50.北の大迷宮Ⅲ
順調に階層を上っていくリンネたち。その前に現れたのは09階層を目指す冒険者集団だった。
そして、その先には10階層のフロアボスとの死闘も待ち構えており――。
ボクたちは05階と06階の間にある階段で休憩中だ。
階層間を繋ぐ螺旋状の階段は全部で30段くらいあって、その最上段には、入口へと戻る帰還の転移結晶が設置されている。この構造は01階を除き、全ての階層で共通らしい。
今は全員が階段の中程に集まり、お風呂代わりにボクの水魔法による裸シャワーでさっぱりした後、これから3時間くらい寝る予定だ。
「皆さん、寝惚けて階段を転げ落ちないでね! 特にアユナちゃん――」
って、もう寝てるし!
安全のためにロープで縛っておこう。ボクは優しい。
★☆★
「おはよう! 皆さん、よく眠れたかな?」
「ねぇ、私はなんで縛られてるの?」
「ボクが、何となく縛りたくなったからだね」
「私は怒りが少し静まりました」
「冷静沈着、それこそが青髪の長所だもんね」
「あたしも耳鳴りが収まったかも」
「耳鳴りの原因って、その長い耳じゃない?」
なぜか皆さんの目が恐い……。
「よし! 次は06階です、気合いを入れていこう!」
<06階層>
この迷宮はフロアボスの属性に応じた構造になっている。
例えば、01-05階層は、05階層のフロアボスが木属性だから「森」がテーマ、というように。
木火土金水の順に重ねられた構造からして、06-10階層は「火山」をテーマにした階層を進むことになる。
「センパ~イ! 暑いんですけど!」
「ネコがメガネの男の子に言った言葉があります。今それをアユナさんに捧げよう!『夏は暑くて当たり前。時には汗を流すことも必要だ』ですよ!」
「夏というより、火山だよ、これ!」
「アユナちゃん、その前にネコが喋ってることを突っ込んでください。そのネコはたぶん魔人です」
「そんなドラ猫のことより、あたしの足元がグツグツと煮え滾っているんだけど! え、やだっ! 押さないでよ!」
10階層まで続く火山のエリア――暑いというよりは熱い。
体感気温は50度を超えているので、ボクが着ている賢者のローブもここでは効果がないみたい。
でも、そこは親切設計の迷宮。階層間の階段だけは、常温の18度になっているらしい。何とかしてそこまで行くしかないよね!
ちなみに、暑さのお陰なのか魔物がほとんど現れない。つまり、暑さは人と魔物、共通の敵だってことだね!
「じゃあ、サクッと次の階段まで走っちゃおう!」
「「「はい!」」」
久しぶりに3人の声が揃った気がする。
「左右の分岐を、右!」
「左中右の分岐を、中!」
「左右の分岐を、左! そのあと、右折!」
「左右の分岐を、右!」
「左右の分岐を、左! そのあと、右折!」
「左中右の分岐を、左! そのあと、左折!」
ボクたちはひたすら走った。距離は10kmくらいはあったかもしれない――魔物も宝箱も全部スルー。その結果、わずか1時間で走りきった。まるでマラソン大会!
今は、06階と07階間の階段でボクの水シャワー中だ。
全員をたっぷり洗ってあげて、次は自分シャワー。あぁ、肌に染み入る冷たい水! 気持ちいい!
みんなはボクの足元で、裸のまま寝転がってシャワーのおこぼれをもらっている。クピィも走ってないけど暑さは苦手な様子。
ずっとこうしていたいけど――魔力が勿体ないということで、シャワーは30分で終了~。
「で、あたしたち次も走るの?」
「私、もう走るのやだ!」
「リンネちゃん、どうします?」
<07階層>
実は、シャワーを浴びながらずっと考えていたことがある。
『神は乗り越えられない試練なんて与えない』という御言葉があるように、この火山フロアにも攻略法があるのではないか、ということ。
「暑さの解決法は3つあると言われています」
誰もそんなこと言ってないけど、伝聞法だと説得力あるかと思っただけです、はい。
「1つ目は魔法。2つ目は( )。3つ目は根性です。では問題。カッコに入る単語は何でしょう?」
「ハイ、センパイ! クピィデス! 」
「アユナさん、意味がわかりません。暑すぎて壊れましたね」
「先生! 答えは科学ではありませんか? 重曹とレモン水で吸熱反応を起こすんだと思います!」
「レンさん、前々から感じてましたが、あなたは――まぁ、ハズレです。重曹もレモン水もありませんので」
「先輩、もしかしたら――装備やアイテムでしょうか?」
「優秀なメルさんが居てくれて先生は嬉しいよ!」
「誰が今から買いに行くのよ!」
「レンさん落ち着こう。ボクの勘ですが、階層の宝箱には暑さを防ぐ装備やアイテムがあるような気がするのです」
「あり得ますね」
「なっとクピィ! 」
「確かにね。でも、リセットボタン押せない――」
「はい、全員の言質を頂きました。もし宝箱がスカっても先輩を責めちゃだめですよ? では、まずはメインルートに近い宝箱を2つ狙っていきましょう」
「入口で右折! 次は左折! すぐ右折!」
「左右の分岐を、左! そしたらすぐ右折!」
「2kmずっと直進、突き当りを右折すると宝箱!」
《鑑定魔法!:深海水の羽衣。千年の時を掛け水の精霊が編み上げたと伝えられる秘宝。完全耐火耐熱効果がある》
「キタァ! 耐火耐熱だって!!」
「「「欲しい!!! 」」」
でも、壮絶な奪い合いは起きなかった。
透け透けだったから、みんな遠慮しただけなんだけどね――。
アユナちゃんは、いつもの服を脱ぎ捨てて生早着替え完了。乙姫様のようにくるくる舞いながら、可愛い笑顔を咲かせる。良かったね!
「次は……500m戻って、左右の分岐を左!」
「2km直進すると左右に分岐。えっと、左が階段で、右は宝箱! まずは右に行くよ! あと少し頑張ろう!」
《鑑定魔法:深海水の羽衣。千年の時を掛け水の精霊が編み上げたと伝えられる秘宝。完全耐火耐熱効果がある》
「同じだね。もしかして、宝箱は全部コレだったりして」
「今度はリンネ先輩、ですね」
「ちょっと恥ずかしいけど――」
後ろを向いてさっと早着替えをし、羽衣の上から賢者のローブを纏う。水着の上からコートを着る感じ? これなら誰かに見られても大丈夫でしょ。
(リンネちゃん、なんかエロいね……)
レンちゃんの呟きはスルーする。裸同然よりはマシだもん。
30分後、ボクたちは07階層をクリアし、08階層への階段で休憩中。
またまたやってきました、裸シャワータイムだ。特に、メルちゃんとレンちゃんとクピィにはたっぷりと水を掛けて冷やしてあげました。
今は夜の8時頃だと思う。シャワー休憩を挟んでも、1階層あたり約2時間のペースで進めている。ボスフロアを1時間と考えると、今後は――。
08階層クリア……夜10時
09階層クリア……夜12時
10階層クリア……夜1時
予定通りにいければ、ボス戦では《時間停止》の使用制限もリセットされているし、ボス戦が終わる頃には前の休憩からちょうど9時間経つ計算。
そしたら、10階層をクリアしたら少し長めに寝てもいいよね。
そんな話をしていたら、レンちゃんの目が虚ろになってきた。メルちゃんは余裕ありそうだけど、レンちゃんは途中でバテそうだ。
よし、深海水の羽衣は交代で使うようにしよう。レンちゃんが着ても、あんまりいやらしくならないだろうし。ボクは優しい。
<08階層>
この階層は、下とは少し趣が異なっている。
道幅が20mほどに広がり、分岐がない10kmほどの道が蛇行して続く。道の両脇にはグツグツと煮え滾るマグマ溜まりのような場所がある。
道の真ん中辺りを歩けば、暑くて耐えられないという訳ではないらしい。どうやら魔物が現れる条件が充たされているようだね――。
「いる! います! いますよ!」
アユナちゃんのこの反応は、精霊さん発見?
「火の精霊さん? サラマンダーとか?」
「下位のサラマンダーくんは06階層でも見たけど、あそこに上位精霊イフリート様が居るんですよ!」
「上位精霊イフリート――私も聞いたことがあります。契約できたら凄いですね!」
「頑張ってみるね!」
暑い暑いと文句を言いながらも、アユナちゃんは1人でマグマ溜まりへと走って行った。
そして、数分後――泣きながら戻って来た。
「子どもとは……うぅ……契約……できないって……うっ……言われました……うぅぅ……」
「あらら」
「精霊にも労働基準法とかあるのかもねぇ」
「アユナちゃん、気にしないでいいよ。今度頑張ろう!」
「うん……仕方ないからサラマンダーくんと契約してきた。おいで、サラマンダーくん!」
そう言って召喚したものの、すぐに精霊界に還されるサラマンダー。
仕方ないからと契約され、暑いからあっち行けと邪険にされる――不遇の極み、人間にもあるあるだよね。
「さぁ、また走りますよ!」
★☆★
「前方100m、魔物が3匹居ます、蛇2と牛1?」
案の定、魔物が居た!
「《鑑定魔法で観てみるね!」
《ファイアースネーク。マグマに巣くう魔物。素早い動きで獲物に絡みつき、マグマへ引きずり込もうとする。魔力値27》
《ファイアースネーク。マグマに巣くう魔物。素早い動きで獲物に絡みつき、マグマへ引きずり込もうとする。魔力値29》
《ファイアーヴァッカロン。マグマに巣くう魔物。身に纏う炎は魔法や刃を寄せ付けない。魔力値30》
「ファイアースネークの魔力は27-29、マグマに引き込まれないように注意だって。牛の方はファイアーヴァッカロン。魔力30で、魔法も物理も耐性があるっぽいよ」
「この先に階段があるんですよね」
「階段まで一気に行くしかないね!」
青赤2人は猛然と走り出す。
メルちゃんが走りながら《風魔法》を連発すると、蛇はマグマに飛び込んで回避、牛は避けようともせず、逆に突進してくる!
ザシュッ!
レンちゃんのサーベルが、風圧で勢いを殺された牛の脚を切り裂く!
「リンネちゃん! 行って!!」
「わかった!」
《空中浮遊!》
ボクはアユナちゃんを抱えると、強く地面を蹴って飛び上がる!
3mくらいの高さをキープし、全力で階段へ向かって飛んだ――。
魔物の隙をついて駆け出した2人の上空に差し掛かったとき、通路脇のマグマが一段と盛り上がり、4匹ほどの蛇が顔を出す。
「増えてる! 2人とも気を――」
『ギャォォォォ!』
火柱が交差するように伸びる!
3本、4本、5本……ボクを狙って飛び上がってくる蛇を、必死に躱しながら全力全開で飛ぶ!
「リンネちゃん!!」
伸び切った蛇の胴体部分にサーベルを突き立てるレンちゃん――でも、ダメージらしいダメージは与えられていない。
『ブォォォォォ!』
背後からは、口から火炎を吐きながら牛が猛進してくる!
「《鉄壁防御》!」
バシャンッ!
メルちゃんの目前に現れた青い壁――斜めに配置されたそれに豪快にぶつかって角度を逸らされた牛は、そのままマグマ溜まりへと飛び込んで消えた。
「メルちゃん、ナイスだよ! 火の用心 マッチ一本 火事の元! 《水魔法/初級》!!」
一足先に階段下に到着したボクは、レンちゃんに迫る蛇の頭に向けて渾身の《水魔法》を放つ!
バフッ!!
発生した水蒸気の暴風がレンちゃんとメルちゃんを吹き飛ばす!
2人に巻き込まれるように、ボクたちは階段へと到達した――。
「結果オーライ!」
ゴツン!
2人から愛情たっぷりのゲンコツを貰った後、ボクたちはシャワーをして、2時間ほど仮眠を取ることにした。
<09階層>
油断とは――比叡山延暦寺で1200年以上燃え続ける不滅の法灯に燃料の菜種油を――というのはさておき、階段にて裸で眠る美少女4人組にも等しく訪れるフラグのことを指す。
『うわっ! なんだこりゃ!?』
ボクたちは、突然放たれた男の悲鳴で飛び起きた。
火山ステージの階段の使用方法として、シャワー後には当然の如く、裸で眠る。
その楽園に突如現れた魔人たち――いや、クピィは反応していない。
泣き叫ぶアユナちゃん。怒り狂うメルちゃんとレンちゃん。動揺しながらも、顔を覆う指の隙間から観察を続ける男たち4人――そこに、唯一無二の冷静なボク。流れは必然性を伴う。選択肢は極めて少ないからだ。
あるのは、撲殺か謝罪の二択のみ。
「お話があります」
ボクは精一杯の冷徹な声で交渉の場に立つ。
背後には、完全フル装備に戻った仲間たち。
目前には、罪悪感とニヤケ顔が入り交じった男たち。
『不可抗力です! 階段を降りたらいきなり女の子が裸で寝ているなんて、誰が想像できるでしょうか?』
一瞬、ボクたちの怒りが空気を冷やす。
そこはさすがに09階層にまで上がってくる手練れ――身の危険を察したのか、即時前言撤回する。
『とはいえ……階段は休憩場所。火階層の階段ならば裸で涼んでいる方々も居るだろうと予見して……階段を上る前に声を掛けるべきでした……本当にすみませんでした』
『『すみませんでした!』』
謝罪、しかしそれは求められる結果ではなく、交渉の前提条件に過ぎない。
そしてボクは、彼らから極秘事情を聴き出すことに成功した。
彼らの目的地は09階層――そこには宝箱が3つあり、そのうちの1つが必ず火魔法の書であるという。
下級70%、中級25%、上級5%の確率だそうだ。それを目当てに3日に1回は09階層を訪れるのだと。そういう彼らのパーティ名は“炎好き好き倶楽部”。
「ちょっと相談させて下さい」
『はい……』
「メリンダさんから貰った地図には魔法書の情報なんて書かれてないけど?」
「また、騙されていますか?」
「嘘だったらその場で切り刻めばいい!」
「私……もう、お嫁に行けない……」
「慰謝料として魔法書の宝箱を要求する?」
「私はそれで我慢します」
「あたしたち4人の裸を見たんだよ? せめて中級以上だよ!」
「お嫁に行けない……」
会話が噛み合わない小学生は、スルー。
「今回の件、魔法書の宝箱の権利を融通してもらえれば水に流せますが?」
『わかりました。僕たちに非があったのは事実です。それで示談成立ということにしていただけると助かります!』
と言うや否や、炎好き好き倶楽部の面々は帰って行った。
金銀が下級で、赤が中級、青が上級……そんな声が聴こえた瞬間、ちょっと指先がバチバチしてしまったけど、ぐっと耐えた――。
「では! 魔法書を求めて走るよ!」
「「「はい!」」」
「まず左右の分岐――メインルートは右だけど、左の宝箱を目指そう! 左に行き、4分岐に出たら左から2番目へGO!」
「行き止まり2分岐を左! その先を右折したら宝箱!」
「残念――ハズレ! けど、9000リル!!」
ボーナス900万円っ!
うはっ、笑いと踊りが止まらない!!
「入口まで戻って、最初の2分岐を右へ! 突き当たりを右折、道なりに進むと2kmで3分岐に出る!」
「先輩! 3分岐まで来ました!」
「よし、ここを右に行くよ! 突き当たりを左折、その後すぐ右折! 目の前に階段が見えるはずです!」
「先輩、階段ありました!」
「左右のどっちにも宝箱があるけど、左が近いから左に行くよ! 1km先が行き止まり、そこを左折すると宝箱がある!」
《ミスリルの塊。魔力を増幅・備蓄可能な聖銀のインゴット》
「――うっ、またハズレ。聖銀のインゴッドだって」
「お腹すいた」
「騙されたのかもしれませんね」
「もうっ! 次、行こうよ!」
「そうだね! 右折して真っ直ぐ2km、そこからジグザグね。右折、左折、右折、左折、右折――その先に宝箱!」
「出た!! 上級――」
「「「えっ!?」」」
「なら良かったんだけど、中級!!」
《火魔法/中級:火炎を自在に操ることが可能》
「「「…………」」」
「ん? ――人の話は最後まで聴きまし――」
「「「リンネちゃんのイジワル!」」」
でも、中級は貴重品だよね! 今は誰も覚えられないけど、売るのは勿体ない気がする。
その後、10階層への階段まで進むと、まずはたっぷり水シャワー!
はぁ、生き返る~!
さすがにここまで来るパーティは無いだろうとは思いつつも、服をしっかり着てから軽く夜食を食べた。
次はボス戦だ――。
<10階>
ボスは恐らく火竜。もしかしたら赤竜。どちらにしても竜種の中では上位に名を連ねる大物だ!
生活魔法化しつつあるボクの水魔法だったけど、日の光を浴びる日がきた!
しかし、所詮は下級魔法――。
「えっと……作戦なんだけど。まずはボクがドラゴンの頭に雷を……」
「「「却下します!」」」
何だかこの3人、最近凄く息が合ってきて、ボクは嬉しいですよ。
「確かにリンネちゃんなら1人で倒せると思いますが、今回は私たちに任せてください」
「メルちゃん?」
「あたしもメルちゃんに賛成! こういう機会じゃないと本気で戦えないからね」
「うぅ……怖いけど、私も役に立つところ見せたいから頑張るっ!」
このボス戦が命の奪い合いじゃないと理解しているからこその、3人からの提案。恐らく、相手は積極的に攻撃してこなくて、防御優先で実力を測ると思う。それなら、任せても大丈夫だよね。
「わかった。信じて任せます。けど、危なくなったら参加するからね」
「はい! では、作戦会議を始めます――」
ボクは暇すぎて、不思議生物クピィのボディチェック中だ。
体長は10cm、というか半径5cmと表現すべき? 卵状の体に、長さ3cmのサラサラな毛が生えている。見た目はウサギっぽい。足はピンクの小さいのが2本、指は――3本?
そして、なんと! 背中には折り畳まれた翼が!! もしかして飛べるの? 試しに壁に向かって投げてみる? いや、さすがにそれは悪逆非道というものだ。軽く広げてみると、クピクピ騒ぐ。痛いのか気持ちが良いのかわからないから止めておく。
耳は小さいがフサフサの狐耳みたいなのがある。目はピンクのビーズみたいなのが2つ。それと、小さな口もある。牙や歯は生えてない――精霊さんだから何も食べないのかな? ウンチをしないのが最高だね!
あと、このポケットサイズが堪りません。肩に乗せてよし、頭に乗せてよし、抱いてよし。あれ? オスなのメスなの? ちょっと拝見――。
「リンネ先輩!!」
「――っ!!」
「作戦決まりました! 行きますよ!」
焦った!!
3人の作戦会議は30分以上を費やして、やっと終わった――。
幅30mはあろうかという通路がひたすら延びている。左右と上部には、燃え盛る炎の壁――そう、通路は炎のトンネルだった。
でも、不思議と暑さや息苦しさは感じない。何らかの魔法や加護の力さえ感じる。
炎のトンネルを潜り抜けた所には、またも巨大な神殿があった。幅はゆうに500mを超えている。ちなみに高さは50mくらいだろうか。屋内ならば空を飛ばれることもなさそうだ。
この中にドラゴンが居るんだね。ボクは心臓をバクバクさせながら足を踏み入れた。皆も緊張しているはず。
中に入ると、暗闇の中に2つの光が灯る。
近づくにつれ、はっきりとその全容が浮かび上がってくる。
体長30mを超す赤銅色の鱗を持つ巨大なドラゴンが、2つの光る眼でボクたちを見下ろしていた――。
『ここを通らんとする小さき者共よ。我は10階層の守護竜、紅炎竜である。汝等の力を示せ!』
相変わらずの重低音、ド迫力だ!
音が空気を振動させて伝わるというより、声そのものが風弾として鼓膜を叩いてくる。
負けじとメルちゃんが叫び返す!
「青の使者メル、挑ませていただきます!」
「赤の使者レン、同じく戦います!」
「勇者リンネ様の代理人アユナ、頑張ります!」
この名乗り方、毎回やらないといけないのかな、恥ずかしいね。
ボクは後方で離れて待機中。
頭にはクピィ、隣にはドライアードが居る。
『リンネ様、相手は上位の竜種ですが……』
「名前が変に長いし、確かに強そう。でも、信じて見ていてください」
とはいえ、ボクは既に大量の魔力を練り上げて、いつでも魔法を撃てるよう準備をしていた。どう考えても、物理攻撃主体のあの2人と小学生エルフが巨大なドラゴンに勝てるイメージが湧かないから。
『ブォォォ~!!』
まさかの先制攻撃!?
しかも、いきなり即死級の炎のブレス!!
メルちゃんが内側に潜り込み、レンちゃんが横に、アユナちゃんが下がって躱す!
3人ともブレス攻撃を読んでいた動き――攻撃の初期動作を分析して対応しているみたい。
メルちゃんが迫る!
それに合わせて、ウィルオーウィスプの光魔法がドラゴンの眼を狙う。シルフとアユナちゃんも上手く牽制してる。
レンちゃんは隠術か、姿が見えない。背後に回ろうとしている様子。これがいつもの勝ちパターン。でも、この相手に通用する?
ドラゴンの意識が上に集中した一瞬の隙を突いて、メルちゃんの重たい1撃が前肢を叩く。
バキッという轟音が響き渡る!
ドラゴンは咆哮を上げ、尻尾で反撃を試みる!
そこに、背後から尻尾の付け根を狙ったレンちゃんの突きと斬撃のラッシュが当たる!
アユナちゃんたちは、引き続き頭部を魔法で狙い撃ちしている。
一連の連携にミスはない、でもダメージはどうだろう?
ドラゴンは思いっきりタフだからね!
暴れ回るドラゴンに対し、3人は一旦距離をとる。
冷静に分析して次の連携を構築するのはメルちゃんの役割のようだ。次々に指示が飛ぶ。
ドラゴンも誰が司令塔であるのかを見極めたようで、前肢を傷めながらもメルちゃんに突進する!
3人はすぐに散開し、3方向から挟み討つ形が完成している。
戦局は完全にコントロールされていた。
猛進するドラゴンの牙を俊敏な動きで交わし続けるメルちゃん。横に回って動きを牽制するアユナちゃんチーム、そしてレンちゃんは背中に乗り移るタイミングを計っている。
噛みつき攻撃、前肢の薙ぎ払いが尽く躱されたドラゴンは、大きく息を吸い込む動作に入る――あ、このタイミングを3人は待っていたようだ。
アイコンタクトで一気に仕掛ける!
メルちゃんが《風魔法》をドラゴンの口に叩き込むと、アユナちゃんは攻撃力0のフェアリーワンドを前肢に撃ち込む!
背中に乗り移ったレンちゃんが剣を2本突き立てる! 心臓を狙う1本と、首元への1本――これはさすがに効いたでしょ!
ドラゴンはブレスを中断、レンちゃんを振りほどきにいくが、前肢がもつれて横に倒れる――回り込んだメルちゃんが、渾身の1撃を側頭部に叩き込む!!
『見事なり――』
短い言葉を残し、紅炎竜は光の中へと溶けるように消えていった。
『リンネ様、杞憂でした。見事な連携でしたね! では失礼します』
嬉しいような、寂しいような声色を残してドライアードが還って行った。
今回は、相性が悪かったからドライアードとトレンちゃんの出番はなかったね。
「みんな、完璧な戦いだったよ! お疲れ様!」
ボクはドロップアイテムを回収した3人を笑顔で迎える。
短時間で全力を出し切ったのだろう、全員が息を荒げて声が出せない様子。
《レッドドラゴンの魂。火魔法のレベルを1つ上げる効果がある》
「連携は……予定通り……でしたが……長期戦になる……と、もちません……1つズレると……崩壊する……危険な戦いでした……やはり……リンネちゃんみたいに……1発で……仕留められる力が……必要です」
メルちゃんが苦しそうに感想を述べてくれた。
「それでも、魔人は1撃で倒せなかったし、お互いの長所を生かした連携は必要だよ。アユナちゃんもレンちゃんも頑張ってたね! 階段で休みましょう!」
今回のボス戦は、ほぼシミュレーション通りに運んだようだ。
事前に準備された戦いと、唐突な戦いとは全く異なるもの。今後の魔人戦を考えると、臨機応変に戦えるバリエーションは増やさないといけないかもね。
当初の予定よりも2階層分多く進んだボクたちは、11階への階段でシャワーと食事を済ませ、しっかり服を着てボーナス込の“5時間爆睡タイム”に突入する。
ちなみに、全員分の鑑定をしてみた結果がこれ。
4人とも、チロルを出たときより魔力が10も上がっていた。
《リンネ。銀の召喚石を持つ見習い勇者。泣き虫なうえにトラブルメーカー。特技は《雷魔法》。魔力値46》
《メル。青の召喚石を持つ鬼人族。普段は仁を重んじ慈愛に満ちているが、怒ると容赦がない。特技は《鈍器術》。魔力値63》
《アユナ・メリエル:エルフ族の精霊使い。才能はあるが精神年齢が低いためによく嘘を付く。特技は《精霊召喚》。魔力値38》
《レン。赤の召喚石を持つピクシー族。正義感に溢れる義の戦士で、自ら先頭に立ちたがる性格。特技は《二刀流剣術》。魔力値30》
よし、朝6時起きで攻略2日目、頑張るぞ!
01-05階層の「木フロア」に続き、06-10階層の「火フロア」もクリアしたチームクピィ(仮)。
しかし、続く11階層を目前に、リンネに試練が迫る。




