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異世界八険伝  作者: AW
第1章 旅立ちは風のように
19/92

19.フィーネ迷宮第二階層

 フィーネ迷宮一階を進んだボクとミルフェちゃん、ついでにランゲイル隊長は、その最奥でフロアボスのチャイルドドラゴンと戦った。苦戦の末、何とか撃破に成功?し、《魔法合成》のカードを入手する。そして、二階への階段を上っていく――。

 この感覚は身に覚えがある。

 確か、黒ウサギに貰った魔力の実を食べたとき同じ感覚。お腹の中に湧き立つ、燃え(たぎ)るような力――そう、魔力が上がったんだ。


 しかし、ボクの心には喜びはなかった。

 命を奪うことで魔力を上げるというこの世界のルール――その(くびき)から逃れることができなかったのだから。

 ボクは改めて手の中にあるカードを見つめ直す。これがあの子の魂だと考えると、こんなにも薄いのに、こんなにも小さいのに、途轍(とてつ)もなく重く感じられた。


「このカード、《魔法合成》って書いてあるんだけど」

「合成? 聞いたことないわね」

「俺もだ」


「あれ? もしかして凄く珍しい?」

「4つの迷宮を攻略した俺でも、あんな強ぇチャイルドドラゴンは初めてだったし――」

「そんなドラゴンの宝物だものね、珍しいのもわかるわ」


 あのドラゴン、Cランク冒険者のランゲイルさんが正攻法で勝てないくらいに強かったんだ。

 昔、動物は背中に乗られると屈服するって何かの本で読んだことがあった。だから、ボクは最初からそれだけを考えて、武器も持たずに戦った。

 ううん、戦ったわけじゃないけど、もし普通に戦ったらダメージすら与えられなかっただろうね。


「合成ってことは、炎と風を合わせたり?」

「剣術と槍術の複合技とかもできそうだな」

「詳しく調べる必要がありそうね」

「うん。ギルドに戻ったら鑑定してもらうね」

「それがいいわね。って、見て! 階段が――」


 半透明だった階段が、虹色に煌めきを放ちながら、まるで天国へと続く階段みたいに、緩やかな螺旋を描いて伸びていく。


「こんな階段、見たことねぇな」

「やっぱり――この迷宮は特別なのかもしれない」

「特別?」

「えぇ。フリージア王国が信仰する聖神教は勇者様を崇拝してるって言ったっけ? まぁ、それでね、私たちは勇者様にまつわる数々の伝承を集めているんだけど、勇者様が入ったとされる迷宮には必ずある物が存在する。何だと思う?」

「光る階段?」

「ううん」

「召喚石か?」

「惜しい」

「ドラゴン?」

「惜しい、近づいたかも」

「まさか、俺?」

「バカ。かなり遠ざかっちゃった」

「わかんないよ。何?」

「俺もギブアップだ」

「それはね――竜の祭壇よ」


 たっぷりと勿体ぶりながら話しだすミルフェちゃん。


「迷宮の最奥には必ず竜を象った祭壇があるらしいの。勇者様とドラゴンがどのような関係なのか、勇者様が祭壇で何をしているのか、まだまだわからないことだらけだけど、このフィーネ迷宮に強いドラゴンがいたってことは、やっぱりここは勇者様に関係する特別な迷宮なのかもしれない」


 あのドラゴンとの別れを思い出す。

 最後に感じた抱き締められたときの温かさ、そしてあの優しい瞳――ボクが勇者かどうかは一先(ひとま)ず置いておくとして、ドラゴンは敵じゃないと思いたい。

 ならば、本当は戦わないことが正解なのかもしれない。言葉が通じるかはわからないけど、2階層のボスが再びドラゴンだとしたら、試してみる価値はありそうだね。


「よし、階段が消える前に2階に上がるぞ」

「えっ? 消えちゃうの?」

「そりゃ、消えるだろ。迷宮の鉄則だ」


 フロアボスは倒されても時間経過と共に再出現(リポップ)するというのが、迷宮での鉄則らしい。ゲーム的には次のプレーヤーが楽しめるようにって説明が可能だけど、この世界ではどうなの?

 例の腐った邪神がゲーム感覚で創った世界だとしたら、そんな鉄則もあり得なくもない。でも、ボクにはあのチャイルドドラゴンが再び現れるとは思えなかった――。


「急げ!」

「「はい!」」


 ランゲイル隊長を先頭に、ボクたち3人は虹色の階段を駆け上がった――。




 ★☆★




 階段を昇り終えた先には、広大な草原と、なんと、山が(そび)えていた。


「山?」

「もしかして迷宮の外に出ちゃった?」

「いや、ここはまだ迷宮の中だ」


「凄く高そうに見えるけど、本当に迷宮の中?」

「山頂に雪が積もってるね。まさか、壁に描かれた絵だったり?」

「別に珍しくねぇよ。次元魔法とか空間魔法とか言われてる奴だ。迷宮にはフロア一面が海ってのもある。海底洞窟に進まないと攻略できないらしいな」


「何よそれ! 私、泳げないわよ?」

「そんな時は、潜水艦ノーチラス号の出番ですね」

「あぁ? パンチラスってのはわからねぇが、かつての大魔法使いは、海を真っ二つに割ったり、業火で全ての海水を干上がらせたらしいな。あくまで噂だがな」


「そんな魔法、あり得ないわ」

「伝説というより、もうアニメの世界だね」

「まぁ、噂なんてほとんどが嘘っぱちだ。ヒレが何枚も付いてくる。最近、巷での噂知ってるか? 赤髮のゴブリンキングがフィーネの町で美少女2人を連れ回してるとか。アホかよ!」


「「半分以上ホントだよね」」

「なんだと! お前ら喰ってやろうか?」

「それより、道がないんだけど、どっちに行けばいいのかしら」


 確かに。

 高く昇った太陽の下には雪を冠する山が聳え、それ以外の方角には見渡す限りの大草原が広がっている。

 涼しい風がふわっと、麦のような穂を優しく撫でつけていく。

 まるでモンゴル高原みたいに雄大で長閑(のどか)な大草原に、目も心も奪われる。それもそのはず、ここの植物群はまだ魔物化していないようだし。


「山を目指す。ほれ、あれを見てみろ」

「あの黒いの?」

「ん? ハエ? ハチ?」

「違う! もっと上! もっと遠く! そう、その黒い鳥!」


 ミルフェちゃんがボクの顔を掴み、上下左右に操縦した結果、やっとミルフェちゃんが指し示す先に目の焦点を合わせることができた。


「いや、鳥じゃねぇ。ありゃ、ワイバーンだな」

「えっ? ワイバーンってことは――」

「ドラゴン、つまりフロアボスね」


 山の裾野を包み込む草原地帯は、まだ一キロ以上も続いている。


 途中、食事をしたり、(まば)らに生えている樹木の陰でお花積みをしたりと、ある意味ピクニックのような感じで進んだ。だって、魔物が1匹もいないんですもん!

 時間は多分夕方くらい。朝から歩きっぱなしで徐々に疲れが出てきているので、ちょうど良い休憩にもなっている。



 その平穏も、山の裾野辺りまで来たとき、一変する。


 足元を飾っていた心地よい草花たちは無骨な岩石砂漠に変わり、澄み切った青空は真綿のような雲に侵されている。


 不安を胸に坂路を歩くボクたちの足元を、突如黒い影が覆い尽くす。


 頭上を見上げたボクは思わず息を呑んだ。

 翼を広げたワイバーンの巨体に――。


「ちょっと! こんなに大きいなんて聞いてないわよ!」

「うん、いくら何でも大き過ぎでしょ」

「俺のはそんなに大きくは――いや、真面目な話、Dランクとは思えねぇな」


 ツンツン頭にとっても、下ネタを自重するほどの事態らしい。


「ワイバーンって、アニメではブレスを吐いたり吐かなかったりだけど、この世界ではどっち?」

「ワカメは吐かねぇが――ワイバーンはブレスを吐くぜ。風邪で喉が痛けりゃ吐かないだろうがな」


「痛っ! お腹痛い! 私、今日セイリだった」

「そりゃ大変だ! いててっ! 俺もセイリがうつっちまった!」

「2人とも待って。話を聴いて」


 ボクは逃げ腰の2人に、前向きな仮説を披露して足を止めさせる。

 まず、ドラゴンは魔物とは違う存在だということ。勿論勇者の敵か味方かまでは断言できないけど。

 そしてもう1つは、ドラゴンはボクたちの命を奪おうとはしないこと。チャイルドドラゴンは、ランゲイルさんやミルフェちゃんを(いた)めつけはしたけど、無闇に命を奪おうとはしなかったし。


「そう言われればそうだけど――」

(にわ)かには信じられんが、可能性はあるな」

「うん。ドラゴン必勝法も分かったし!」


 首の下、喉元にあるスベスベした鱗を押す。ちょうど剣道で突きを撃つ箇所、逆鱗という言葉が当てはまるかはわからないけど、恐らくはそこがドラゴンの弱点だ。そこを突けば、屈強なドラゴンでも気絶するはず――。


 問題は、どうやってあそこに触れるのかってこと。


 ワイバーンは常に数10mの高度を飛んでいる。対して、こっちには高度10m以上への攻撃手段はない。空からの一方的なブレス攻撃を防ぐ手立てすら持っていない。


 何とか地面に引き摺り下ろせれば――。


 ミルフェちゃんの投石の出番?

 でも、相手はドラゴン。凄く硬い鱗がある。多分無理だ。


 こっそりバレないように階段を探す?

 いや、多分1階と同じく、階段はボスを倒さないと上れない仕様だと思う。


 餌で(おび)き出す?

 ダメだ、餌になるような動物は全く見当たらない。


 どうしよう、どうすればいいの?

 考えよう――冷静に、冷静に、冷静に。


 目を閉じていると、2人の何気ない会話が聞こえてきた。


「やっぱり、他の魔物は全くいないよね」

「全部ワイバーンが喰っちまったか?」

「それじゃ、もうお腹が一杯かしら」

「違いねぇ。腹一杯でお昼寝だ」


 昼寝、巣穴――そうか!


「よし、山頂まで登ろう」


 ボソッと呟いたボクを、悲痛な顔が見つめる。


「え? これ以上登ったら目立っちゃうよ!」

「あぁ、見つかったらブレスで消し炭だな」

「山の上に巣穴があるはずだよ。階段もきっとそこにある」

「巣穴の中で戦いになったら勝ち目はないぞ?」

「うん。戦うとしたら、外になると思う」

「え……どうやってワイバーンを引き止めるの?」

「どうせ、俺を(おとり)にして――とかだろ?」

「それも考えたけど、囮としての魅力が足りない」

「考えたんか! そして酷いな!」

「2人には巣穴の中で待機してもらうね」

「うっ! お腹が痛い! 死ぬぅ!」

「リンネさんよ、作戦はあるんだろうな?」

「えっとね、今回の作戦名は――コロコロ電源OFF作戦」


 自信を持って胸を張るボクに対し、眉間に(しわ)を寄せる2人。


「よし、静かにボクに付いて来なさい!」




 ★☆★




 約5時間後、ボクたち3人は山頂に到達した。


 標高は1000m以上、1500m未満ってところか。綿飴のような雲が手の届きそうな所を泳いでいる。

 迷宮の外は既に真っ暗だと思うけど、この迷宮内は1日中昼間みたい。見渡すと、遥か彼方には地平線も水平線も見える。本当にここって迷宮の中なのかな――。


 山の中腹の適度に点在する巨岩や樹木を利用することで、何とかワイバーンに気づかれずに登りきることができた。


 予想通り、山頂にはワイバーンの巣穴と思われる洞窟が、ぽっかりと口を開けている。



 そっと洞窟の中を確認する。


 じっと耳を澄ます――。


 大丈夫、ワイバーンは居ない。


 2階層にはあの1匹以外は居ないみたい。遠くの空に黒い点が見えていたから、今も相当遠くを飛んでいるはず。



「しかし、リンネさん。なんてパワーなんだ!」

「まさかそれ、魔法なの?」


 いえ、意外と転がりますよ?

 オオグモの脚を使って、梃子(てこ)の原理です。


 うんとこしょ、どっこいしょ。


 ゴロンゴロンと1時間かけて、巨岩を洞窟の入り口に突っ込んで塞いだボクを、尊敬の眼差しで眺めてくる2人。

 洞窟の入口には、ちょうど人が身体を横にして通り抜けられるくらいのスペースができていた。



『ヒャァ!』


 山に反射して響き渡る高音――流石にワイバーンに気づかれた!


 空に浮かぶ黒い点が、猛烈な勢いで大きくなっていく!


「洞窟の中へ入るよ! 急いで!」

「うん、分かった!」

「おいっ、ケツが引っ掛かった! 引っ張ってくれ!」



 ボクたちが洞窟の中に入り終えた直後、凄い勢いで飛んできたワイバーン。低空を飛びながら、何とかその巨大な爪で巨岩を持ち上げようと、悪戦苦闘を始めている。


 ボクは、そのワイバーンの動きを巨岩の陰でじっと観察しながらタイミングを計る。

 切り札を発動するタイミングを!


 切り札――今日はまだ使わずに残しておいた《時間停止魔法(クロノス)》。

 魔力が多少上がったので、1秒より長く使えるかもしれない。


 このままでは埒が明かないと考えたのか、ワイバーンは洞窟の入口に降り立った――。


 今だっ!


時間停止(クロノス)!:最大効果6秒/1日》


 6秒も!?


 なら、余裕だね!


 岩の隙間から滑り出たボクは、巨岩によじ登り、そこから大きく飛び跳ねてワイバーンの翼に飛び移る。そして、巨体の背を駆け抜けて首周りにしがみ付いた――。


『ヒャォ!?』


 時間進行と共に激しく暴れるワイバーン。

 ボクは太い首元を必死に(まさぐ)り、例の逆鱗を探した。


 な、届かない!?


 まさか、両腕を精一杯伸ばしても届かないほど、首が太いとは思わなかった――。


『ヒャァアアア!!』


 両の翼が1度2度と羽ばたいたかと思うと、ボクの身体がふわっと浮き上がる。


 垂直急上昇が(もたら)す圧力を、ボクは必死に耐える。

 鉄棒にぶら下がるより数倍きつい!


 あっという間に雲海の遥か上空まで到達すると、飛行機は水平さを取り戻す。

 視界一杯に広がる地平線と水平線は、なだらかな曲線を描いている。あぁ、この世界も丸いんだ――。


 すると突然、上下左右に旋回を繰り返し、ワイバーンはボクを振り落とそうと暴れだした!


 天と地が視界の中で何度も入れ替わる中、ボクは両脚を首に巻き付かせたままひたすら逆鱗を探した。


「あった!」


 一か八かで伸ばした片手の中指が、微かに逆鱗を捕える!


「ごめん!」


 そこに、精一杯の力で中指を押し込む!


『ヒャウゥゥゥ!!』

「キャアァァ!!」


 空中で激しくもがき暴れるワイバーンが起こした凄まじい風圧!

 しがみ付いていた手が、脚が、首から外れてボクの身体は大空に投げ出された!


 雲海を掴む手が虚しく空を切る。

 水泳は得意だったけど、全く浮力がないここでは論外!


 そして――そのまま垂直落下運動に入る。


 米粒ほどの大きさだった物、がひっくり返されたお茶碗に、そして、あっという間に目前に迫る山頂と成る! それも、ほんの数秒で!


 あぁ、もっと恋愛がしたかっ――。



 ダイイングメッセージが口から零れ落ちる寸前、ボクの全身に衝撃が走った!


 ゴツンではなく、ポスンという感じの優しい衝撃。


 そしてゆっくりとボクは大地に降り立った。


 ワイバーンの口に(くわ)えられて――。


「えっ、助けてくれたの?」


 振り返って見上げた先には、既に光の粒となって消え去る直前のワイバーンの瞳があった。


 そして、雄大にして優雅――10mに迫る光り輝く両翼が、ボクの身体をそっと包み込んでくれていた。


「ありがとう――」


 ボクの言葉は届いただろうか。

 ボクの気持ちは届いただろうか。



「リンネちゃん!!」


 岩陰からその光景を見守っていたミルフェちゃんが、泣きながらボクに駆け寄り、抱き付いてくる。


「リンネ!」


 巨岩にお尻が引っ掛かって動けないランゲイル隊長の、ボクに救いを求める声が山頂に木霊する。


「あぅー」


 ボクは――そっとしゃがみこんで、口から悪魔を吐き出した。

 ゲロばかりですみません。次回第20話は、頂いた挿絵を挟みます。よろしくお願い致します。

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