52.北の大迷宮Ⅴ
15階層からは「金」のステージだ。
雷魔法が得意なリンネだが、活躍できるのか?
1人の奴隷の少年が居た。少年は犯罪を犯して奴隷に堕ちたのではない。かといって、攫われてきた訳でもない。貧しい家族を救うために、自ら望んで、自らをお金に代える選択をしたのだ。
奴隷の生活は過酷を極めた。1日の食事はパンの耳切れが幾つか。運が良ければ骨を貰えた。仕事は1日18時間。休日なんてものは、たとえ病気になっても貰えない。冬でさえ、布切れ1枚に包まり、物置の陰に身を縮めて寝た――。
そんな少年にも夢があった。辛い生活を共にする奴隷の仲間たちと語り合った夢だ。いつか必ず奴隷生活から抜け出して、誰もが自分たちのような悲惨な生活を送らなくて済むような幸せな世界を築くという夢だ。少年たちは夢を熱く語り合うことで、辛い日々を、寒い冬を乗り越えていった。
しかし、夢が叶うことはなかった――。
熱く語り合った仲間たちは、ひとり、またひとりと消えていった。奴隷生活から解放されたのだ。夢を実現したのではない、病によって解放されていったのだ――。
それ以降、少年は絶望という名の暗闇に深く沈んでいく。生きたいと願う意志も失われ、死んだような目で足元ばかりを見るようになっていった。
ここで1つの奇跡が起きる。そんな少年を救う者が現れたのだ。しかし、彼もまた奴隷だった――貴族に生まれた彼は、陰謀に巻き込まれて両親を目の前で惨殺された。仲の良かった妹は慰み者として売られていった。力なき彼は犯罪者として奴隷に堕ちた。
しかし、彼は復讐を望まなかった。それどころか、少年たちの夢を引き継いで世界を変えようと足掻いた。力強く運命に抗った。しかし、神など居なかった――彼もまた、志半ばにして病に倒れたのだった。
少年は生き返った。彼の遺志をどうしても継がなくてはいけないと考えたから。苦難に負けず、ひたすら耐えて耐えて耐え抜いて、奴隷を抜け出した。少年はそこで満足しなかった。彼の尊い遺志を継ぐために、残りの人生の全てを賭けた。
そして、世界から奴隷はいなくなった――。
「……これが、ボクがあの人の目を見て、夢を見て、思い出した話。この少年は特別じゃないと思う。何かをやり遂げようという強い意志があったからできたんだと思うの。人は、強い意志があれば何でもできる、不可能なことなんてないって思う」
「強い意志……ですか。確かに執念とか愛の力とかで運命を切り開く英雄の話はよく聞きます。彼らも最初は特別ではなかった。後付けで他者が神聖化したり、英雄に祭り上げた例がほとんどでしょうね。宗教的、政治的な意図だと思いますが」
「命をお金でやりとりすることに嫌悪感を抱くなら、人以外の動物や植物の売買はどうなのよ、とあたしは言いたいわ。所詮、奴隷制度反対運動は人間中心主義の自己満足に過ぎないのよ。もっと根本的な、命の尊厳を尊ぶ精神とか、そこまで言わなくても、弱者を守ろうという精神がないと説得力がないわ」
夕方4時前に地竜を倒してから、既に5時間程の休憩をとり終えたボクたちは、15階層攻略後の階段で、支離滅裂な会議の最中だ。
最初は16階層以降の攻略が話題に挙がっていた。そこから何がどう発展したのかわからないけど、不可能を可能にするのは意志の力だという話になり、ボクが出した喩え話から奴隷制度の話になり――気づいたらアユナちゃんはクピィを抱いて2度寝してしまっていた。
「話を振り出しに戻すね? 16―20階は金属性、21―25階は水属性だから、階層攻略はボクの雷魔法で余裕だとして、問題はボスだよ! ドラゴンの体長だけ見ても、今後は100mを超える化け物級と戦うかもしれない。普通に考えたら勝てる要素はない。けど、進むためには勝つしかない。そのために必要なものは――信頼や技術や経験も当然だけど、何よりも、絶対に勝つんだという強い意志の力だと思うの」
「その点に異論はないよ? でも、魔物が金属性だとしたら、あたしは戦闘では役に立たないかも。石より硬いんでしょ? またマッパーかな……」
「私もメイスで致命傷を与えるのは難しいかもしれません。しかし、11階層から25階層まで、ずっとリンネちゃんだけに戦わせるのは……」
この先の魔物属性を考えたら、どうしても戦闘はボクが主力になる。そんなこと、実は最初に地図を見たときからわかっていたことだけどね。
パーティ内での役割分担は、人それぞれの得手不得手に合わせるのだから仕方がない――。
「まぁ、全ての魔物を相手にしろと言われたらきついけど、ルート上に現れた分だけならそんなに負担じゃないよ? 蟻の巣ステージみたいに進めば良くない?」
話し合いの結果、ボクがビリビリっと魔物を動けなくして、その間に階段まで走り抜けちゃおうという方針が定まった。うん、バトルジャンキーが1人増えた予感――。
「では、アユナちゃんも寝てることだし、1時間後の夜10時から攻略再開ということで」
<16階層>
イメージ通りの階層だった。
いわゆる、メタリックで近未来的な構造物――通路自体は比較的狭く、横幅と高さがそれぞれ3mほどしかない。
そして、銀色に光るタイルを幾何学的な水色のラインが照らしている。数秒おきに光はウェーブのような波動となって駆け抜けていく。まるで、どこかの秘密基地の研究所か、宇宙コロニーの中を歩いているような感覚だ。
ボクの中では黒いコートを着てグラサン達と徒手空拳で戦うイメージが出来上がっていた。よし、試してみよう!
「スゴい雰囲気の階層ですね……」
「滑らないように気をつけよう!」
「制作会社は相当な手間を掛けてるね。というか、まずは3km直進だよ、しばらくは罠もなし!」
そんな緊張感の足りない空気の中、ボクたちは最初の魔物と遭遇した。
《アイアンスネーク。硬い鱗をもつ大蛇で、巻き付かれると非常に危険》
「アイアンスネーク! ボクに任せて!」
ボクは杖を持って突っ込むと、遠距離からバレーボールくらいの《水魔法/下級》を撃ち込む!
この程度の水圧では魔物を吹っ飛ばすことはできなかった。体長は3mくらいだけど、かなりの重量らしい。
蛇の噛みつき攻撃を左にサイドステップで躱す。
そのまま壁を蹴って宙に舞い、さらに反転したまま天井を蹴って相手の裏を取る!
着地する前、既に魔法は発動している。空中から叩きつけるように、撃つ!
「《雷魔法/下級》! 」
計算通り、雷撃1発でビリビリ痙攣させることに成功!
最初にウォーターボールを放ったので、床一面にも電撃が走っていた。あわや自爆するところだった――でも、壁を使った三角飛びで、体術と魔術をコラボさせたカッコいい動きに、きっとみんなが見惚れているはず。
本当は《空中浮遊》もこっそり使っていたりして。
「センパイがカッコよすぎるっ!」
「いいえ、今のは無駄な動きかと思います」
「あたし、ウォーターボールいらないと思う」
「アユナちゃんだけが味方さっ! まぁ、こんなサービスは1回だけのつもりだったし、これからは真面目に戦いますよ!」
どうやら16階層の魔物は動物型ばかり。とりわけ高い知能を持つものも出ないようなので、動きの練習をさせてもらいますけどね。
「行き止まりを左折して道なりに2km行くと、左右の分岐に出るよ!」
「左右の分岐に来ました!」
「左ね! しばらく壁は触らないで! 《迷宮再構築》とかいう危ないトラップばかりだよ! ルートが変わって地図が使えなくなるとマズいっしょ!」
「了解! 誰かアユナちゃんの両手を縛っ――」
「大丈夫ですっ!」
「左折、右折、左折、左折ときたら左右の分岐に出る。今度は右だよ!」
「はい、右に曲がりました! それにしても宝箱はないの?」
「あっ……それは……」
「3人で話し合って、リンネちゃんに負担を掛けすぎないためにも宝箱無視を決めました」
「そうでーす!」
変な気を遣わせちゃってるみたい。
嬉しい反面、実は魔法書とかも欲しかったりする――。
「そっか、ありがとね! 時々攻略に必要な物もあるみたいだから、近くにあれば言ってね!」
「右折、右折ときて3分岐にあたるけど、無視して真っ直ぐ! 道なりに3km行けば階段だよ!」
アイアンキャタピラー、アイアンスネーク、アイアンイーグル、アイアンウルフ……道中、50匹ほどの魔物をビリビリさせた。
最初ほどの派手さはないけど、体捌きを意識して相手の懐に潜り込む、そして至近距離からの《雷魔法/下級》――まさに、舞うように戦うボク。
そして3時間程で16階層を突破した。
<17階>
ボクたちが今居るのは、半径約2km、円周約12kmで、通路幅が10mくらいのドーナッツ状の階層。まるで浮き輪の中を歩いているような感じだ。
現れる魔物はメタル何とかばかりで、浮き輪と関係があるのかないのか、主に魚類。魔物は壁や床をすり抜けながら、浮遊してやってくる。
「『メタルシャーク』を倒すと18階層への階段が現れる、らしいよ」
レンちゃんが地図に書いてある情報を棒読みしてくれた。
「倒さないと、階段が現れないってことですか?」
「メルちゃんの言う通りだと思う。リンネちゃん、どうする?」
「うーん、他に何か方法がないかな」
「あたしの考えだけどさ。ゴーレムみたいに、ここのメタル何とかも魔法生物っぽい設定だよね? 倒しても迷宮から無限に湧いてくるし、気にしなくていいんじゃないかな?」
「それはわかってるつもりなんだけど――」
ティミーさんが言ってた“魔素から直接生まれた”という存在。でも、たとえ家族がいなくても、1つの命として生まれたということに違いはないと思うんだよね。
「センパイ! カンペキな作戦を思いつきました!」
「えっ?」
アユナちゃんの作戦は、リュークたち盗賊団との戦いのとき以来。
発想がやっぱり小学生っぽいけど、それしかない!ってことで全員一致で可決された。勿論、それでダメだった場合は戦うことを前提に、だけどね。
その後、時計回りに2時間くらい歩いたとき、突然、階層全体がガタガタ揺れ始めた――。
「っ!? 右の壁から何か来ます!」
「「うわっ!!」」
壁から現れたのは赤い闇、ではなくて大きな口だった!
4人は咄嗟にしゃがんで躱す!
頭上を通過していくのは体長10mを超える巨大な銀色のサメ。狭い通路を横断し、左側の壁に吸い込まれるようにして消えていった。
「今のがメタルシャークだよね? ジンベイザメより大きくない?」
「大きさもだけど、あの歯はやばいよ!」
「でも、動きが遅いから何とかなりそうですね」
「よし! アユナ作戦頑張ろう!」
「「ぉぅ!」」
10分後――再び、床がビリビリと揺れ始める。
「来ます! 今度は真上から!」
「上!?」
「せーのー、避けて!!」
「「はい!!」」
前後左右、タイミングを合わせてジャンプした直後、先ほどの大きな口に続き、銀色の胴体が床に吸い込まれていく――。
「ふぅ、巨石コロリンより危険だったね!」
「思い出したくない!」
再び10分後、今度は左側の壁から振動が伝わってくる。
「せーの、しゃがんで!!」
「「はい!!」」
3回目ともなると、みんなも余裕を持って避けられるようになってきた。
問題は、ここから――。
さらに待つこと10分後――足元の床を振動が襲う。
「来ます! 下からですね!」
「うん――」
レンちゃんとアユナちゃんは恐怖で抱き着いている。
ボクも足がガクガク震えている。
だけど、今度は――逃げない!
「包み込め、青き障壁! 《鉄壁防御/中級》!!」
『グャギァゴィ!? 』
現れた巨大な口が青い光で満ちる!
サメは青い箱を飲み込めず、口に咥えたまま天井へと向かう。
そして――。
「ジャンプ!!」
「「はい!!」」
1m四方に形作られた青い立方体の出口側の1面だけが開いた瞬間、手を繋いだボクたち4人は巨大な口からの脱出に成功した!
<18階層>
「怖かった!!」
「うぅ……ちょっと出ちゃったかも」
「きつすぎましたね。でも、もっと大きいと口に入らないし、小さいと飲み込まれるし――」
「うん、絶妙だったと思うよ! アユナちゃん作戦、大成功だね!」
縦横高さが1mの段ボール箱に女の子4人を詰め込む――ちょっと想像すれば、どれだけカオスな状況かわかるよね! もう、恥ずかしすぎだよ。
「で、ここは18階層よね。この階層なんだけど、バトルロワイヤル形式だって」
ボクたちは今、まるで古代ローマ時代の闘技場のような構造物の入口で立ち止まっている。
「静かですね」
「中央まで進むと魔物が出てくるみたい」
「センパイ! 私とクピィちゃんは休憩で……」
「そうだね、ここはボクが1人で行ってこようかな」
「そもそも、魔物を倒さなくても階段を探せば良いのではないですか?」
「メルちゃん、あたしもそれ考えたんだけど、地図の説明に『階段は魔物を全て倒すと現れる』って書いてあるの」
「またアユナ作戦する?」
「ううん、今度は大丈夫だと思うよ。範囲魔法を使うから、まずはボクが1人でやってみるね」
「レンちゃん、魔物の数はどのくらいですか?」
「わからないけど、あたしの女の勘が100匹だよって言ってる」
「いくらリンネちゃんでも、100匹同時は危険です!」
「うん。でもね、うまくいけば1発で終わるから多分、大丈夫。ボクを信じて離れて待っててよ!」
心配するメルちゃんの腕を解き、アユナちゃんに手を振り、レンちゃんからアドバイスを貰ってボクは闘技場の中へと進んでいく――。
★☆★
中央ステージにゆっくりと向かいながら、使う魔法をイメージする。
雷の範囲魔法――。
雷撃だと360度全方位攻撃ができずに討ち漏らしちゃうと思う。だから、波動みたいに自分を中心としてドワッと一瞬で広がる魔法にする。
それと、波動の威力を上げるために水魔法も混ぜてみる。霧の粒子の中を電流がビリビリ流れるイメージ。名前は、波動だからウェーブ――そう、サンダーウェーブでいこう!
ボクは高さ1mほどのステージによじ登る。どうやら半径20mくらいの円形らしい。その中央に描かれた円の中に立ち、深呼吸をする。
周囲の壁から次々と魔物が湧き出してくる。足がたくさんある魔物、空を飛ぶ魔物、どろどろした魔物――金属質の異形が放つ奇声と咆哮が、ボクの精神を蝕む。
恐怖心を抱くな、勇気を振り絞れ、集中、集中、集中――。
冷静に見極めるんだ。
相手の長所を潰し、短所を突く――それが真剣での戦い。
飛行タイプも多いけど、どれもかなり重そう。攻撃力も防御力も、ずば抜けて高いと思う。その代わり、魔法には弱い――。
円形ステージが大小様々、300ほどの魔物で溢れ返ったとき、床が金色に光ったあと、空気が一変する。始まりの合図だ!
既にボクは、大気中から魔力を掻き集めるイメージを練り上げていた――フェアリーワンドがボクの全魔力を吸収増幅させて、ビリビリ震えている。準備は整った!
「芸術は爆発じゃない、融合だ! 《雷魔法/中級》!!」
ブワッという波がバチンッ!という高圧電流の衝撃波と共に駆け抜ける!
一瞬、真っ白に染まり、その後に訪れる静寂に包まれた世界――それを見届けてから、ボクは膝を地に着け、意識を失った――。
「リンネちゃん! お疲れ様でした!!」
メルちゃんに優しく抱き起こされる。今回は笑顔だ!
レンちゃんとアユナちゃんは、圧倒的な金属工芸を前にして目が点になってる。
密集した魔物同士、電流波で溶けた体の一部が繋がりモゾモゾ動いている。それが半径20mのドーム状に作られているんだから魔法芸術というのは凄いよね。
張り切り過ぎたかな――もうちょっとだけ、メルちゃんの膝枕で少し休ませてもらうね。
<19階層>
この階は再び迷宮らしい迷宮に戻っている。みんなと相談して、ここからは宝箱も拾う方向で進んでいた。
「先生! 次の角にトラップがありますよ! その先に宝箱です!」
レンちゃんが凄く敬語の人になっている。
「レンさん、どんなトラップですか?」
「それが、地図に書かれてないんですよ」
何だか危険な香り。地図に書かれていないのが、単なる記入忘れならいいんだけど、トラップに掛かった人が全員……ってオチはないですよね?
「角の所に妙な気配がありますね」
「メルちゃん、妙って?」
「もしかして、オバケかもよ?」
「「ひゃあ!!」」
別に驚かせるつもりはなかったんだけど、アユナちゃんだけじゃなく、レンちゃんもオバケは苦手みたいだね。
「ちょっと見てきます」
「「メルちゃん気をつけて!」」
1人で様子を見に行ったメルちゃんが、誰かと会話を始めたみたい――。
「これは……この存在は……慈悲と怨念の精霊……ロア……怖い! 私、無理かも!」
アユナちゃんが怯えてボクに抱き着いてくる。精霊さんだったら契約すればいいのに。
『エルフが居るのですね!』
ロアに見つかってしまったアユナちゃんが、ボクとレンちゃんに猛烈に押されて、メルちゃんの隣に立つ。
「はい……中級の精霊魔法使い……アユナと言います。上級精霊ロアさま……初めまして……私は……勇者リンネさまと一緒に旅を……しています」
アユナちゃんが真面目モードだ。ロアとかいう精霊が本当に怖いんだね。
『勇者?』
レンちゃんの手を引っ張りながらアユナちゃんの隣に進む。
そんなボクを、1人の女性が壁に寄り掛かるようにして見上げていた――海のような深い青色の髪を持つ半裸の女性、これが上位精霊ロア?
「はい。銀の使者リンネです」
『なんと! そなたが1000年に1人現れるという銀の勇者!?』
「1000年に1人って……そんなアイドルみたいな存在では無いと思いますが……使命を果たすべく、仲間たちと一緒に旅をしています」
『勇者リンネにお願いがあります……私を……迷宮から解放してほしい』
精霊ロア――魔族に敗れ迷宮に囚われてから3年、ここを通る冒険者に呪いを与え続けてきた。
だが、意に反する力の行使から、精霊力を摩耗し、既に消滅寸前なのだとか。よく見ると、ロアの下半身が迷宮の壁に飲み込まれて一体化している――。
周囲を見渡すと、放置された多くの装備に埋もれるようにして人骨が散らばっている――それも相当な数の。ボクは悲しみと共に怒りを覚えてきた。
「あなたは多くの人を殺めてきましたよね?」
『はい……否定はしません……』
ボクはメルちゃん、アユナちゃんを見る。一応、レンちゃんも。みんなが固い表情で頷いている。それでも、助けるべきってことだよね?
「あなたがどれだけ辛い思いをしてきたのか、想像するだけで胸が痛みます。今まで奪ってきた魂に安らぎを与えるよう、この先ずっと精霊界で祈り続けてくださるのなら、解放します」
『必ず――』
ボクは、魔力を大量に注ぎ込み、迷宮の壁を融解させた。
ロアの身体は壁を離れ、感謝の言葉と共に消えていった――。
ロアの顔には、涙が絶えず流れ続けていたことを示すほど、濃く、深く、痛々しい跡が残されていた。何年も泣き続け、罪悪感に打ちひしがれたであろうことは、容易に想像できた。
ボクが覚えた怒りは、彼女に向けたものではない。彼女を貶めた者に対してだった――。
★☆★
「宝箱の中身は……鎧? うわっ、重い!」
《鑑定魔法:黒鋼鉄の鎧。全身を覆う非常に堅固な鎧。斬撃耐性+20%、敏捷−20%》
その後もレンちゃんの指示通り宝箱を目指しながら進んだけど、どれも黒鋼鉄製の防具ばかりで、スルーするしかなかった。
そして、3時間掛けて20階層への階段へと到達した――。
<20階層>
「どんなドラゴンかな。メタルドラゴン、アイアンドラゴン、ゴールドドラゴン、ミスリルドラゴン……どれも強そうだねっ!」
アユナちゃんもドラゴンに対する恐怖心はなくなってきたようだ。まぁ、自分は戦わないから気楽でいいよね。
「最初っから全力全開で《雷魔法》を撃ち込むよ! 倒せるまでマジックポーションがぶ飲みして連発するから!」
「もし、それでも倒せなければ、みんなで土下座だね!」
「土下座が通じますかね――」
★☆★
『我はこの20階層の守護竜、金竜なり。ここを通りたくば、我に力を示せ!』
金竜――何ということでしょう。サイズが2mほどでした。
もしかしたら、途中で経費が尽きちゃったというオチですかね? それとも、声がめちゃくちゃ高いので、幼女ドラゴンだったりして。
ただ、どこかの宇宙人や人造人間が言っていたように、見た目で判断しない方が良さそうだね。
広範囲に拡散する《雷魔法/中級》とは反対に、一定の範囲内だけで爆発を起こす魔法を思いついたんだ。サイズ的にはちょうどやりやすい!
「1000年に1人のアイドル、銀の使者リンネ全力でいきます!」
『来るがよい、不細工な雌など軽く捻り潰してくれるわ!』
金竜の体を包み込むくらいの、だいたい半径2mくらいの半球をイメージする。
その表面から内側に向かって電流波を飛ばす感じ。そして、半球内に高温の爆風を閉じ込める!
「鶴は千年亀は万年ボクは天然、全力全開《雷魔法/中級》!!」
『グオォォォォ……天晴れなの……』
ドラゴンを丸ごと飲み込んだ半径2mのドームは、爆音と共に眩いほどの輝きを放つ!
そして、雷光が消え去った後には《メタルドラゴンの魂》のみが残されていた――。
「えっと、やり過ぎたかな?」
「いいえ。因果応報だと思います」
アユナちゃんとレンちゃんは、耳を塞いで蹲っている。
さて、今日中に23階層クリアを目指そう!
20階層をクリアしたリンネたち。
次は「水」のステージに進むが……。




