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異世界八険伝  作者: AW
第1章 旅立ちは風のように
16/92

16.ゴドルフィン・レイザースという男

 フィーネの冒険者ギルドで冒険者登録をしたボクは、緊張した面持ちのミルフェ王女、ランゲイル隊長と一緒にギルドマスターが待つ二階へと階段を上っていく――。

 螺旋状に造られた階段は、何の意味があるのか1段1段の色が違う。階段を囲う外壁は、天井も含めて真っ赤な装飾で彩られている。

 ここは大陸全ギルドを統括する冒険者ギルドの総本部――そのギルドマスターがいる2階に、今まさにボクたちは向かっていた。


 真っ赤に染め上げられた廊下の一辺には、世界地図と思われる壁画が描かれていた。足を止め、それを眺めながら思わず呟く。


「ちょっと待って。何だか怖くなってきた」

「急がないともっと機嫌が悪くなるわよ」

「リンネさん、マスターの前では冷静にな」

「が、頑張りますです」


 緊張故に変な言葉遣いがうつってしまった。

 先頭を歩く狼耳のお姉さんが振り返り、優しく微笑む。同情なのか仲間意識なのかはわからないけど。


 彼女の案内は扉の前までらしい。用が済むと滑るように廊下を走って行ってしまった。


 金銀細工が施された(いか)つい扉の前で、ミルフェ王女が代表して入室を()う。


「お待たせしました、ミルフェです」


 しばらくの沈黙の後、渋い声が返ってくる。


「入室を許可する」



 扉を開けて、まず視界に飛び込んできたのは、壁一面に飾られた剣や槍、斧などの武具だった。

 そして、階段から続く真っ赤な装飾を背景に、ヴェルサイユ宮殿もかくやと思われる豪華絢爛(ごうかけんらん)調度類(ちょうどるい)が美を競い合っている。

 部屋の奥に置かれた大理石風の事務机が色彩的に際立つ。

 そこに、赤髪を無造作に伸ばす武人然とした壮年男性が座っていた。


 第一印象=眉毛が太い。


 眉毛さんは、机上(きじょう)に山と積まれたの書類から、目線だけを上げ、視線だけで指示を出してきた。ボクたちに来客用ソファーに座るよう伝えたいらしい。


 第二印象=態度が悪い、威圧感が凄い。


 ボクたちはソファーに座る前に、横一列に並んでキチンと挨拶をする。


「遅れてすみません」

「マスター、久し振りです」

「初めまして、リンネと申します」


 眉毛が席を立ち、ボクたちの向かいに座る。


 第三印象=背が高い、筋肉が凄い。



「ランゲイル久しいな。ミルフェ王女、このチビが勇者か? 俺がギルドマスター、ゴドルフィン・レイザースだ」


 挨拶も早々、ボクに向けて品定めするかのような視線を放ってきたこの赤髪――雰囲気が只者じゃない。


「はい。王宮秘蔵の召喚石に選定されています」


 ミルフェちゃんが珍しく緊張している。


「リンネ、といったか。お前は勇者がどんな存在か知っているのか?」


 これがいわゆる、圧迫面接というものなの?


「はい。エリザベート様から伺ったのは、1000年前に現れた魔王を封印した存在、それが勇者だと」


「それで、お前にはその力と覚悟があるのか?」


 はっきり言って、勇者だって自覚はないよ?

 でも、この場でそれを言ってしまったら、ミルフェちゃんたちを裏切ることになる。


「力はありません。でも、強くなろうという意志はあります。どんなに辛いことがあっても、使命を貫く覚悟もあります」


「強さとは何だ?」


 エリ婆さんにも訊かれた質問。この世界で流行っているのかな。でも、この人に同じことを答えて通じるとは思えない。

 だから、当たり障りのないことを言おうとしたとき、ミルフェちゃんが立ち上がって強く言い放った。


「ゴドルフィン様、これは我々の世界の都合です。それを強要することなどできません!」


「リンネ、強さとは何だ?」


 目の前に屹立(きつりつ)する王女を歯牙(しが)にもかけず、射貫くような視線をボクだけに向けてくるギルドマスター。

 答え次第ではこの場で殺されそうな威圧感を感じる。


「強さとは、平和を(もたら)すための力だと――」


 ザシュッ!


「ひっ!?」

「むぅ……」

「……」


 突然、腰の長剣を床に突き刺すギルドマスター。

 ミルフェちゃんは驚いてソファに座り込み、ランゲイルさんは目を背けて苦しそうな表情を浮かべる。対して、ボクは終始無言で目の前に座る大男を睨みつけていた。


「平和を齎す力とは、何だ?」


「それは――優しさ、です」


 ドガッ!!


「「…………」」


 ボクと彼の間に置かれていたテーブルが、瞬時に持ち上げられて壁に叩きつけられた――。


「お前がどんな糞な世界から来たかは知らねぇし、興味もねぇ。だがな、ここは殺すか殺されるかの地獄だ! そんな甘ちゃんな論理が通用するもんかよ!!」


 目の前で吼える獅子のような男を前に、普通なら(おび)えて謝罪するかもしれない。

 でも、ボクは覚悟を持ってここまで来たんだ。命を奪うことで強くなる――この世界の創造者が作ったルールになんて従うもんか!

 そう思うと勇気が湧いてくる。ボクのなかのお父さんが、お母さんが、負けるなって応援してくれるみたいだ。


「ボクは、皆を守る! 守るためには強くなる必要はあるけど、そのために誰かの命を奪うことはしない!」


「生きる以上、必ず生き物の魂を奪うのが摂理だ。食べ物は何だ? 歩くとき、息を吸うとき、微生物すら傷つけていないと断言できるのか? はぁ!? 命を奪わないだと? そんな詭弁、ケツが(かゆ)くなるから聞きたくもねぇ!」


 現実は確かにそうかもしれない。小さな虫にも五分の魂なんて綺麗事を言うつもりはないけど、この男に誤魔化されるわけにはいかない。


「詭弁はそっちでしょ! ボクは強くなるためにって言った! 生きるために命を奪うのは確かに世の摂理だし、食物連鎖を否定する気はないよ? ただ、魔力を上げるためだけに魔物や亜人、妖精種を殺すのはどうなの? 彼らにだって大切な家族がいるんだよ?」


 エリ婆さんがエリ村にいた理由は何となくわかっていた。あそこは魔物は入れないけど、人間は入れる。恐らく過去に多くのエルフが攫われたんだ。きっとエルフを守るためにあの人は目を――。

 それに、このギルドにも亜人のお姉さんが居た。ギルドは亜人を守る立場にあると言っているようなもの。きっと、この人にボクの真意は伝わったはず。


「ふん、では質問を変えよう。お前が守るものは何だ?」


「人間だけじゃない。亜人や妖精さん、精霊さん、それに善い心を持った魔物も守りたい――」


「お前は馬鹿か! 魔物を守るだと? ならばお前は何と戦うってんだ?」


「この世界を創った者だ!!」


「なっ!?」

「リンネちゃん!?」

「おいおい……神を敵に回すってのかよ」


「こんなこと、誰かに言ったのは初めてだよ。でも、嘘じゃない。最初の動機は、ボクを騙してたくさんの命を奪わせたことへの怒りだった。でも、今は違う。この世界を救うために、そのためだけに神と戦おうと決めたんだ」


 口をポカンと開けたままの3人。

 神なんて存在、ボク自身もあんなことがなければ信じていないよ。見たこともない存在だからこそ畏怖の対象になるんだって聞いたことがある。

 でも、ボクはそれらしき光に1度出逢った。あんな力と戦うこと自体は想像できないし、勝てるわけもないと思うけど――ボクは独りじゃないんだ。仲間が助けてくれればきっと!


「――口だけだな。ガキは理想論ばかりで現実を知らん!」


「信じるかどうかは任せますが、ボクをこの世界に導いた存在に言われたことがあります。この世界の創造者は世界を壊すことに快楽を求めている、そして、この世界は地獄だと」


「はっはっは、地獄か。まさに言い得て(みょう)だな! だが、神が滅べば世界も滅ぶんじゃないのか?」


 あ、それは考えてなかった――。


「どうせリンネちゃんだし、神様も殺さずに改心させますわ!」


「あはは……」


 もう、苦笑いしか出ない。

 でも、ミルフェちゃんの一言でこの場の緊張感が一気に吹き飛んだ。ありがとう。



「茶だ! シャンリィ、茶を――」

「はい。頃合いかと思い、お持ちしております」


 狼耳のお姉さんの声が返ってきた。片手で器用に扉を開け、カップを4つ持って入室してくる。

 あまりの対応の早さに、ギルドマスターも苦笑いしていた。


「皆さん、お疲れ様です。どうぞお召し上がりください」


 差し出されたお茶を、4人が同時に口に運ぶ。

 コトコトとカップが揺れて、床にお茶が零れる。

 緊張で手が震えているのは誰?


「旨いな!」

「美味しいです」

「はい」

「そうだろう? これは王国最高級の茶葉を――」

「いいえ。貴方の分だけは、今朝近所の露天で購入した安物に、雑巾絞り汁を混ぜて作りまし――」

「ブフォ!!」

「「……」」


 お姉さん、ありがとう――。




 ★☆★




「ふぅ。ミルフェ王女、合格だ」

「良かった――」

「えっ? どうしたの!?」


 いきなりボクに抱き着いてきたかと思うと、泣き出してしまうミルフェちゃん。


「うぅ……リンネちゃん、ごめんなさい」

「俺からも謝らせてくれ。この人、ギルドマスターゴドルフィンとは、こういう男だ」

「えっと、どういうこと?」


 ゴドルフィンは、ボクたちを楽しそうに眺めている。


 どうやら、この男は人を試すことが好きらしい。

 脅迫、挑発、罵倒――試すにはどんなことでもするそうだ。本人曰く、人間は窮地に立たされた時にこそ、素が出るので、そこまで追い込んでから見極めるべきなんだってさ。それで、ミルフェちゃんとゴドルフィンは共謀したそうだ。しかも、ボクを試すついでにあるモノを賭けて。


 それは、フィーネ迷宮の調査特権――未だ前人未踏の国家機密とされる迷宮、そこに入るだけでなく、道中の宝を獲得する権利。


「ゴドルフィン様、私の勝ちでいいわね?」

「あぁ、構わねぇ。だが、俺から1つだけ条件を付けさせてもらうぜ」

「えっ? そんなの聞いてないわよ!?」

「だってよ、迷宮は“優しさ”だけで攻略できんのか?」

「「……」」


 痛い所を突かれたボクたちは、ぐうの音も出ない。


「どちらか1つ選べ。明日中に2人ともEランクに上がるか、それとも――3人がかりで俺と戦って勝利するか」


「「Eランクの方で!!」」


 初めてボクたち3人の意見が揃った気がする。


「詰まらねぇ! ランゲイル、お前はいつになったら男になるんだ? ミルフェ王女も魔力だけ高くて(ろく)に魔法が使えねぇし、リンネはギベリンを倒した気概を見せろよ」


「引退したとは言え、元Sランク冒険者に勝てるわけないですよ」


 Sランクって、全冒険者の頂点じゃん!!

 危ない、もう少しで殺されるところだった――。


「床の亀裂、壊れたテーブルや壁、誰かがお茶を吹いて汚した絨毯――お給料からたっぷりと天引(てんび)きしておきますからね、マスター」


「シャンリィ、さん……もう2度と壊さないから許してくれ!」


 どんなに強くても、冒険者というのは結局のところ受付嬢には敵わないんだね――。




 その後、ボクは今回のゴブリン騒動の件を全て正直に伝えた。


 フィーネの町に魔物の子が放置されていたことも3人を驚かせたけど、ボクが単身で大群に乗り込み、ゴブリンキングと友達になって森に帰ってもらったことを伝えると、3人ともソファから転げ落ちてしまった。


 異世界でも共通のこういう反応を見ると何だか嬉しくなるよね。そして、それ以上に嬉しかったことは、ランゲイルさんの証明が全く必要ないほど、全員がボクの発言を信用してくれたことだった。


「勇者リンネ、友達は選んだ方が良いぞ」

「私もそう思うわ」

「俺は、友達はできるだけ可愛い方が良いな――」


 感想をスルーし、西の王国からの使者がエリ村に来たことと、その際の騒動についても話す。その後、交易場での出来事と、魔人との遭遇の件についても言及した。


「西の王国と魔人が繋がっていたなんて」

「その件はギルドを通じて情報を集めよう」

「お願いします」

「ところでリンネさんよ、魔人に突っ込んでどうするつもりだったんだ?」


時間停止(クロノス)》のことは伏せて話したんだけど、案の定、魔人を見つけて追い掛けたボクの行動に、全員の非難が集中した。


「戦うつもりはなかったんだけど――」

「魔人はゴブリンキング100体でも勝てんぞ?」

「まさか、魔人とも友達になるつもりだったの?」

「ううん、それはさすがに気が重い――」

「違いねぇ!」

「「ははは!」」



 最初は剣呑(けんのん)なムードで始まった会談だったけど、最後には笑顔で握手するまでになった。


 「これからもご協力お願いします」という気持ちを込めて、思いっきり強く握り返してやったけど、見事に潰されてしまった。


 物理攻撃は避けないと《攻撃反射(カウンター)》が発動しないのが残念だよね――目に涙を浮かべつつ、右手を擦りながら部屋を出る。


 今日はギルドが用意してくれた宿に泊まり、明日の朝からクエスト開始だ!

【後書き】

 銀の召喚石を受け取った時から百日後に魔王が復活するそうです(ソースは謎の声)。因みに、ロンダルシアに来てから今までの経緯を纏めると――。

一日目:最後の審判で地獄の世界へ→村で歓迎会→森で初戦闘

二日目:一日中頑張ってクロノスとカウンター習得→アユナ宅

三日目:早朝村を出て盗賊戦→交易場→ゴブリン→眉毛と会談

リンネさん、結構忙しいですね……。

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