かな?


「私は45kgくらいです」

「あたしもそのくらいにしておく!」

「去年は32kgだったよ!」


 なるほど――。

 メルちゃんは重たいメイスを含めて50kg、レンちゃんはもう少しあるね。ごめん、細かいの苦手だから55kgにしておく。アユナちゃんは身長その他の成長分と装備で40kgかな。サバ読んでボクも40kgでいいや――。


「全員で185kg、かな?」


 笑顔でレンちゃんを見ると、顔を赤く染めて目を逸らされた――まぁ、意地悪はこの辺で終了。


「クピピッ!」


「魔族反応!?」


「違うよ! クピィも体重教えてくれてるんだよ!」


「あ、そういうことね! ま、0kgで」


 少し焦ったけど、大丈夫。

 布袋から黒いモコモコを取り出し、両手で包むようにして魔力を込める。


「では、飛びます!!」




 ★☆★




「「「えっ!?」」」



 一瞬、空間が黒く染まって歪んだ後、ボクたちは夜の町に立っていた――。


 目の前には、見慣れた建物――チロルの冒険者ギルドがあった。イメージするだけで本当に転移できたよ、これは凄い!

 どこから取り出された物なのか思い出したくないけど、黒いおじさんありがとう!!


「実はね、ブラックドラゴンさんが転移アイテムの黒竜の翼をくれたの!」


 一応、質量制限のことや、一度行ったことがある場所にしか転移できないこと、そして、今の転移で総魔法量のおよそ2割を使ったこと等を説明しておいた。


「もう深夜だけど、ギルドに報告をして、可能なら泊めさせてもらって――明日の朝、お部屋で召喚の儀式をしてみよう!」


「「「おぅ!!」」」




 ★☆★




「皆さん、お帰りなさい。クピィちゃんもお疲れさま。どう? 15階層くらいまで進めたかしら?」


「15階層――あ、グランドドラゴン!! あれは強すぎでした」


「ん? 15階層の階層主フロアボスは、チャイルドドラゴンよ?」


「はい?」


 寝惚けたのか、冗談なのか――眠そうに目を擦るメリンダさんから出た一言に、ボクたち4人と1匹はお互いに顔を見合せる。


(どういうこと?)

(いくらメリンダさんでも、冗談を言っているようには思えませんね)

(わかった! リンネちゃんが居たから迷宮が特別仕様だったんだよ!)

(私も、レンちゃんに賛成!)

(確かに、あの迷宮は人間が攻略できるレベルを超えていましたからね)

(って、ボクも人間だからね!)


「内緒話? お姉さん、妬いちゃうわよ?」


「あのぅ、実は――」


 全て信じてもらえるとは思っていなかったけど、丸5日間でボクたちが体験したことを余すことなく、全て伝えた。


 階層主フロアボスのことだけではなく、PKのことや精霊ロアを解放したこと、守護竜たちが力を授けてくれていたことも。それから、攻略後も迷宮が存続するという情報と、最後に、魔人ウィズの件を付け加えた――。


 迷宮存続の話に、お乳を揺らしながら飛び跳ねて喜んでいたメリンダさんだったけど、魔人ウィズの件に話が移ると、頭を抱えて床に蹲まってしまった。

 そして、意を決した表情で語り始めた。


「そんなことが――信じられないけど、全て真実なのね。なるほど、私たちは北の大迷宮、正式には大迷宮ドラゴノヴァですっけ? 舐めていたし、舐められていたのね。それにしても、5日足らずで攻略してしまうとは思わなかったわ」


「信じてもらえるんですか?」


「えぇ。だって、リンネ様が持っているそれは、例の物でしょう?」


「例の物って――何だかイケない取引をしてるみたいですね。これです」


 ボクは包んでいた布を開き、黒の召喚石をメリンダさんに見せた。


 彼女は、目を輝かせながらそれに見入っている。口を開けたままだと、折角の美人が台無しだよ。


 その後、なし崩し的に会議へと進んだ。


「いくらリンネちゃんが可愛いと言っても、魔人の中にファンクラブがあるなんてね」


「魔王の親衛隊である魔人が、私たちの目的である“魔王復活阻止”に協力してくれるなんて、正直考えられませんけど」


「味方として背中を預けられる? あたしには無理かなぁ」


 メルちゃんもレンちゃんも、ウィズに対しては懐疑的な立場のようで、結局、この件についてはギルドの協力のもと、情報収集していくことになった。


 また、今後速やかに王都へと向かうことも話した。

 馬車で片道10日ほど掛かるらしいので、明日は休息に充てて、明後日は旅の準備をし、明明後日しあさって、つまりボクが召喚されてから22日目の朝に出発することが決まった。



 ちなみに、アユナちゃんはクピィを抱いたままソファで眠っている。時刻も深夜の1時だし、仕方がないよね。


 寝入っちゃったアユナちゃんを出汁ダシにして、ギルドの来客室をまた借りることができた。




「は~い! 深夜のお楽しみ会が始まりますよ!」


「むにゃ!? お風呂でごしごしする!」


 あ、アユナちゃんが起きた!


「それはまた今度ね! 深夜で悪いんだけど、召喚をしちゃおうと思います!」


「ふぇ~!? こんな時間に?」


「不安で眠れないの――奪われたり、消えちゃったりするんじゃないかって。夜中に召喚される子には申し訳ないけど、できるうちにやっておきたい。いいかな?」


「私は賛成です」


「あたしも早い方がいいと思う」


「わかったよぉ、もう目が覚めたし!」


「みんな、ありがとう!」



 どこからともなく飛んできたメリンダさん(この人、絶対に盗聴してるね)を含め、全員が固唾かたずを飲んで見守る中、ボクは来客室の中央で女の子座りをする。

 そして、黒の召喚石を胸に抱き、そっと目を閉じる。


 よし、召喚のイメージ作り(瞑想もどき)を始めるよ!


 “仁義礼智忠信孝悌”のうち、“仁”はメルちゃん、“義”はレンちゃん、“孝”はボクが使ったから、残りの“礼智忠信悌”から選ぼう。


 今、ボクたちが必要としている力は何だろうって考えると、やっぱり頭脳なんだよね。

 メルちゃんもレンちゃん頭がいいけど、これからはもっと計画的に、戦略的に行動しないとだよ!


 ということで、今回は“智”を選ぶ!


 イメージするのは、黒……黒い髪で……でも……心は黒くない……それと、下着も……黒はダメ……関係ないか。

 具体的には……黒髪キャラで頭が良い子だと……自動人形のあの子はどうかな……ヤンデレはダメか……お兄ちゃん大好きな魔法科の子は……お兄ちゃんと離れ離れは可哀想だね……魔法少女にも黒髪の賢い子がいたけど……時間操作とか、ボクと被りすぎ……意外と難しい!


 他は……私、気になります系のあの子は……好奇心が強いだけで賢いかは不明だし……メモ○の探偵さんは賢くて可愛くていいんだけど……ド○ペないから無理か……あとは、あのデスゲームのAI娘はどうかな……賢いし……可愛いし……頼りになるし……戦闘力は期待できないけど、パーティに1人は必要な軍師さんだ! 君に決めました!


「ふぅ、まさにメンブレ寸前のやばたにえんでしたが、神聖なる瞑想は終わりを告げ、バブみなブリーフ空手家の召喚準備が整いました」


 今は変なことを言っても誰も突っ込まない雰囲気。ボクの言動の一つひとつが、緊張感を醸し出してくれるんだ。

 小学生エルフに教わった雰囲気作りの精神は、きっちりボクの中に息づいている――。


 黒くて長くて綺麗な髪……白いワンピがよく似合う……清楚な女の子……とても素直で、誰よりも賢くて、バブみ溢れる頼れる子!


「銀の使者リンネの名において、黒の勇者を召喚します!!」


 ボクは胸に抱いた召喚石を目の前に高々と掲げ、できる限り心を込めて宣言した――。



 召喚石から光が満ちてくる。黒ではなく、神々しいばかりの金色の光が部屋一杯に満たされていく!


 光量は飽和状態に達した後、静かに召喚石に収束し始める。


 それと共に、ボクの視界も徐々に回復してくる。




 ボクが掲げる召喚石を受け取り、胸にしっかりと抱いた黒髪の少女が、部屋の中央に佇んでいる。



「あ、こ、こんにちは……こんばんは。ボボクはリリンネです。この世界をあなたに、紹介しま、召喚しました」


 少女は目をしっかり開いて状況を分析しているようだ。誰かさんと違い、とても落ち着いている。


「こんにちは! 私は青の召喚者のメルです。宜しくお願いします」


「私はアユナです、リンネ様の付き人です! よろしくね!」


「あたしは赤の召喚者、レンよ。よろしく!」


「私は、黒の召喚者、アイといいます。皆さん、宜しくお願いします」


挿絵(By みてみん)

↑アイ(清水翔三様作)


 緊張しながらも、可愛い笑顔で挨拶をしてくれるアイちゃん。


 あ……名前がもうあるんだ。考えるのすら忘れてたよ。だって、もう深夜の2時だし……。


 その後、みんなで朝まで話をした。


 アイちゃんはアユナちゃんと同じ11歳らしいけど、見た目はもっと幼い感じがする。

 アユナちゃんより背が低く、膝丈のワンピースから覗く脚もとても細いし、可愛い小学生って感じ。

 でも、発言や態度は凄くしっかりいていて、アユナちゃんとのギャップが面白い。


 自分で自分の名前を決めていたように、既にこの世界のシステム的なことを理解しているみたい。

 この世界の知識や現状、ボクたちの役割、これからのことをたくさん話し合った。


 そして、お昼からみんなでアイちゃん用の買い物をしようと決めて、仲良くおやすみなさいをした。


 まさか、明日が大変な1日になるなんて、この時には誰も想像していなかった――。

仁……メル(青)

義……レン(赤)

智……アイ(黒)

孝……リンネ(銀)


次回から波乱の幕開け――。

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