27.思いがけない再会
チロルへ向かう途中、魔物と盗賊に襲われた村を見つけた一行。瀕死の女性から、娘シオンの救出を依頼されたリンネたちは、一路盗賊のアジトへと向かう。二重三重に包囲されてピンチを迎えたとき、リーダーのリュークが現れ――。
「――ッ!」
「リンネちゃん! 良かった――」
「んんっ!?」
顔を起こすと、ボクを膝枕して顔を覗き込むメルちゃんが見えた。
彼女に話し掛けようにも、頑丈に結ばれた猿轡のせいで声にすらならない。
痛む頭を擦ろうにも、後ろ手に結ばれた鎖が手首に食い込んで苦痛を増幅させるだけだった――。
メルちゃんも、ボクと同じように手足を鎖で繋がれ身動きができずにいるが、猿轡は嵌められていない様子。
現状を把握しようと辺りを見渡すと、上下に走る何本もの鉄杭が、洞窟の岩をくり抜いて作った空洞を囲うようにして並んでいるのが見える。
これじゃまるで檻の中――あぁ、ボクたちは捕まってしまったのか。
壁伝いに何とか起き上がって、檻の外を見る。
洞窟の奥には少し開けた空間があった。
薄暗い中、魔法か何かの朧げな光が不気味に照らし出すのは、数人の男たち。
背の高い男、岩壁に寄り掛かる若い男――その2人を囲うように、大勢の盗賊たちが祝杯を上げて馬鹿騒ぎをしているみたい。
あの2人は――。
『クリュー、お手柄だな! まさかあんな上玉を2人捕まえるとは。お前ぇは今日から副頭目だ。わっはっは!』
『馬鹿ばっかりだったから余裕でしたァ! はははッ!』
『お頭、女は高く売れるとして、この若い男はどうしやす? Eランク冒険者だとか言ってやしたぜ』
『興味ねぇなぁ。十分にいたぶって殺しとけ』
『俺は大好物だぜ。生意気な若造が泣きながら命乞いする姿!』
『恐怖で歪んだ顔もウケるぜ?』
『いやいや、失禁して赤面する姿が1番だろ』
『自分の糞を食わして“僕は幸せです”って言わせてやれ』
『そりゃ酷ェ!』
『わっはっは!』
クリュー? あ、リューク? あの長身の男はリュークだ! 間違いない!
まさか――こんなこと、こんな裏切りをするなんて……護衛リーダーなのに……。
『アレクちゃん、お漏らしまだァ? どんな場合でもリーダーの指示には従うんだぞォ? くっくっく、面白ェ顔!』
「貴様! 絶対にグスタフさんが助けに来る! そしたら盗賊なんか――グハッ!!」
『口の減らねェガキだなァ! 舌ァ抜くぞォこらァ!』
『クリュー、あの村に残っている護衛はグスタフとかいう手練れだけか? 酔いが覚めたら殺りにいくか』
『お頭ァ、奴からは得体の知れねェ力を感じます。この糞男を人質にしておいて損はねェかと』
『いくら強かろうと、俺様の能力があれば余裕だろ?』
『お頭の力を疑っちゃいねェです。ただの保険ですよォ』
『さすが常勝のクリュー! お頭、俺も人質がいた方が確実だと思うぜ』
『こんなガキ、いつでも殺せますし、楽しみは残しておきましょう』
『わかったわかった、そのEランクのガキは、殺さず縛り付けとけ』
まずいまずいまずい!
ボクたちは捕まった! 仲間に裏切られた! あの熊みたいな茶髪の髭もじゃが盗賊団の頭だよね? そして――リュークが、盗賊団のクリュー! 信じてたのに、信じていたのに、裏切られた!!
悔しい悔しい悔しい!
「リンネちゃん、落ち着いて聴いて。まず、この鉄の檻は堅くて――私の力では無理でした。鍵はあっちの椅子に掛けてあります。盗賊は全部で25人、リュークさん含めると26人です。あと、壁の向こうにも檻があって、子どもが4人捕まっているみたいです」
肩越しから聞こえたメルちゃんの優しい声で、ボクは冷静さを取り戻す。
「動かないでくださいね、今解きますから」
メルちゃんの顔がボクに急接近する――少しドキッとしてしまった。こんな時に何を考えてるんだか。猿轡を口で噛んで外してくれただけなのに。
「ふぅ……ありがと、少し落ち着いてきたよ。良かった、シオンという子もその中にいるかもね。えっと、まずは――」
《簡易開錠》
メルちゃんとボクを拘束していた鍵付きの手枷が、カチンという音を立てて地面に落ちる。こんな形でこの魔法を使うとは思わなかったよ。
2人して腕をぐるぐると回し、怪我してないかを確認する。うん、大丈夫そうだ。
「アレクさんは動けそう?」
「アレクさん、両手と両足に枷が付けられています。しかも骨が――」
「そっか――」
壁に大の字に寄りかかっている彼をよく見ると、脚の骨が変な方向に曲がっている。逃げられないように、いや、遊び感覚でいたぶったに違いない。そう思うと、沸々と怒りが湧き起こってきた。
(コンコン、コンコンコン、コンコン――)
その時、壁を叩く音が聞こえてきた。
音のする方をよく見ると、壁の一部に僅かに掘られた箇所がある。
近づいてみると、1円玉くらいの小さな穴が開けられていて、その先はもう1つの檻と繋がっているようだ。
恐る恐る覗き込むと、綺麗な翠色の瞳とぶつかった。
そこから、必死な叫びが跳び込んできた――。
「やっぱり! リンネちゃんだ!!」
聞き覚えのある、あの懐かしい声。
この声は――エリ村で別れたアユナちゃん?
「えっ? どうしてアユナちゃんが居るの!?」
「リンネちゃんを追い掛けて村を出たの! そしたら盗賊に騙されて捕まっちゃった――」
「何で! 何で村を出たのよ! 魔物だって出るのに! それに、お父さんお母さんが心配するでしょ!!」
「ちゃんと許可を貰ったもん! それに、エリザベート様が追い掛けなさいって。それでね、リザ姉から、フィーネに行けばリンネちゃんに会えるって聞いて、行商の馬車に――」
「んー、話は後で聞くから! 今はここから出ることを考えるよ!」
まさか、エリ村で別れたアユナちゃんとこんな所で再会――いや、2人して盗賊に捕まるとは思わなかったよ!
後でたっぷりお説教をして村に帰さないと。
でも、あの襲撃された村に寄らなかったら、あの女性に会わなかったら、ボクはきっとここには来なかった。
アユナちゃんを失うところだった。そう考えると、ボクをここに導いてくれた全てに感謝したい気持ちが溢れてきて、思わず泣き出してしまった――。
その後、穴を通じて話し合った結果、ボクたちは“アユナ(大)作戦”を実行することに決めた。
本当は、ボクの魔法で脱獄して盗賊たちをやっつける方が手っ取り早くて確実なんだけど、小学生的な発想に萌えを感じてしまった。
別に幼稚なアユナちゃんを馬鹿にしたいわけじゃなく、ただ単純に面白そうって理由だけでの採用。まぁ、再会祝いって感じかな。
メルちゃんも賛成してくれているし、成功するとは思っていないけど――うん、頑張ってもらおう!
「偉大なる森の守護者よ! 古き盟約に従い、私は希う。大地よりいでよ、汝、トレント!!」
リザさんの召喚魔法とはちょっと違う。
牢の外の地面に魔法陣らしき光が刻まれると、しばらくして地面を縦揺れが襲う!
震度2程度の揺れだったけど、祝杯に酔い痴れる盗賊たちを混乱させるには十分だった。
『何だ?』
『地震か?』
『生き埋めになるぞ! 早く逃げろ!』
杯を放り投げ、我先にと逃げだす盗賊たち――。
案の定、子どもたちを助けようなんて声は、どこからも上がらない。
そして――もぬけの殻となった洞窟の中心からは、ニョキニョキと子犬サイズの可愛いトレントが現れた。
それと同時に、振動も次第に収まっていく。
「トレンちゃん! あっちの椅子から鍵を取ってきて! そう、それ! その束を、リンネちゃんに!」
状況を理解しているのかしていないのか、鍵が置かれている椅子へと根をくねらせながらまっすぐ歩み寄るトレント。試行錯誤の末、どうにか鍵の束を枝に引っ掛けると、今度はボクの方へと向かってきた。
「小さい……あ、ありがとう、鍵、受け取ったよ!」
細い枝に絡めて鍵の束を差し出してくるトレントのトレンちゃんに、思わず封印されし心の声を漏らしてしまう。
トレントの釣り目っぽい切れ込みから視線を外し、檻の鍵を開ける。
「開いた!」
「やったぁ! リンネちゃん、早く――」
「待って! 盗賊が戻ってきた!」
メルちゃんが気配を察知し、檻から出ようとしたボクを押し留めようとする。盗賊が戻ってくる前に、アユナちゃんたちが居る方の鍵も開けたかったんだけど仕方がない。
「トレンちゃん、お願い!」
ここからは、アユナ(大)作戦の第2段階だ。
通路を塞ぐようにトレントが仁王立ちする。
といっても、広げられた枝は1mにも満たないので、本人は頑張って塞いでいるつもりでも、幅3mの通路は全く塞がってはいないんだけど――。
『何だコイツ?』
『魔物か?』
『凄ェ弱そうだぞ?』
戻ってきた盗賊は10人くらい。
彼らは物珍しそうにトレントを囲んで――えっ、踊りだした!?
『ワッサッサーワッサッサー』
『ワッサワッサワッサッサー』
男たちは、まるで陽光を一身に浴びる大輪の花を体現するかのように、両手を真上に伸ばして掌をひらひらさせている。
上半身はそのままに、時計回りに円を描きつつ蟹股歩行を始めた――。
「凄い光景だね」
「はい。これも妖精の魔法でしょうか――」
半分以上信じていなかったけど、作戦は今のところ予定通り。恐らく牢獄の中で一緒に踊っているであろうアユナちゃんのドヤ顔が思い浮かぶくらいに完璧だ。
でも、順調なのはここまでだった――。
『お前ら何をしていやがるッ!』
髭もじゃを先頭に、リュークたちが戻ってきた!
『お頭? 俺たちは――』
『俺、何で踊ってたんだ?』
『まだ酔っぱらってんのか?』
『おい、何だァそのちっこいのはァ?』
『そう、いきなりこいつが出てきやがったんです!』
『魅了、いや《催眠魔法》か――』
ヤバい、もうネタバレしちゃった!
メルちゃんと目配せして、作戦Bへの移行を確認する。
ボクがやるしかない!
目を瞑って集中する――。
洞窟の天井はそう高くはない。4、いや3mといったところか。その中央付近、天井ギリギリの所に意識を向かわせる。
そして、魔力練り上げていく。
イメージするのは、ダークバットの群れを撃退した《雷魔法/中級》。鉛筆くらいの雷の矢を、天井から大量に打ち下ろす!
掌に集まった魔力が、天井付近に光る球体を生み出し、準備が整う。
「轟け、無数の矢! 《雷魔法/中級》!」
そして、ボクの掛け声と共にそれが大きく弾け飛ぶ!
『ガガガガ!?』
『タァスゥゥケェェェテェェェェ!』
『痺れルルルルルゥゥゥ――』
アレクさんとトレンちゃんに当たらないよう、紡錘状に降り注ぐように放った光の矢は、合計で約200本。今はこれが限界らしい。
盗賊たちの何人かは地に倒れて痙攣を起こし、他の何人かは起き上がって逃げ惑う――。
洞窟内を駆け抜けた雷撃の嵐が去ると、鼻を覆いたくなるような焦げ臭い異臭が辺り一面に漂った。
あれ?
身体に力が入らない――。
激しい頭痛と眩暈に襲われる。
女の子座りの格好でへなへなとしゃがみ込んだボクを、メルちゃんがぎゅっと支えて庇ってくれた。
柔らかい――。
『あのガキの魔法だ!』
『黙らせろ!』
『『がってん承知!』』
ボクの前には奮闘するメルちゃんがいる。
斬り掛かる刃を躱して手首に強烈な拳を叩きつけたかと思うと、懐に飛び込んで股間を蹴り上げたり、腕を掴んで投げ飛ばしたり――あっという間に気絶者の山ができ、戦意喪失者の川が後方へと流れていく。
『小娘相手に情けねぇ! おいクリュー、始末しろ!』
髭もじゃの背後に控えていた長身の男が1歩前に進み出る。
手に持つのは身長よりも遥かに長い漆黒の槍。
その柄がボクたちの方に向けて伸ばされ――ドスッ!!
突き、いや思いっきり手前に引かれたかと思うと、後ろで呻き声を漏らしながら大きな物体が地面に倒れた。
『裏切るのか――クリュー』
「クリュー? 俺はリュークだ!」
『がはっ!!』
腹部を貫通させられて地に伏す髭もじゃの顎に、強烈な蹴りが炸裂した――。
★☆★
リーダーを除くボクたちは全員、馬車まで戻ってきている。
「俺はあいつを信じちゃいないからな!」
「だがよぉ、その命令書というか、ギルドからの依頼書を直に見たんだろ?」
「確かにそうだけど……百歩譲ってそれが本物だとしても、俺の両脚を折る意味はあるのか?」
衝動的にメロスさんを蹴飛ばした後、思いっきり痛がるアレクさん。
「ギルドマスターの署名は間違いないと思います」
メルちゃんが正しいと言い切っているんだから、一連の出来事には納得はしていないけど、依頼書についてだけはボクも本物だと思う。
ボクたちは結局、捕まっていた4人――アユナちゃん、シオンって女の子と、他に小さな男の子2人を助け出すことに成功したんだ。
怪我も病気もなく、変な悪戯もされていないみたいだけど、酷く衰弱している様子で、全員が馬車の中で寝入っている。
メルちゃんに背負われて下山したアレクさんが一番元気なのは間違いない。
盗賊の頭目を倒した後、リュークがボクたちに説明した事情はこうだ。
ギルドから出されたAランク任務――人身売買を生業とする盗賊団の殲滅と、奴隷商人メロスの捕縛。そのため、長期間を掛けて盗賊団に潜入し、今回作戦行動に出たとのこと。
ボクたちの実力を認めたからこそ実行に移したって言っていたけど、本当にそうだろうか。
「なんで、事前に相談も何もない!」
アレクさんの言う通り、潜入の件もメロスさんの件も、リュークからは全く知らされていなかった――。
「こいつにバレたくなかったんじゃねーのか?」
さっきまで雇用主扱いだったメロスさんを小突きながらグスタフさんが語り出す。
「それに、騙すなら味方からって言うしな」
「兄貴はすぐ騙されるんだから黙っててくれよ! この間だって女に――」
「だぁーっ! 今は言うな!」
2人の漫才に付き合っている暇はないんだけど。
「事前に連絡していた王国騎士団が洞窟に向かっているってリュークさん言っていたよね。戻って確認してみない?」
真実を確認したかったのはボクなんだけどね。
「俺は行きたいが行けない」
「俺はこの馬鹿も含めて馬車を見張るぜ。女の子2人に行かせるのは本意じゃねぇが、実力的には問題なさそうだしな――」
「わかりました、私たちが確認してきます」
そうなるよねー。
既に日が傾き始めているけど、ボクとメルちゃんなら日が暮れる前に戻って来れるはず。
「行ってきます!」
「気をつけてな! 確認したらすぐに戻ってこいよ? 絶対に無理はするなよ!」
「わかっています」
アユナちゃんたちが心配だったけど、この場はグスタフさんに任せてボクたちは再び山麓へと向かう。
洞窟の入り口に見張りは居なかった。
恐る恐る中へと入ると、奥からは談笑する声が聞こえてきた。
(変です。3人しかいません――)
(もう騎士団の人が連れ去ったってこと?)
(どうでしょう。それなら良いのですが)
(この人たちに訊いてみようか)
(それが早いですね)
「こんにちは。リュークさんいますか?」
『なっ! 雷女と暴力女!!』
笑顔で挨拶したのに酷い言われようなんだけど。
「もう1度だけ訊くね。リュークさんはどこでしょうか?」
言葉は丁寧だけど、右の掌を向けて脅しながら詰問する。メルちゃんも拳を振り上げていつでも殴りかかれる格好だった。
『俺は知らねぇ! 聞いてねえんだ』
『俺たちは、さっき外から戻ってきたばかりで――』
「さっき戻ってきたのに、ボクたちのことよく知ってるよね」
『あっ! それは、えっと、頭目から聞かされて――』
『ば、馬鹿野郎!』
「一緒に居たんじゃん! その頭目がどこに行ったのかを訊いてるの!」
『そ、それは知らねぇよ』
『知ってても言うわけねーだろ!』
「リンネちゃん、2つとも潰してしまっていいですか?」
『『ひぃっ!!』』
メルちゃんの脅しは強烈だった――。
結局、拷問みたいになっちゃったけど、全てを話させたうえ、奪われていたボクの武器や盗まれた財宝など、回収できる物を回収して下山した。
3人とも、改心して村に戻る決意をしたみたい。泣きながら命乞いする姿には嘘偽りを感じなかった。
日が半分くらい西の山に差し掛かる頃、ボクたちは馬車のある街道に下りてきた。
「リンネちゃん、戦ってる!」
メルちゃんの言う通り、馬車の周辺からは金属がぶつかり合う音がひっきりなしに聞こえている。
「急ぐよ!」
「はい!」
疲労で重くなった身体に鞭打ち、馬車まで全速力で駆ける!
走るのが早いメルちゃんが一足先に混戦に乱入して、ボクが使っていた棒を縦横無尽に振り回し始める――でも、何だか様子が変だ。
「身体が……重い……リンネ……ちゃん、こっち……来ちゃ……ダメ!」
必死な形相で絞り出した声。
見るからに緩慢な動作で、辛うじて攻撃を捌き続けるメルちゃん。これ、髭もじゃの魔法か!
『あぁ、もう来やがったか! 糞ッ、リューク! あの雷女は任せたぞ!』
『あいよォ! リンネェ、俺はァ、お前に腹が立ってるんだァ、たっぷり仕置きしてやるぜェ!』
盗賊から聞いた報告では、リュークは態と頭目を刺したそうだ。それも緊急時の打ち合わせ通りらしい。あの本物のギルド依頼書を使って護衛を信じ込ませ、幾度となく冒険者を殺してきた。
今回も、ボクとメルちゃんが洞窟に戻ってくるよう言動で仕向けていたそうで、その隙を突いて馬車を襲う予定だったらしい。まんまと引っ掛かった自分が情けない。
2重スパイ、2重3重に張り巡らされた罠――この用意周到さこそが、リュークの恐ろしいところだと彼らは言っていた。
「リューク! ボクもお前を絶対に許さないから!」
急接近する長身リュークとその漆黒の槍――。
《時間停止》を使って無力化するか、それとも《雷魔法/下級》で戦闘不能に追い込むか。
一瞬の葛藤が、リュークの疾風の突きを許してしまう。
「クロノ――」
『遅い!!』
気合いと共に、お腹に向けてぐっと伸びてくる槍先!
躱しきれない!?
そう思ったとき、ボクの視界が青く弾けた!
ガチンッ!!
槍を弾くと同時に砕け散る《青い壁》――メルちゃんが守ってくれた!
「メルちゃん、ありがとう!!」
20m先で必死に戦っていたメルちゃんが、一瞬だけ振り向いて笑顔を見せてくれる。
ボクも負けられない!
「ビリビリしちゃえっ! 《雷魔法/下級》!!」
一瞬で魔力を練ると、人差し指に集めて電撃を放つ!
バチンッ!
「えっ?」
『危ねェなァ!』
槍を地面に突き刺し、避雷針にした?
この人、強い!
もう、手加減はできない!
「終わった後で後悔するんだね! 《時間停止》!!」
22秒――後先考えず、リュークを無力化する!
武器を奪い、申し訳ない気持ちを押し殺して両足のアキレス腱を切断する。停止した時間のお陰で出血も悲鳴もない。
普通ならこれで十分だけど、相手はCランク冒険者だ。魔力がボクを上回っている可能性は十分にある。念のため、槍を反対向きに持ち替え、思いっきり両腕に振り下ろす。
そして、残った時間を使い、彼の装備を丸裸にしていく――。
『くたば、痛ェ! なんだこりャァ!?』
本人は槍を地面から引き抜いて一閃する予定だったのか、豪快に横向きに転がり、うつ伏せ状態で丸まった後、苦痛を上げながらもがき始めた。しかも半裸状態で。
お陰で汚いモノが見れなくて助かったけど――。
「そこでたっぷりと反省しててね! メルちゃん、今行くよ!!」
リュークを放置し、馬車の方へと駆けつけると、決着は既についていた――。
ふらふらの状態で立ち尽くすメルちゃん、地面に白目を剥いてひっくり返る頭目。
「リンネちゃん、ごめんなさい――」
倒れるメルちゃんを抱きかかえる。
頭には白く光る可愛い角が生えている。あぁ、《鬼神降臨》を使ったんだね。
その後、ギルドで買ってきたポーションが大活躍し、アレクさんとグスタフさんの大怪我はある程度回復した。
そして、メルちゃんを休ませている間、メロスさんを脅して改めて今回の一部始終を暴露させた。
彼が白状したところによると、フィーネからこの村、そして盗賊のアジトでの一連の出来事は、全てがリュークとメロスの描いたシナリオだったらしい。結末以外だけどね!
彼はギルドの依頼書の通り、偽名を騙って奴隷や禁輸品売買で暗躍していたようだ。案の定、アユナちゃんを乗せたのもメロスだった。
メロスが雇った手練れの護衛は、リュークが密かに盗賊団と連絡を取り合い、アジトで罠に嵌めて殺し、武器防具を盗んでいたらしい。彼らの証拠隠滅は手慣れたものだった。昨夜の怪しい行動、あれは彼だったのか。
結局のところ、こんなに大勢は連れていけないということで、メロスと頭目、リュークのみを捕縛し、それ以外の全員を解放することにした。
裸で走り去る盗賊全員の背中には“私は盗賊です”と大きく書かれている。
勿論、発案は大賢者ボクだけど――今後の彼らの運命、それは語られることのない別の物語。
遅く、長くなりました。すみません。ブックマークが7件に増えていました。感謝です!
次回、可愛い挿絵がつきますのでお楽しみに!!




