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異世界八険伝  作者: AW
第2章 新たな仲間たち
36/92

36.突然の来訪者

 崖からの転落事故は予定外だったけど、ドライアードとの契約によりレベルアップを果たした?アユナちゃん一行は、難敵を退けながらも、一路北へ北へと進んで行った――。

 北へ向かうほど、魔物は確かに強さを増していった。


「サンドスコルピオン。猛毒の尾のみならず、強靭な外骨格を――」

「ニードルプラント。近づく者に容赦なく毒針を飛ばす凶悪な――」

「スケルトンジェネラル。高い魔法耐性と攻撃技術を有する――」

「ウォータイガー。目にも止まらぬ素早い動きで猛毒の牙を――」

「アユナ・メリエル。妖精種エルフ族。《精霊召喚術/中級》を使える森の放浪者で、特技はウソ泣き――」


「リンネちゃん! 私のこと、勝手に鑑定しないでよっ!」

「だって、“妖精王の加護”ってのが気になって」

「確かに、ドライアードさんそう言ってましたね」


 ボクの鑑定眼から逃れようとするアユナちゃんだけど、馬車の中には隠れる場所なんてない。この際だから、気になっていたことをトコトン突き詰めてやるんだ。


「うん、実は女神様、えっと、守護精霊のニンフからも言われたの」

「女神様からも、ですか?」

「うん。アユナちゃんって“妖精王の加護”を受けてるの?」


 メルちゃんに捕獲されたアユナちゃんが、諦めて白状し始める。


「えっ……記憶にないけど、そうなのかも。だって、勇者リンネ様に選ばれてるし、ママに似てそれなりに可愛いから、妖精王が加護をくださるのは当然で――痛いっ!!」


 その時、ボクの髪が突風に揺られてアユナちゃんの顔を引っ叩いた。


「あ、ごめん! でも、調子に乗った罰が当たったのかもね」

「リンネちゃん、そろそろ髪型変えませんか?」

「あ、お願いしようかな」


 最近はずっと2つ結びだったから、たまには結ばずに伸ばしておきたい気分。気合を入れるときはポニテにするけどね。うん、何事もメリハリが大切だっていうし!



 魔物との遭遇は、その後も果てしないほど続いた。


 メルちゃんが気配を読んだり、魔物自身の動きが遅かったりして避けることができたケースも多い。

 それ以外は、意外と《雷魔法(サンダー)》が有効だったので、何とか上手く牽制しながら馬車を進めることができた。

 牽制とはいっても、ほぼ全力で撃ち込んだ《雷魔法/中級(サンダーストーム)》でやっと足を止めてくれる程度。

 ボクたち3人だけで普通に戦った場合、この量に勝てる可能性はゼロだよね。


 ティミーさん情報だと、これらの魔物は全てモンスターランクはD。フィーネ迷宮のワイバーンと同格ってこと。

 メルちゃんならともかく、ボクも同じDランクだけど、たとえ1対1でも勝てる気が全然しないよ。



 危険だけど、順調で単調な旅を重ねていくと、街道沿いに町が見えてきた。


 チロル程ではないにしても、立派な城壁を持つ比較的大きな町――。

 ラーンスロットさんの説明によると、ここは最北の町ヴェルデらしい。


 日の出と共に出発したので、まだ時間的には昼前だと思う。今朝からいろいろありすぎて疲れたし、小さいながらも冒険者ギルドがあるそうなので、立ち寄ることになった。



「旅の方、ヴェルデへようこそ。すみませんが身分証を見せてください」


 この世界に来て、初めて身分証の提示を求められたよ。


 布袋から身分証代わりの召喚石を出そうとすると、慌てたラーンスロットさんに手をぎゅっと掴まれた。どうやら冒険者カードでいいらしい。


 勘違いして火照ってきた顔を、急ぎ手で扇いで消火する。なぜにおっさん相手に赤くならなきゃいけないのよ。しかも、お尻を掻いた手で触られたのに。これはまさか、お母さんの魂の仕業?


 全身鎧を着込んだ門番っぽい兵士さんが、ボクたちのカードを1枚ずつ何かの装置に当てて確認していく。

 ギルドの装置の簡易版? もしかしたら犯罪歴とかが確認できるのかも。


「はい、お返ししますね。最近、魔人が出たという噂があったんでね、皆さんも気をつけてくださいな」


「「はい!」」


 元気よく返事をするボクたち3人とは対照的に、男性陣は兵士さんと小声で会話を始めた。

 厳しい表情――口の動き的に、例の女神様がいた町のことや、街道沿いにあった亀裂のことを報告している様子。


 あの町が襲われたのは、確か数ヶ月前だったはず。最近、この辺に魔人が出たということは、魔人も北上している? まさか、召喚石が目的?


 今戦いになったとしたら、勝機はあるのだろうか。元Aランクのラーンスロットさんがいるとしても、相手は町を丸ごと滅ぼせる力がある――そう考えていた時、メルちゃんが耳元で囁いてきた。


「敵意を持った気配を感じます。数は4、距離は60m――」


 ボクは気づかれないよう、さり気なく辺りを見回す。


 昼前だからか、行き交う人の数はとても多い。大勢の人の波を見ていると、どうしてもフィーネでの出来事を思い出してしまう。

 勇者は嫌われ者――ボクの正体を知っている人が、町の人々を扇動して襲ってくるかもしれない、そんな疑心暗鬼がボクの心を狂わせる。


 路地にしゃがみこんだ柄の悪い連中、黒のローブを纏った魔法使い風の連中、グレーの外套のフードを被った冒険者風の連中、あちこち目を光らせながら歩く目つきの悪い若者、下心剥き出しにボクたちを見てくるおじさん集団、逆に嫉妬の眼差しを向けてくるおばさん集団、ボクたちのスカートの中を見上げながら歩くイヌ――意識しちゃうと、周囲にいる全員が怪しく思える。メルちゃんが言う4人なんて、特定できないよ。


一先(ひとま)ず冒険者ギルドへ向かって移動しましょう」


 メルちゃんの一声に、ボクたちは世間話をしながら歩き始めた。


 不穏な気配に気づいているのはメルちゃんだけ。他の3人はあくまでも自然体だ。

 深々とフードを被って耳を隠したアユナちゃんは、ラーンスロットさんと仲良くなったみたいで、2人して美味しそうな食べ物の話に夢中。ティミーさんは黙々とギルドの厩舎へと馬車を運び込んでいる。

 大丈夫、これなら違和感はないはず。



 ギルドに到着早々、複数の視線に晒されるボクたち一行――。


 依頼掲示板クエストボード付近にいる黒マントを着た5人パーティ、フロアで談笑する20代前半っぽい男女、カウンターに並ぶローブを着た3人組――少しの沈黙の後、再び喧騒(けんそう)に包まれるギルド内。


 心配しすぎかな――。


 入り口で止まっていたボクは、アユナちゃんに引っ張られて中央カウンターへと向かった。

 


 ここは入口から完全に死角になっていて、もし怪しい奴等が入ってきたら気づけるはず。


「気配はまだギルドの外です、数は5――」

「増えてる? 時間を潰して様子を見ようか」


 メルちゃんと頷き合い、カウンターで自分たちの順番を待つ。


 ただの勇者嫌いか、美少女狙いの誘拐犯か、もしかしたら魔人か――緊張が高まり呼吸が苦しくなる。ローブで何度も手汗を拭う。



「次の方、どうぞ」


 ぼいんぼいんな受付お姉さんの手招きに、鼻の下を伸ばしたラーンスロットさんが吸い寄せられていく。

 隣にはご機嫌なアユナちゃん。ボクとメルちゃんは周囲を警戒しながら2人の後ろにつく。


「買い取りお願いします! あとね――」


 そんな事情をつゆ知らず、緊張感を微塵(みじん)も感じさせない小学生が、元気一杯に受付のお姉さんに絡んでいく。


 ギルドに来た目的は大きく3つある。


 1つ目は、アユナちゃんが今言った素材の買い取り。目下のところ、ボクたちの所持金は0リル。装備強化もままならない悲惨な状況というやつ。

 勿論、クエストをこなせばお金は入るけど、そうものんびりしていられない。魔人は待ってはくれないんだから。

 ということで、さっさと布袋から黒いふさふさを取り出すアユナちゃん。

 そう、これはドワーフさんの頭髪――ではなくて、巨木の根元に群生していた薬草。一応、ドライアードの許可も頂いて採取しているので問題はないと思う。


 目的の2つ目は、情報を得ること。ギルドマスターのゴドルフィンさんから、ボクたち宛に送られてくる情報――召喚石や魔族・魔人に関する情報だ。

 各ギルドには特別な端末が置かれていて、簡単な通信機能や閲覧機能が利用できるのだそうだ。


 そして最後、これが最も肝心なんだけど、食事。一応、片道分の保存食は買いためてある。

 でも、ギルドでの食事や宿屋代が無料という冒険者特権は最大限に利用しないとね。毎日お堅い石パンと夜営じゃ、心身共に病んじゃうよ。


「では、冒険者カードをお預かりしますね」


 ボクたちはそれぞれのカードを手渡す。


 カードがギルド端末の台座に置かれると、ボクの前には石板のようなものが現れた。

 ラーンスロットさんも同じように情報収集を始めたようで、ボクは見様見真似で端末を操作する。


 着信が――“1件”


 びっくり!

 ミルフェちゃんからの伝言だ!


 早速メールを開封してみる。


『リンネちゃんへ。ノースリンク行きの件は聞いたよ。北は魔物強いから要注意! 私たちフリージア王国使節団は王都を出たよ! 後10日で西の国境に着くらしい。安全で暇だけど頑張るよ! 連絡ちょうだいね!』


 この通信機能、正式名称は魔導通信(Mメール)と呼ぶらしい。僅か100文字までのショートメールだけど、全ギルドをリアルタイムに繋ぐ優れモノだ。

 しかも、《念話魔法》が応用されているらしく、文字が読めないボクでも意思疎通ができるという神機能!


 メールの内容――ミルフェちゃんが西の王国へ向かうと言っていたので心配してたけど、安全だと聞いてホッとした!

 !が多い理由は、彼女の性格が半分――残り半分は、ボクを励ますための気遣いかな。そういうところは、さすがにミルフェちゃんだね。


 よし、返信するぞ!


『ミルフェちゃんへ。魔人にはくれぐれも気をつけてね! ボクは青の召喚者メルちゃん、エルフ村のアユナちゃんと竜神の角を目指してる。女神様やドライアードに会ったんだよ! 8日後にはチロルに戻る予定! また連絡しま』


 って、もう100文字!?

 あと1文字でぴったりだったのに、まぁいっか。


 送信ボタンを押し、ふっとため息をついて石板を消すと、ルーペのような物を使って真剣に黒い毛を眺めるお姉さんが見えた。


「確かにサンジバニーですね。28000リルになります」


『『おおおぉ!』』


 周囲でどよめきが上がる。


 似たような名前の薬草がヒマラヤかどこかに生えてるって聞いたことあるけど、そういう系? それとも、バニー姿の某海賊?


 それにしても、28000リルってことは2800万円だよ? エリクサーよりも高価な何かが作れるのかな? でも、今は売るしかないね。


「あ、ありがとうございます」


 ボクはそそくさとお金を受け取って生きる金庫、メルちゃんに預ける。彼女に持たせておくのが一番安心できるから。


「希少素材の納品は特別昇格事由に該当しますので、アユナさんのギルドランクがDに上がります。メルさんとリンネさんは、Cランクへの昇格試験が受けられます。頑張ってください」


『『おおおぉ!!』』


 再び起こるどよめき――こんな子ども3人がCだDだなんて聞けば、冒険者ランクだと知らない人は、胸のサイズだと勘違いして大騒ぎするよね。


 昇格試験どうしよう。そういえば、ランゲイル隊長は無事にミルフェちゃんを王都に送ってBランクに上がったのかな。


「ボクはまだ昇格試験を受けなくて大丈夫です」


 今はランクよりも召喚石だ。まぁ、北の大迷宮を攻略すればマスターが上げてくれるでしょ。


「私もいいです」


 メルちゃんが恥ずかしそうに俯いて首を左右に振ると、水色の髪がさざ波のように左右に揺れる。ボクがマスターなら可愛いから余裕で昇格させちゃう。


 アユナちゃんは、ボクたちに追いついたのが余程嬉しいのか、ガッツポーズを連発している。エルフっ娘も可愛い。


「わかりました、いつでもお申し込み下さい」


 ボクたちは、残念そうに微笑む受付のお姉さんに手を振って別れ、食事を済ませた後、ギルド内に併設されている売り場コーナーへと向かう。


 お金を計画的に使うためには、有能メイドメルちゃん先生のアドバイスは必要不可欠かつ絶対服従だ。


 先生の提案で、護衛さんたちに各2000リルの臨時ボーナスが支給され、食料も2日分ほど買い足しておく。

 ついでに3人分の下着も購入した。北部の寒い地域だからか、意外と種類が充実していて、上の下着も買うことができた。約2名にはちょっと早かったけどね――。


 そして、肝心な装備強化!


《グリフォンメイス。グリフォンの牙や爪を加工した魔法武器で、パワーを十分に生かせる鈍器系統。魔力を注ぐと《風魔法/中級(ウインドカッター)》を放てる》


 結局、メルちゃん用の主武器としてこれを14700リルで購入し、残金が7000リル(700万円)となったところで、お買い物タイムは終了。


 これで攻撃のバリエーションが増えるよね。

 ボクが物理と雷と水属性、アユナちゃんが光と風と木属性、そしてメルちゃんも物理と風属性!



 ティミーさんと合流して5人チームに戻ったボクたち一行は、ギルド内の片隅に移動して情報共有と今後の予定を話し合う。


 まず、馬車の修繕と馬の休息の必要から、出発は2時間後の昼下がりと決まった。

 ちょっと急だけど、目的地ノースリンクへ夜までに到着するためには、ここで長々と休んではいられない。


 この先にある竜神の角だけど、周囲には結界があり、魔物は出ないそうなので安心した。

 物騒な名前だけど、東京湾アクアラインみたいな、ただの交通設備だそうだ。しかも“勇者様御一行”ということで無料にしてもらえた!

 ちなみに、片道1人5000リルなんて、最初から払える金額じゃなかったけど――。


 護衛さんたちとはここで一旦別行動を取り、出発前にギルドの厩舎(きゅうしゃ)前で落ち合う予定だ。これから起きそうなドタバタ劇に巻き込んじゃ申し訳ないからね。


 メルちゃん曰く、ボクたちがギルドで2時間ほどちょろちょろしている間、ずっと怪しい気配はギルドの外で現れては消え、消えては現れるという感じだったらしい――。


 ギルドの外で待ち受けるのが何者であれ、ラーンスロットさんたちに迷惑を掛けないためには、ボクたちだけで対処するしかない。


 相変わらずハイテンションなアユナちゃんを連れ、ボクたちがギルドを出た瞬間――。


「俺は西の勇者、レオンだ。付いて来い!」


「「えっ!?」」

お読み頂きありがとうございます。

突然ですが、皆さんのパワーを少しずつ分けてください!


※パワーの大きい順

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