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異世界八険伝  作者: AW
第2章 新たな仲間たち
40/92

40.共同作戦

西の勇者アルンが消え去った屋敷――そこに残されたリンネたち三人。その一室に突如飛び込んできたのは、エンジェル・ウイングと名乗る自警団だった。

 白装束の5人がボクたちを囲み、武器を真っ直ぐに向けてくる。

 その迫力に、ボクたち3人の背中が1つに合わさるほど追い詰められていく。


 逃げる機会を失った今、戦う覚悟を決めようと1歩前に踏み出したボクだけど、アユナちゃんに先を越されてしまった。


「どうして?」


 イケメンが消えたショックからなのか、アユナちゃんが珍しく怒っている。


「貴女は、さっきのフードの子――」

「どうして自警団が、勇者様の邪魔をするの?」


 アユナちゃん、涙目だけど頑張って言い切った!


「勇者ですって!? ならば、理由は明白です――貴女たちが、勇者を名乗るからです!」


 っ!!

 フィーネ――。


「2人とも、手を出しちゃダメ! アユナちゃん、合図したら精霊を。ここは強引にでも逃げるよ!!」


 ボクが指示を出すタイミングを窺っていたとき、白装束の仲間がリーダーに耳打ちするのが聞こえた。


「姉貴、人数が足りないぜ。目撃証言通りなら、あと1人いるはず!」

「なんだと? おい、もう1人はどこに行った!」


 頭上に掲げられた銀色の剣、その輝きが彼女の本気を示す。



 来る――!


 容赦のない1撃が!



 逃げるなら、《攻撃反射(カウンター)》を放った瞬間だ。


 この人、凄く強そうだけど、剣先を見切れるだろうか――。



 一筋の汗が、頬をスーッと滑り落ちていく。


 集中しろ!



「抵抗は無意味だ! 私に斬れない悪はない――」

「よせ! アリス、お前の勘違いだ!!」


 そう叫びつつ、階段から現れたのは――ラーンスロットさん!?


 ボクの肩口から、銀の剣先が引いていく。

 ボクも、振り上げようとした棒を収める。

 彼女の胸元に迫っていたメルちゃんのメイスも――。


 制止が無ければ、少しでも遅ければ斬られていた。

 ラーンスロットさん、助かったよ――。


「おにーちゃん? どういうこと!?」

「「お兄ちゃん!?」」

「あぁ……話せば長くなる。そんなことより、さっき走り去って行った連中は何だ?」


 ボクたちの総ツッコミを躱したラーンスロットさん――彼が言っているのは、勇者レオンのパーティだよね。


「もしかして、男3人と女1人の?」

「そうだ」

「くっ! してやられたか――」


 胸を押さえて苦しそうに(あえ)ぐ白装束のリーダーと思われる女性。


 ボクもさっきから胸が焼けるように痛い。

 この人も同じなのかも――。


「だ、大丈夫ですか?」

「苦しい――」

「そうでしょうね。人違いで無実の殺人を犯す寸前でしたから、罪悪感に(さいな)まれているのでしょう?」


 炸裂したのは、嫌味のスパイスを大量に振り掛けたメルちゃんの毒舌。


「す、すみません――」


 謝罪を言い終わるや否や、床に倒れ込むリーダー。


 ボクは咄嗟に彼女を支え――ようとして、一緒に倒れ込んでしまった。




 ★☆★




 リーシア・アルンティス――彼女の人生を、まるで自分が体験したかのような錯覚が、ボクの頭を駆け巡っていた。


 西の貴族家で生を受けた彼女。優しい両親の寵愛(ちょうあい)を独占した幸せな日々。その後に突然訪れた義父からの暴力――目を(そむ)けたくなるような、辛く苦しい地獄の日々――。

 そして、一人の男(ラーンスロット)との運命的な出逢い。険しい逃避行の末に辿り着いた、このヴェルデという北端の地。アリスとして2度目の生を受けた彼女。取り戻された幸福と、再び訪れる悲しい別れ――。

 孤独に苛まれながらも、強く生きようと奮闘した人生。仲間を支え、仲間に支えられてきた優しき人生。町を救うため、勇気を奮い起こし、命を懸け続けてきたその壮絶なる人生――。

 そして――17年もの間、ずっと想い続けてきた最愛の人。12年の時を経て、やっと再会を果たすことができた最愛の人。最愛の――。


 胡蝶(こちょう)の夢から目覚めると、ボクの身体はベッドにあった。


 隣にはリーシア、いや、アリスさんが横たわっている。

 滔々(とうとう)と流れ落ちた涙の川が、彼女の美しい顔から純白のシーツへと滴り、大きな泉を作っていた。


「たくさん泣いたんだね――」


 アリスさんにではなく、自分自身に向けて発した言葉。

 隣のベッドと同様、ボクのシーツも涙でぐしょぐしょに濡れていたから。



 邪の力に翻弄されながらも、世界を救おうと決意した2人――。


 今ならはっきりと断言できる。


 この人は、ボクと同じだと。



 あの胸の痛みと今見た夢は、女神の加護の、もっと言えば魂の共鳴だったのかもしれない。きっとあの女神様(ニンフ)がボクたちを引き合わせたのだろう。ボクたちはここで、逢うべくして逢ったんだ。導いてくれた運命の女神様に感謝しないとね――。


 それにしても、ここは誰の家なの?

 勇者の住居不法侵入罪と器物損壊罪――窓ガラスを割ったのはボクじゃないけど、確実に号外が出るよね?

 いや、某RPGでは推奨行為だっけ? あり得ない、本当にあり得ないよ! もう、チリが東西に分裂するレベルを軽く超えてるよ!


 ベッドの上で土下座をしていると、すぐ隣から漏れる溜息を聞いた。


「勘違いしていました――」


「いえ、勇者の名を騙る殺人や強盗が多発していたなんて、ボクたちも知りませんでしたから。そんな状況なら、勇者を信じ、心から崇拝してきた貴女が怒りの感情を爆発させるのは当然だと思います。悪いのは西の勇者、ううん、あのレオンパーティです!」


「リン……いえ、勇者リンネ様……私はあなたの夢を見ていました……」


「様!?」


「是非、そう呼ばせてください」


「あ、はい……」


 ボクもアリスの夢を見ていました!なんて、こんな綺麗な人に見つめられたら言えるわけないじゃん。それに、彼女がどれほどに勇者に憧れ、待ち望んでいたかを知ってしまった今となっては――。


 彼女はボクより十歳も年上。だけど、他愛ない話をするうちにお互いの心が通じ合ってきたように思う。こういう場合、共通の知り合いを出汁に使うのがボクのテクニック(同調)で、今回はラーンスロットさんが犠牲になったのは言うまでもないけどね!


 話が異常なほどの盛り上がりを見せる中、ノックもなく部屋の扉が開き、それぞれの大切な仲間が入って来た――。

 また、メルちゃんのテクニック(盗聴)が炸裂していた予感が!


「「真の勇者様御一行だと知らなかったとはいえ、大変なご無礼をしてしまいました。平に、平にご容赦くださいますようお願いいたします」」


 入室早々、そう声を揃えて謝罪し、ボクの前で土下座を始める4人。皆、一様に傷ついている。これ、絶対にメルちゃんの仕業だよね!?

 隣では、アリスさんも、彼女たちに合わせるようにベッドに頭を擦り付けていた。


「やめてください! メルちゃんも止めて!」


 腕を組んで満足そうにしているメルちゃんを名指しし、土下座を終了させる。

 アユナちゃんは後ろで欠伸をしている。小学生はそろそろおねむの時間かもしれない。

 ラーンスロットさんは「女性が寝ている部屋には入れねぇ、野性が抑えきれねぇ……」とか何とか言いながら、外で待っている。


 (ようや)く顔を上げるアリスさんと4人――。

 確か、紫髪の人がフィルさんとフィンさんで、金髪眼鏡の方がメリーさん。茶髪の背の低い人がルゥさんだったはず。皆、とても美人だ。


 自分への追及を躱すためか、メルちゃんが大きな声で切り出してきた。


「リンネちゃん、今後の方針ですが、エンジェル・ウィングの力を利用することにしましょう」


「利用って……」



 ボクたちが寝ている間、メルちゃんは情報の共有という名の事情聴取を(おこな)っていたみたい。まさに、カンカンガクガクだ。


 エンジェル・ウィングは、魔人の件につき、ある重要な情報を掴んでいたそうだ。それは、町の北西に居城があり、レオンと名乗る若者とそのパーティと思われる一団がそこに出入りしているということ。

 それらを勘案し、魔人と何らかの関連があるレオンが、勇者の名を騙って動いているのは間違いないとの推論に至ったらしい。それで、エンジェル・ウイングは、数々の目撃証言を頼りに彼らを追っていたそうだ。

 彼らが魔人そのものかはわからないけど、その一味である可能性は高いと思う。あいつらの言動からして辻褄(つじつま)が合うもん。あっち側からしたら召喚石は呪いのアイテムだと言えるし、結界のある竜神の角に行きたがらないことも――。



 その後、ボクとアリスさんを加えて対魔人共同作戦を話し合った。


「魔人の目的は、“魔王の復活”ですよね」


「確かにそう言われています」


「ヴェルデ近郊に城があるってことは、魔王はこの北の地に?」


「「……」」


 ボクの物騒な一言が、場の緊張を高めてしまう。

 アリスさん始め、固まってしまったエンジェル・ウィングに代わり、メルちゃんが発言する。


「恐らくですが、魔人はノースリンクに召喚石があることを早々に知っていたのでしょう。この地に城を構え、ノースリンクに渡ろうとする者を警戒してきた――そうは考えられませんか?」


「確かに、ボクたちに接触してきたことから考えると、一理あるかもね。あとは、“魔界の門”のこともある。あいつらの反応からすると、この地の魔人が何か関係している可能性が大きい」


「女神様の町……」


 アリスさんとは過去を共有しているからわかる。

 例の町は1度アリスさんたちに救われたけど、3か月前に魔人に滅ぼされてしまったんだ。魔人への怒りはボクたちとは比較にならないはず。


「エンジェル・ウィングの参謀役を務めているメリーです。えっと、レオンが勇者の名を騙っている理由は明白ですよね。1.有益な情報を得る、2.勇者の地位を(おとし)める。3.それにより勇者の行動を阻害する。今回の騒動も、勇者様御一行と私たちをぶつけ、共倒れを狙った魔人の陰謀と考えても宜しいのでは」


「いかにも、自分たちは悪くない、()められたんだと言いたいご様子ですね」


 メルちゃんがチクリと釘を刺す。


「でも、魔人が企図(きと)していたのか否かは関係なく、ボクたちはこうして出逢ったんだから、魔人の悪巧みを1つ潰したってことで、喜んでいいんじゃないかな」


「そ、そうですね。勇者様の仰る通りです!」


「リンネちゃんがそう言うのなら、私もそう思うようにします」


「うん、メルちゃんありがと」


 再び訪れる沈黙――それを、アリスさんが破る。


「私から言うのも烏滸(おこ)がましいと思いますが、今後の対応策を考えませんか」


「そうですね。メルちゃん、何か作戦はある?」


「私たちは敵対関係を装うべきだと思います。ここは、レオンの指示通りにノースリンクから召喚石を持ち帰りましょう。魔人は必ず私たちに接触してくるはずです。その間、手薄になった居城をエンジェル・ウィングが攻め落とす。その後で、動揺している相手を挟撃し、一網打尽にする。どうでしょうか?」


 嬉々(きき)として発案するメルちゃん。

 やっぱり、いきなり武器を向けられたことを根に持ってるのね――。


「私は反対に、勇者様とエンジェル・ウィングが協力関係にあることを公言すべきだと思います。魔人側が既にこちらの状況を把握している可能性もありますし、簡単に騙せるほど甘い相手ではありません。敢えて協力関係にあることを堂々とひけらかし、大々的に居城遠征を発表します。そうすれば、相手は警戒して城に閉じ籠るでしょう。その隙に、勇者様たちがノースリンクへと渡り、召喚石を手に入れる――これなら、召喚石の入手を阻止しようとする魔人の思惑を躱し、かつ、こちらの戦力増強も果たせるはずです」


「……なるほど」


 メルちゃんとメリーさん、両極端だ。

 2人の視線の間に火花が散ってる気がするよ。


「勇者リンネ様、貴女はどうお考えですか?」


 このままでは結論に至ることができそうにないと思ったのか、アリスさんがボクの考えを訊いてきた。


 相手は居城を構える魔人の軍団だ。

 以前、大森林でリザさんと一緒に見た魔人を思い出す。巨象の魔物に跨り、トレントを蹴散らして進む姿――おどろおどろしい凶悪な魔力を思い出し、吐き気を催す。あんなのに勝てるかと問われれば、無理です!って即答してしまう自信がある。

 それに、フィーネで見た、馬車の屋根に悠然と佇む黒い服を纏った白髪の魔人――強さの想像すらつかない。


「今は戦えない」


「なるほど……でも、いずれは戦わざるを得ませんよね?」


「ちなみに、話し合いによって解決する可能性は――」


「「ありません!!」」


 その場の全員に言われてしまった。

 といっても、後ろで遊んでいるアユナちゃんたちを除いてだけど――。


「魔人は知能が高いんですよね。話し合う意味はあると思うんですが」


「勇者リンネ様。目的が相容れない者同士が話し合っても無益なだけです」


「そっか……」


 アリスさんの言葉に、凄い説得力を感じる。

 命を奪わず、魔人を抑え込むことって可能なのかな? 日付が変われば《時間停止(クロノス)》が使えるようになる。しかし、隙を突けたとしても、魔力差が大きいために決定打を与えられないのは確実。


 どうすれば――。


「エンジェル・ウィングの皆さんは、既に居城を攻めたのでは?」


「「……」」


 メルちゃんの質問に対し、俯くアリスさんとメリーさん。


「まさか、敵の居場所を突き止めておきながら放置したと?」


「……攻めました」


「え?」


「勿論、攻めましたよ! それも、町の総力を結集して! しかし……大量の犠牲を払い、敗れました……城には結界が張られていて、結界の中では魔の力が強化されていました」


「死者は30名を超えました」


 アリスさんの説明に、メリーさんがぼそりと一言付け加える。


「……」


 メルちゃんが黙り込んでしまった。

 聖結界もあるんだから、その逆も当然あるということか。


「魔人城で戦うのは愚策(ぐさく)です」


「確かに……そうですね」


 格上相手に、相手のフィールドで戦うのは無茶だ。

 何とか外に(おび)き出して戦うしかないよね。




 ★☆★




 1時間を超える話し合いの末、一応の作戦は決まった。


 時間は既に正午を回っている。

 ここからはエンジェル・ウィングとは別行動となり、それぞれがすべきことをする。



 狭い部屋の中には、ラーンスロットさんを含めた全員が入り、なぜかボクの一言を待っていた――。


 とりあえず、気合を入れておく?


「よし! 皆さん、お互いに全力を尽くしましょう!!」

「「はいっ!!」」


[メルがパーティに加わった]

[アユナがパーティに加わった]

[アリスがパーティに加わった]

[フィルがパーティに加わった]

[フィンがパーティに加わった]

[メリーがパーティに加わった]

[ルゥがパーティに加わった]


 久しぶりだね、この感覚。

 相変わらず馭者はパーティに入ってないけど。



 その後、ボクたちはギルドで質素な昼食を取り、カウンターでステータスの確認をした。



◆名前:リンネ

 種族:人族/女性/12歳

 職業:平民/冒険者

 クラス/特技:魔術師/雷魔法

 称号:銀の使者、ゴブリンキングの友、フィーネ迷宮攻略者、ドラゴン討伐者、女神の加護

 魔力:22

 筋力:27


 あぁ、女神の加護って称号なんだ。また筋力が少し上がった。年齢的に筋肉が付きやすい時期なのかな。というか、筋力しか上がってないじゃん!



◆名前:メル

 種族:鬼人族/女性/14歳

 職業:平民/冒険者

 クラス/特技:メイド戦士/家事

 称号:青の使者

 魔力:37

 筋力:73


 筋力が2だけ上がってるらしい。あんなに細くて綺麗な腕のどこに筋肉が隠れているんだろうね。



◆名前:アユナ・メリエル

 種族:エルフ族/女性/11歳

 職業:平民/冒険者

 クラス/特技:精霊使い/召還術

 称号:森の放浪者、女神の加護

 魔力:14

 筋力:20


 アユナちゃんも筋力が2アップ。寝る子は育つってね。称号は、ボクとお揃い。

でも、“妖精王の加護”という単語は相変わらず見当たらないね。


 エリ婆さんの鑑定みたいに細かく観れたら、もしかしたら他にも情報がわかったり、3人の成長を実感できると思うんだけど――ボクも鑑定魔法のレベルが上がればもっと細かく観れるようになるのかな、なるよね?



 ん?


 ちょっと待って!


 3人とも筋力が2上がってるってことは、アリスさんの“女神の加護”同様に、ボクの成長が仲間の成長にもなるってことじゃない!?

 もしそうだとしたら、ボクが1番頑張らないと駄目じゃん――。



 そして、ボクたちは、いろいろな思いを抱いて町を出る。


 いざ旅立とう、北の離島ノースリンクへ!!

お待たせしました。今回はあまりストーリーが進まずにすみません。次回、新たな仲間が加わる予定です(挿絵あり)。お楽しみにしてくださいね!

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